連載 次の60年へ 躍動するテレビの変遷史
第1回 誕生前夜 ニプコー円板と高柳健次郎
NHKがテレビ放送開始60周年を記念し、2013年2月に放送した『1000人が考えるテレビ ミライ』。視聴者と一緒にテレビの未来を討論するこの番組の中で「今のテレビに魅力を感じるか」という質問に対して「感じない」という意見が多数を占めた。しかし「テレビに未来はないか」という質問に対しては「ある」という答えが約70%を占めていた…。
インターネットの台頭によってテレビの影響力が懸念されるとはいえ、まだまだテレビが必要とされ期待されているのが実情だ。テレビが誕生して60年という節目の年が過ぎた今、これまでのテレビの軌跡を振り返り、これからのテレビを考える。
映像技術の誕生と「ニプコー円板」
テレビ誕生のもととなった「映像技術」の基礎が生まれたのは1873年の英国。光を当てると電気が流れる元素「セレン」が発見され、それを活かした「映像を電気信号に変換する技術の研究」が行われることとなった。すでに1843年、静止画を電送する装置(FAX)が、スコットランドのアレクサンダー・ベインによって考えだされており、「画像」を「送信する」という技術に世界中の関心が集まっていた。
そして、ドイツの技術者ニプコーが、テレビの実用化に向けて大きな影響を与える、「ニプコー円板」という原理を1884年に発案する。
ニプコーが考え出したニプコー円板の原理は以下の通りだ。円板に小さな穴を渦巻き状にあけた円板(ニプコー円板)がある。円板の外側から送信する画像に光を照らす。円板を回転させ、1つの穴が像の前を通過し、1本の光の線(走査線)ができる。その結果、穴の数と同じ数の走査線に像が分解される。この分解された光を、送信機にあるセレンが明るさの強弱のある電気信号に変換。ファラデー効果(磁気の大きさに応じて光量が変化する現象)を利用した受信機が、電気信号を磁気に変換、さらに光に変換して画像を再現させるという仕組みだ。
ニプコー円板を実用化したベアード
このように映像を「走査線」にして電気信号として送信し、受信側で再現するというニプコーの考え方は、後のテレビに活用されることとなる。しかし、原理は生み出されたものの、当時は光を電気に変換する装置や電気を増幅する装置に恵まれず、その技術の価値がまだ理解されていなかった。ニプコーは、1885年に特許を取得したものの、技術自体は活用されることなく15年後に特許失効となってしまう。
ニプコーの画期的な考えが日の目を浴びるのは1925年。スコットランドのジョン・ロジー・ベアードが「ニプコー円板」を採用し、世界で初めて画像の受信に成功する。
ベアードは30個の穴の開いたニプコー円板を使用し、送信機にセレンを使い画像信号に変換させた。受信機には、電圧を加えると明るさが変化するネオン管を利用。増幅器をもちいてネオン管を一様に明るくした。さらに受信側には送信側と同じ回転数のニプコー円板を用い、スクリーンに画像を再現してみせた。ベアードがこれに改良を加えることにより、スクリーンに映し出される人間の顔がわかるようになっていった。
高柳氏のブラウン管テレビ
ニプコー円板を用いてベアードが実現させた機械式テレビ。だが、ベアードの方式では十分な画質が期待できず、電子式への移行が期待されていた。これを実現したのが「テレビの父」と呼ばれる高柳健次郎氏だ。
高柳氏はブラウン管を用いた電子式テレビの開発を試みる。ただ、当時市販されていたブラウン管は蛍光面の輝度が強すぎて、テレビのような繊細な画像を映し出すことに適していなかった。ブラウン管はフィラメントが陰極から放出した電子を蛍光面にあてることで光る構造を持つが、高柳氏はブラウン管の陰極にニッケルリボンを使用。さらにフィラメントを酸化物で薄く覆うことで電子発生効率を高め、ほどよい明るさでブラウン管の蛍光面を光らせる仕組みを考えた。高柳氏はこのアイデアを実現させるために芝浦製作所(現:東芝)に依頼し、受信機の試作品をつくる運びとなった。
一方、送信機には機械式のニプコー円板を採用。このとき光源の感度が悪いという課題があったが、これには強い光を出すアーク灯を用いた。またアーク灯の発熱に耐える雲母板に墨で字を書くことにした。
この送信機に、電子式ブラウン管を用いた受信機を用いて、1926年12月25日、カタカナの「イ」の文字の送受信を実施。世界で初めてブラウン管によるテレビの送受信を成功させた。
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| ブラウン管上に映し出されたイの字(出典:静岡大学高柳記念未来技術創造館) |
「テレビの父」がブラウン管に映し出したカタカナの「イ」の字――「テレビジョン」のはじまりとなる1シーンは、その後、劇的な発展を遂げるテレビジョンの歴史を印象付けるものとなった。
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