セミナーレポート
日本のR&Dの行方を占う
JEITAのIT・エレクトロニクス技術戦略シンポジウムが開催
R&Dとは、企業の研究(Research)・開発(Development)部門のこと。2011年は東日本大震災、そしてタイ・バンコクにおける洪水など、ITを支える半導体など多くの工場が被害に遭った。
一方ではデバイスやネットワークインフラの発達によって、通信量は倍々ゲームのように増えている。2011年11月28日に行われたJEITA(電子情報技術産業協会)が行った「IT・エレクトロニクス技術戦略シンポジウム2011」では、日本が目指すべき「技術の売り方」について講演がなされた。
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日本の目指すべきビジネスモデルが模索された |
学術と実用の研究連携不足が日本の弱点
個別の技術には強いが、なかなか世界を相手にしたビジネスが成功しない日本。冒頭で講演したJEITA技術戦略委員会の須藤亮委員長は「サービスやデバイスなどを一貫させて日本がなすべきことを決めるべき」と強調し、須藤氏は低消費電力技術、将来高齢化社会を迎える新興国も含めて予防医療技術の強化を訴えた。
日本が世界に太刀打ちできない原因の1つには、学術などの基礎研究と、その結果をビジネス化するまでの事業化研究の連携がうまくいっていないことだ。経済産業省商務情報政策局の内山弘行氏は「米国は国防総省、国立衛生研究所などが学術・実用の予算を一本化しているが、日本は省庁別の予算編成であるため、連携が取れていない」と指摘した。
企業のR&Dへの投資も、2008年のリーマンショック以降低迷している。2011年も震災や円高の影響でさらに投資割合は下がると予測されているという。投資の内容も、新規市場開拓を視野に入れた10年程度かかる研究開発よりも、既存技術の改良が重視される傾向にある。
先行きは暗いが、経産省と文科省は合同検討会を2011年10月に設置。基礎研究から実用化研究まで一貫して推進する体制作りを目指している。この中で現在進められている研究は、自動車や家電製品で利用するモーターにレアアースを使わずに製造できる「高効率モーター」や、サーバの電力消費を抑えるための光配線によるハードウェアの開発などがある。
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経済産業省の内山氏 | 九州大学の安浦氏 |
技術開発のスタンスも変化
技術には強みを持つ日本が、どのようにすれば市場を席巻できるのか。九州大学副学長の安浦寛人氏は、「何ができるか、よりもどうあるべきかを考えることが重要」と述べた。
九州大学では、2002年から学生・教職員共通のICカードを導入、セキュリティレベルが異なるサービスを1枚のカードで処理している。現在は地方都市での実証実験や、50万人規模の地方都市でのシステム採用に向けて活動している。
九州大学のIC技術を利用したシステムは、バングラデシュのグラミン銀行でも導入が進められている。同銀行の無担保少額融資「マイクロファイナンス」の入出金管理は、ICカードを利用した電子通帳システムで行われている。コストのみを考えれば磁気カードの方が有効だが、土埃に弱い磁気カードよりも布で拭いても使えるもの、ということでICカードの採用になったという。
安浦氏は「どのような社会づくりを目指すのか、そのために必要なサービス・製品は何か。これがあって初めて技術開発を行う『社会主導型』の研究開発が必要である」と主張した。
これまでの日本は、技術自体に特化して研究開発を行ってきた。結果、個別技術の進歩は見られたものの、市場を海外に広げる発想はなかなか根付かずにいた。しかし、新興国市場は先進諸国が国を挙げて狙いを定めている。
官民によるトップセールスなど、国家規模でのプロジェクトも大切だが、1000億円を投じたにもかかわらず、中国にシェアを奪われた日本の太陽電池プロジェクトの二の舞もあり得る。
安浦氏の言葉の繰り返しになるが「何が作れるかではなく、どうあるべきか」からスタートしなければ、世界に売れる物は生み出せないだろう。
【セミナーデータ】
- イベント名
- :IT・エレクトロニクス技術戦略シンポジウム2011
- 主催
- :一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)
- 開催日
- :2011年11月28日
- 開催場所
- :大手センタービル(東京都千代田区)
【関連カテゴリ】
IT政策