連載「人間VSコンピュータ 10番勝負!」

2014/1/30

最終回 チェス・将棋・囲碁…仕事をサポートする「パートナー」へ

この連載が掲載された翌々月には、将棋と囲碁それぞれで「電王戦」「電聖戦」が開催される。電王戦は多数のスポンサーが付いていることもあり、結構なにぎわいを見せている。

 囲碁・将棋に関して、コンピュータと人間の対局はもはや年度末の風物詩となりそうである。最終回は、「人間とITの付き合い方」の未来を考えてみたい。

チェス・将棋・囲碁…それぞれのコンピュータコラボレーション


 ことゲームとなると、対決色が強くなってしまいがちな人間とコンピュータとの関係。これまで取り上げたチェス、将棋、囲碁はそれぞれどのような付き合い方になっていくのだろうか。


 1990年代に世界チャンピオンを破り、コンピュータが注目されたチェス。その後、FIDE(国際チェス連盟)が公式にコンピュータを対戦相手として認めてから、コンピュータと人間がペアになった対局は盛んになってきた。この形態は「アドバンスドスタイル」という形で現在は定着している。


 将棋・囲碁では、そうした取り組みはほとんど見られない。囲碁に関しては、そもそもコンピュータの棋力がトップクラスの棋士に追い付いていない。「トッププロとハンデなしの対局」自体が夢のような話で、タッグを組む、というのはさらに先の話だ。


 将棋では、人間とコンピュータの対局は電王戦が定着してきた。主催がドワンゴということもあり、プロ棋士と真っ向から対戦する様子がインターネット中継される様は注目を集めている。

将棋 電王戦の経過
将棋の対局はドワンゴ主催とあって盛り上がっている

 しかし、「アドバンスドスタイル」のような試合形式は、一過性イベントの域を脱していない。また、現役のタイトルホルダーが、直接コンピュータと対局する場面もまだない。とはいえ、ここまでコンピュータを絡めた対局が一般的になってきたのであれば、人間とのタッグマッチを前提にしたコンピュータ将棋の開発ニーズも出てくるだろう。


コンピュータとの対戦は、システム開発と一緒になる?


 これまで開発者が目指していた「強くする」という要素以外のものも必要になる。となると、コンピュータ将棋や囲碁の開発は、ともすればB2Bで行われているシステム開発に近くなってくるのではないだろうか。


 コンピュータ将棋は、Bonanzaがオープンソースとなって以降、将棋とプログラミングの双方に詳しくなくてもコンピュータ将棋の開発は格段に環境が整っている。コンピュータ囲碁にしても、「モンテカルロ法」というブレークスルーがすでにある。


 ユーザ(棋士)とベンダー(開発者)が膝を突き合わせて要件を詰め、タッグマッチ型のプログラムを組む。システム開発の根っこは、上流工程での要件定義である。単に強くなるだけでなく、使う人がいかに快適に将棋や囲碁を指したり打ったりできるか、ということがゴールならば、どんな要件になるのか、非機能要求で必要なものは何か…。などなど、


 タッグマッチではないが、「柿木将棋」はいい例である。開発者の柿木義一氏は、日本将棋連盟の特別顧問として、対局中継用のアプリ開発を担当した。このアプリはリリース後、遠山雄亮5段や、SNSで上がってくるユーザの要望に適宜対応して、利便性を高めている。


利便性の波は繰り返す


 コンピュータ将棋や囲碁での開発環境は、イノベーションの足踏みはあれども、後退はない。そのことが、コンピュータと比較してプロ棋士の存在意義を問うような空気が生まれたきっかけになっているのではないだろうか。


 「人間の仕事が機械に奪われる」という観念は、200年以上前の産業革命の只中でもあったのだろう。その不安感もあったからこそ、「チェスができる人形」としてタークが欧州中の注目を集めたのではないだろうか。


 「タイピスト」「電話交換手」といった職業が自然消滅していったように、便利な道具ができればかつての仕事が消えていく、という現象が当然のように起こっている。しかし、道具は仕事を奪うのではなく、新たな仕事のあり方を模索するチャンスでもあるのだ。野球の試合でピッチングマシンが投手の代わりにマウンドへ立つこともない。人間より数百倍もの力がある建築機材クレーンがあるからといって、「クレーンに人間の職が奪われる」と言う人がいるとは思えない。仕事のスタイルが変わるだけである。


 将棋も、アドバンスドスタイルのみならず、人間とコンピュータのタッグが「コンピュータ」と対戦する、という局面も出てくるかもしれない。「竜王」ならぬ「電王」の称号を持つプロ棋士が一般的になる日も遠くはないだろう。


 数百年の昔から続く伝統ゲームに、「IT」という助っ人が人間に代わって仕事をする。将棋や囲碁も、多少は対局スタイルや棋士のトレーニング方法も変わっていくだろう。人間とコンピュータの相互作用で、プレーヤーも観戦側も、ゲームの楽しみが一層増えることを願ってやまない。

(中西 啓)

>>新連載「躍動するテレビの変遷史」


【連載】暗号と暗号史 主な参考文献
『コンピュータ開発史―歴史の誤りをただす「最初の計算機」をたずねる旅』大駒誠一著(共立出版、2005年)
『謎のチェス指し人形「ターク」』トム・スタンデージ著 服部桂訳(NTT出版、2011年)
『人間対機械 チェス世界チャンピオンとスーパーコンピューターの闘いの記録』 ミハイル・コダルコフスキー、レオニド・シャンコヴィチ著 高橋啓訳(毎日コミュニケーションズ、1998年)
『われ敗れたり コンピュータ棋戦のすべてを語る』米長邦雄著(中央公論新社、2012年)

「人工知能学会誌」27巻5号
M-Williams,James. “Antique Mechanical Computers Part3: The Torres Chess Automaton”BYTE Bublications September 1978
RANDELL,BRIAN. “From Analytical Engine to Electronic Digital Computer:The Contributions of Ludgate, Torres, and Bush” Annals of the History of Computing Volume 4, Number 4, October 1982

http://scienceworld.wolfram.com/biography/Shannon.html

連載に当たって加藤英樹氏、瀧澤武信氏に多大なご協力を頂きました。改めてお礼を申し上げます。

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