Bookshelf ~今月の本

「おしん」とその世界(2)

「おしん」とその世界

 
 

 
 

このエントリーをはてなブックマークに追加
2013/11/14

リアル「おしん」がいた!


戦後にもあった、女中奉公の体験記
戦後にもあった、女中奉公の体験記

 おしんは、米1表で1年間の奉公に出された。前金で子どもの家庭に1年分の金や米が渡され、商売を覚えるための丁稚奉公を始め、裕福な家庭の子守や家事手伝いなどをこなす――。かのパナソニック創業者・松下幸之助も丁稚奉公をしていたことで有名だ。


 今ならさしずめ「児童労働」に該当するであろう。が、江戸期から戦前までは、地主から土地を借りて田畑を耕す小作人の子供が、年季奉公で家を出る光景は、特別なものではなかった。


 住み込みで働き通し、お使いや店番、女子の場合は子守や炊事などを任される。食事も主人が終わってから頂く。朝は早く、休みは「藪入り」と言われる正月と盆の2日間、というのが一般的だ。かなりのハードワークである。明治以降は産業化により、『ああ野麦峠』に描かれるような昼夜12時間、紡績工場で働くケースも多くなる。「おしん」では、おしんの姉が紡績工場に奉公へ出され、過労の末、結核を患って亡くなった。


 『女中奉公ひと筋に生きて』は、過去の遺物というイメージの奉公生活を送った、昭和生まれの筆者が書いたもの。15歳の時に大地主の家へ女中奉公したのを皮切りに、様々な職をこなしながら「プロの家事手伝い」として、渡り歩いた半生を紹介した物語だ。


 本の紹介には「人間の裏の裏まで」見たと書かれている。著者が産婦人科の開業医で家事手伝いをしていた時、母親の再婚相手に妊娠させられた中学2年生が連れられてくる話など、深刻な話もある。しかし、どちらかといえば著者自身の半生を中心に書かれている。有名作家や俳優の邸宅の描写はいたっておだやかなもの。なので、「奉公先」でのスキャンダラスなシーンを期待していると肩透かしを食らってしまうかもしれない。

>>明治はどんな時代だったのか?