
コンテンツのデジタル化により、その表現方法は大きく変わってきた。国際大学GLOCOM客員研究員でコンテンツ産業に深い造詣を持つ境真良氏に、電子書籍を中心にこれからのコンテンツ産業のあり方について伺った。
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国際大学GLOCOM客員研究員 境真良氏 |
―米国では電子書籍化が進んでいますが、日本ではいまいち、ふるいませんね。
境氏:まず、電子書籍を「紙で出ている本を電子にしたもの」と定義した場合でお話します。電子書籍が普及している米国と日本では、本の流通構造が異なります。
米国は売り切りの形で本屋に並び、ディスカウントもありますが、ある程度規模の大きい町でないと本屋がありません。そのため、米国の場合は流通網などの関係からネットワークを通じて本の電子版という「本の亜種」を購入したいというニーズがあります。
日本の場合は再販価格維持制度(以下、再販制)があり、本屋での安売りができないかわりに、売れ残った場合は出版社が売れ残りを回収します。本屋側のリスクが少ない日本は小売店数が多いので、本を買おうと思ったらすぐに手に入りますし、マンガが読みたければマンガ喫茶があって、あまつさえ送料無料のアマゾンもある。このような日本で果たして電子書籍を購入するニーズはあるのか疑問です。
―電子書籍ならではの利点などはいかがですか?
境氏:付箋をはさむ、パラパラとめくることができるなど、単品で見た場合の使い勝手は、紙の方が良いとされています。
電子書籍の利点として「電子書籍を使うことによって紙と製品代、倉庫代、輸送費がかからず、本がもっと安くなる」というメリットが挙げられます。しかし、実際に圧縮できるのがせいぜい30%~40%程度。1000円の本は電子書籍になっても700円くらいにしかなりません。しかし紙で1000円でている本を、700円のデータで読者が買うかどうか? というとなかなか難しい。
日本の再販制に基づく書店流通の形態が良くできていたと思います。しかしインターネットによる電子書籍の可能性は、再販制による効率性を超えてきている気がする。ですから、それを求めるなら、ある意味では、既存の採算性を度外視してインターネットとネットワークデバイスの環境に出版業界も合わせなくてはいけないのではないかと思うのです。
―単に紙を電子化するだけでもずいぶんと課題があるのですね。
境氏:それだけではありません。紙を電子化するだけの電子書籍の問題から離れ、もう少し広くコンテンツ全体の課題を話しましょう。
まずは価格の問題が挙がってきます。例えば、1995年から2000年代にかけて、コンテンツ業界にとっては困った状態になってしまいました。というのは、インターネットというWEBブラウザの向こうにある、あらゆるコンテンツは無料であるという「金銭感覚」をユーザにすりこんでしまったのです。
そのため「供給者」が「消費者」に対して「コンテンツは有料」という感覚をどう作っていくかという、「ガチガチ」したゲームをやっていたのです。日本の場合、着メロビジネスで「携帯にはお金を払ってダウンロードする」という文化が生まれました。
近年になって、スマホや様々なデバイスの出現で、インターネットの利用シーンはPC以外の幅広いデバイスに広がっています。例えば「PC上では『タダ』でも、それ以外のデバイスはでは『有料』」という「文脈」が作れれば、市場は開けます。そのため「有料でコンテンツを買う」文脈をどう作るのか、コンテンツ業界は必死になっています。
仮に有料の文脈が作れたとして、次はプライシング(値付け)の問題もある。漫画喫茶では1時間ジュースつきで200円です。ならば1週間1000円で読み放題とか、そういう値付け方が別の議論としてあります。