セミナーレポート

非常時にも資料を守り抜く技術

震災時の混乱を踏まえて改めて資料保全を考える

2011/11/10

 2011年10月25日、東京都墨田区の江戸東京博物館にて、第5回資料保存シンポジウムが開催された。本シンポジウムは、書籍のデジタル化、スキャニングなど、紙で存在している媒体の情報を保護する技術をはじめとして、さまざまな資料保存関連の技術を持つ民間企業の団体「情報保存研究会」らが主催するシンポジウムで、今年で5回目になる。今回のテーマは「資料を守り抜く―平時も、非常時も―」。3.11の大震災を背景に震災などの非常時に際して、いかにして貴重な資料を残していくか、という点に焦点が当てられた。

東北大学東北アジア研究センター教授の平川新氏
東北大学東北アジア研究センター教授の
平川新氏

震災を踏まえた対策


 東北大学東北アジア研究センターの平川新教授は、実際に被災地にいた立場から「災害時における資料保存の必要性」について講演した。


 歴史的研究価値のある資料の多くは、個人宅に残されている。それは江戸時代に、村の庄屋の私邸が役場として機能していたためで、当時の人数改帳や検地帳などの文書は、庄屋の子孫の個人所蔵となっている場合が多い。


 しかしこのような資料を個人で所蔵している場合、大抵が行政から文化財保護法で指定されておらず、保存や継承に課題点が残っている。そのため災害に際して処分してしまったり、あるいは世代交代や改築などの際にも廃棄処分や古書店へ売却で焼失・散逸してしまうケースが後を絶たない。


 このような実態に対して、平川氏は「宮城資料ネット方式」というデジタル撮影による、地道な資料保全活動を行っている。これは、資料館の文献や現地での聞き込み・確認などをしながら、訪問すべき家のリストを作り、実際に訪問後、訪問先の資料の詳細リストを作成し、最後に詳細リストを元に写真によるデータベースを作っていく…というかなり手間・根気のかかる作業だ。


 平川氏は、震災前のかなり前からこの地道な保全活動を続けており、結果として3.11に際し、元の文献は失われても、資料の情報は記録に残すことに成功している。そのため平川氏は「(資料をデジタル化し保存することは)歴史資料を残していくためにも、国家事業として取り組むべき課題だ」と強く訴えた。


 ARMA International東京支部の会長・西川康男氏は、昨年の7月に公布された公文書等の管理に関する法律(公文書管理法)と施行後の対応状況について話をした。この法律は、各府省の意識の希薄さや公文書館への移管が進まないなどの問題点から、国の行政機関などを対象として、公文書などの管理を明確にルール付けたものだ。


 同法は地方自治体に対しても、努力義務規定が課されており、これを受けて各自治体は、法律に則した条例の制定に向けた研究会などを開いている。研究会では条例における「保存」にも電子化に関する記述を視野に入れており、公開の方法や脆弱性、すでに電子化を進めているところとの整合性など調整をしている。


 また同法の公布後に起こった東日本大震災では、物理的な損壊により、行政のもつ住民基本情報や戸籍データ、医療機関のもつ紙のカルテ、企業が持つ経営上の重要なデータなどの多くの情報が消失し、大きな混乱をもたらした。そのため西川氏は法律の施行を含め「文書・情報・記録管理の重要性がいま見直されている」と話す。法律で決められた統一的な基準に、災害時の対処を含め、さらなる検討が求められる。

ARMA International東京支部の会長・西川康男氏   渋沢栄一記念財団の松崎裕子氏
ARMA International東京支部の会長・西川康男氏   渋沢栄一記念財団の松崎裕子氏

消えゆく組織アーカイブ


 ほか、渋沢栄一記念財団 実業史研究情報センター企業資料プロジェクト担当の松崎裕子氏により、「社史」などといった企業資料の長期保存に関する講演があった。松崎氏は「現在、日本は不景気下にある影響で、目に見える形で利益を上げないところに資金を投入しないため、社史などの編纂が社内に理解されないケースが多い」と訴えた。


 しかし企業に関する資料は、会社史研究や経済史研究に重要であるという公益性や、近年求められがちな「コンプライアンス」「説明責任」などの社会的な要請に対して大きく寄与できる。さらに企業によっては、社史を研究することで社内教育研修への貢献やブランディング支援などに役立てている例もあるという。


 松崎氏は「利用・活用することが結果として(目に見える形で利益を上げない)アーカイブズの組織的な地位を確立され、資料が長期保存されようになる」とし、企業資料を残していくためには、企業資料を編纂する部門からも、組織内に対してアーカイブズの活用を積極的に働きかけていく必要がある、とした。


 平川氏、西川氏、松崎氏の講演のあとには、資料保存に関する技術を持つ企業がプレゼンテーションを行った。マイクロフィルムの長期保存や、正確な資料のデジタル撮影、紙資料の修復など、資料保全には欠かせない多彩な技術が紹介された。


 会社の資源は、むかし「人」「物」「金」と言われていた。しかし現代ではこれに「情報」が加わって「四大資源」と言われるほど情報の価値は認められてきている。重要な情報を残すための「資料」保全に、さらに取り組んでいく必要があるだろう。

(井上宇紀)

【セミナーデータ】

イベント名
:『第5回資料保存シンポジウム「資料を護り継ぐ―平時も、非常時も―」』
主催   
:情報保存研究会(JHK)
開催日  
:2011年10月25日
開催場所 
:江戸東京博物館(東京都墨田区)

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