
もともと、地上デジタル放送は業界が時間をかけて取り組んできたプロジェクトだ。電波法を2001年7月25日に改正施行した際に、地上放送デジタル化及びアナログ放送の期限を「施行から10年を超えない期間」とし、2011年7月24日に決定。2003年12月1日に東京・名古屋・大阪の三大都市圏でアナログ放送とのサイマル放送*4 の形で、地上デジタル放送が開始された。
地上デジタル放送を開始した理由は、アナログ放送において電波の周波数帯が足りなくなったことが挙げられるが、上智大学文学部新聞学科の音好宏教授はそれに加えて「通信は全部デジタルなので、放送もデジタルになることで、他のメディアとの融合がしやすかったことが大きい」と語る。加えてアメリカやイギリスが1998年に一足先に地上デジタル放送を開始するなど、“地上波のデジタル化”が“世界的な趨勢”だったことも挙げられるだろう。
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上智大学教授・音好宏氏 |
このように “国策”としてスタートした地デジ化への流れ。しかし社団法人日本民間放送連盟(民放連)のデジタル推進部長・渡辺昌己氏は「当初、地デジの開始には民放連のなかでも慎重論があった」と話す。それでも放送局側もスタジオや中継局の設備投資など、計画も含めておよそ1兆600億円もの費用を投資しており、すでにその8割を費やすなどして、対応してきた。
そもそも多くの中継局を建てること自体、困難な話だ。総務省情報流通行政局地上放送課課長補佐の原田秀雄氏は「2006年12月に全視聴世帯の84%をカバーすることができた。その後2010年の12月には98%の世帯数をカバーすることができたのだが、その4年間で14%をカバーするための中継局を建てることが困難だった」と胸の内を明かしている。
一方、ケーブルテレビの貢献も見逃せない。視聴者である国民は、地デジ化にあたって、アナログテレビをデジタルテレビに買い替える前に受信方法を決める必要がある。家屋自体に地上デジタル放送用のアンテナを建てるのか、光ケーブルを使うのか、ケーブルテレビを使うのか、基本的にはこの3つの選択肢がある。社団法人日本ケーブルテレビ連盟(JCTA)第1業務部第2グループ長の山本学氏は「2003年に地デジがスタートした時からケーブルテレビを選択した視聴者に向けて不自由なく地デジが見られるよう技術的な対応を含めてきめ細かなフォローをしてきた」と説明する。
そして、地上デジタル放送の普及を後押ししたのが、デジタルテレビや地デジチューナーの廉価だ。当初数十万円もする地デジ対応テレビが、数万円まで値下がりした。総務省・原田氏は「全国的に視聴できる環境が整ったということが大きい」と話している。
今後、2011年7月24日までの取り組みとして、総務省は前出の「新たな難視聴地域」のうちの52,056世帯に対して中継局をつくることを急ピッチで進めている。またアナログ放送停波後も衛星放送(衛星セーフティネット)を用いた世帯の「暫定的な対策」から、中継局を建設するといった「恒久的な対策」にしていく構えだ。辺地共聴や受信障害対策共聴などについても7月24日までに間に合わせるようにし、もし間に合わなかった場合は衛星セーフティネットなどの対策を考えていく。
ただ、「絶対難視」地域については2011年7月のアナログ停波後、視聴が困難であることは確実。そのため、BSデジタルチューナーの貸し出しや、受信設備に必要な費用の助成といった対応を行う(2010年6月決定)。総務省の原田氏は「『絶対難視』の地域についても将来的に地道に中継局を建てるなどして視聴世帯を限りなく100%にしていきたい」と説明する。
もちろん、地デジに関しての視聴者への積極的な働きかけや視聴者側の参加が大前提となる。周知活動についてデジサポ*5(総務省テレビ受信センター:全国51箇所)は、地デジに関する情報が受け取りにくい高齢者・障害者などの未対応世帯である視聴者からの相談に対応する「地デジコールセンター」を7月より1,000人規模に増やすなど、手綱を締めていく。
一方、ケーブルテレビでも視聴者の地デジ対応へのフォローに余念がない。総務省はケーブルテレビ事業者に対して、「デジアナ変換」の要請を行っている。これは2011年7月24日のアナログ放送終了後も、地上デジタル放送をアナログ方式に変換して再送信するサービスのこと。実施期間は2011年春~2015年3月末日までで、既にケーブルテレビ大手のJ:COMを始め300社以上が対応を決定している。JCTAの山本氏は「テレビ2台目以降の買い替えや難視聴施設のデジタル移行のためにも業界として協力していきたい」と話している。
これらの取り組みに関しては「残りの期間に、総力を挙げて、限りなく100%に近づける努力が必要。ただ、あまり語られていないが、日本の地デジ化への対応は、アメリカなどの先行事例に比べると、丁寧にやっているのも確か」と上智大の音教授は話している。米国ではおよそ300万世帯を残してデジタル放送を推し進めた経緯もあるからだ。
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