セミナーレポート

日本の知財・技術における環境変化と研究開発の重要性

日本知財学会がシンポジウムを開催

2011/12/12

 日本知財学会の2011年秋季シンポジウム「経営貢献を目指した研究開発マネジメント~知的財産の視点を含めて」が2011年11月28日、機械産業記念事業財団(TEPIA)ホールにて開催され、研究開発の役割などについて講演が行われた。

 冒頭ではTEPIAからの表彰が行われた。TEPIAでは知的財産分野における、学術研究の一層の進歩のため、実社会における知的財産の課題解決や、将来の指針を与える研究計画を支援する助成事業を実施している。25件の応募のなかから北海道情報大学准教授の金間大介氏の「研究者の知識創造性を高めるモチベーションの研究」など3件を助成対象者に選び表彰を行った。

助成対象者への表彰の様子
助成対象者への表彰の様子

日本の知財や技術力を取り巻く環境


 講演では、大阪工業大学大学院知的財産研究科の岡本清秀氏は、日本の知財や技術力を取り巻く環境の変化について説明した。例えば、産業競争力の面では日本が1位を享受するなど、エレクトロニクスの輸出産業の面で先陣をきってきたが、2009年の時点で中国が圧倒的首位となり、米国・韓国に抜かれている。開発力の面でも、中国の開発費は企業の急成長とともに近年急成長している。かたや日本では技術貿易が推移し、国内開発、海外生産傾向、国内生産の「空洞化」が叫ばれている。


 また、米国の特許の登録件数のランキングをみても、1996年に10位以内をキヤノン、日立、三菱電機などの日本のメーカーが8社も占めていたが、2010年には4社と減少し、サムスンなどの韓国、台湾の企業の台頭が目立つようになった。


 岡本氏はこうした背景をふまえ、特許の経営投資効率のマネジメントに目を向け、研究開発と事業と知財の連携によって事業収益を高める「特許の戦略的な活用」を提唱。「自社における将来の事業実施や、競合の事業実施を見据えた特許取得が必要。また、海外での特許取得、なかでも米国での特許取得が事業の成長のカギを握る」と力を込めた。


 こうした特許戦略は研究開発に重きを置いた経営があってはじめて成り立つものだ。 一橋大学イノベーション研究センター教授の長岡貞男氏は、様々な研究プロジェクト関する日米の比較を行っており、その成果について報告した。それによると、日米とも大半の研究者は研究開始時に競争の有無とその程度をよく認識していることがわかった。一方で、日本の研究者には海外の競争相手の方が重要であり、米国の研究者には国内の競争者が重要であるという結果が出ている。


 さらに長岡氏は「日本の科学者は研究プロジェクトへの着想を得るのに重要な知識源として文献や人との出会いが大切」と、その研究結果から定義。さらに科学の進歩の方向を見据えるとともに野心的な目標の設定、多様性の高い研究チームの形成など、研究マネジメントの在り方がその後の知識生産に大きな影響を与える可能性が示唆されることを明らかにした。

一橋大学イノベーション研究センター教授の長岡貞男氏   国立情報学研究所 特任教授・今井和雄氏
一橋大学イノベーション研究センター教授の長岡貞男氏   国立情報学研究所 特任教授・今井和雄氏

 一方、国立情報学研究所特任教授の今井和雄氏は「ICT事業における研究開発」について講演。自身がNTTドコモ総合研究所にいたときに米国・シリコンバレーで通信に関する研究を行い、研究開発の目標としてモバイル通信の高度化・効率化や3G回線の対応、マルチメディア化の台頭などを掲げて取り組んだことを説明した。


 同氏はiPhoneをはじめとしたスマートフォンの登場について言及。付加価値がハードからソフトへと移行したこと、端末自体が“ケータイ”から“モバイルコンピュータ”に移行したことなどによって「ケータイのパラダイムシフト」だと説明した。


 また今井氏は、自身がシリコンバレーの研究から学んだ研究開発活性化について、「山のような失敗体験とすばらしい素晴らしい成功体験や、経験知識を共有・伝搬させるコミュニティ、新たなチャレンジを応援する風土が必要」と指摘。また、生産性の高いR&D(研究開発)を行うためには、「組織を超えたコミュニティづくりなどで社内の壁をなくしていくことに気を配ってほしい。また多くの日本人を現地に派遣し技術力を磨くなど、グローバルな人材を育てなければならない」と訴えた。


 岡本氏の話す通り、エレクトロニクス業界では日本企業の存在感が薄れ、中国・韓国の 台頭に目を奪われる機会が多くなり、日本における産業の空洞化が問題視されるようになった。この状況を打破するためには、良質の研究開発が必要不可欠だ。円高で苦しむ昨今の困難な環境であるが、足元の技術を固めることが将来の発展につながることを再認識することができた。

(山下雄太郎)

【セミナーデータ】

イベント名
:日本知財学会2011年秋季シンポジウム
経営貢献を目指した研究開発マネジメント ~知的財産の視点を含めて
主催   
:日本知財学会
開催日  
:2011年11月28日
開催場所 
:機械産業記念事業財団(TEPIA)ホール(東京都港区)

【関連カテゴリ】

IT政策その他