連載「人間VSコンピュータ 10番勝負!」

2013/10/28

将棋対決・第3回 人間を超えたかに見える、将棋ソフトの弱点

コンピュータ将棋に、第1回、第2回と電王戦で対局し、負け越しているプロ棋士。第3回電王戦では、将棋ソフトが利用できるコンピュータのスペックを制限し、多少プロ棋士側に有利な状況となっている。

 コンピュータ側の歩み寄りから、今後どのように洗練されていくかが非常に楽しみである。ただ、「コンピュータが強い」という概念も一概に正しいとはいえない。今回はコンピュータソフトが陥る罠に迫る。

「詰み」を見逃したコンピュータ


 2013年に行われ、40のソフトが参加した「世界コンピュータ将棋選手権」第23回大会の決勝。BonanzaとGPS将棋が対戦した時のことである。

先手▲8九角までの局面。7六銀と指せなかった後手のGPS将棋(CSA棋譜データよりKifu for Windowsで作成)
先手▲8九角までの局面。7六銀と指せなかった後手のGPS将棋
(CSA棋譜データよりKifu for Windowsで作成)

 後手・GPS将棋の手番である。ここで△7六銀打と指せば、以後先手・Bonanza▲8八玉→△8七金→▲9九玉→△8八金打で詰み、GPS将棋の勝利=優勝となる。だが、この時7八銀と指して、まさかの「詰みの見逃し」を行ってしまう。その後も詰みを逃す場面が続き、結局Bonanzaに勝利を奪われた。


 大抵の将棋ソフトは、駒がぶつかっていない状態や、定石と言われる手順の最中を「序盤」、駒のやり取りが始まる頃合いを「中盤」と、対局の状態を判断して探索方法などを変える。「終盤かどうかの判断は、『王が見えたら終盤』『成り駒が増えたら終盤』など、ソフトによって設定はまちまちです」(CSA会長・瀧澤武信氏)。中盤以降は同じ思考パターンのままにしてあるソフトもある。


 ともあれ、将棋ソフトは中盤以降に入ると、「詰み」の状態がないかどうかを読んでから、あるいは同時並行で処理するソフトの場合は詰みを読みつつ、通常の読みを行って手を決める、というプロセスを取るのが一般的だ。


 決まったパターンの中から王手を探す詰め将棋は、コンピュータが最も得意とするところである。特に、東大のキャンパスにある学生用コンピュータ約800台を並列につなげて構成されている大規模クラスタ(並列処理)のGPS将棋は、システム面では有利と見える。


 それではなぜGPS将棋が詰みを見逃したのか? 学生用のため多少スペックは劣るPCでも、約800台もつなげれば、そこそこのスケールメリットを得られるのだが、対Bonanza戦ではこの仕組みがGPS将棋自身の首を絞めることになった。


バグって混乱


 先程の局面、GPS将棋は7八銀と指して詰みを逃したが、「詰みを読んでいなかった」わけではなかった。「詰みがあるかどうかを調べる担当」のプログラムと、「それ以外で盤面の評価を担当」するプログラムにそれぞれ担当が分かれていて、詰み担当のプログラムは「詰んでいる」と答えを出していたのだ。


 だが、いかんせんこの時の対局ルールが、「与えられた持ち時間がなくなった時点で負け」になる「切れ負け」方式だった。この時すでに193手。残りの持ち時間が差し迫った中、巨大クラスタのGPS将棋は、1手を出すのに時間がかかる。ここで思考順序にミスが出てしまい、詰み担当の答えを待たないまま手を進め、負け戦となった。


 「バグ」という、コンピュータにはよくある話だったのである。


コンピュータの性質


 これを踏まえて、第2回電王戦の三浦弘行9段(当時8段)とGPS将棋の対局を振り返ってみる。大敗を喫してしまった三浦氏だったが、「三浦先生は直前に羽生(善治)さんに勝っているんです。選んだ将棋のやり方が悪かったのかもしれませんが、この時も羽生さんと戦った将棋の内容を、そのままGPS将棋にぶつけていたんです」(瀧澤氏)。当然のことながら三浦氏の強さは折紙つきである。


 「バグ」という不確定要素を引き合いに出してくるのは、いささか軽はずみであるかもしれない。しかし、「並列処理で時間を食う」というGPS将棋の特徴があるのならば、読みのパターンが増える打ち筋をすれば、GPS将棋を手こずらせることができた可能性もある(コンピュータ囲碁ソフトの開発者・加藤英樹氏は、「読みのパターンが増えるような打ち筋こそ、プロにしかできない職人芸」と言っている)。


 コンピュータ将棋選手権では、出場するソフトが利用するマシンスペックに制限を設けていない。より強い将棋ソフト開発の可能性を広げるためのものだが、高性能のマシンを際限なく使うことができる状況に、従来の将棋ファンから非難の声も上がっている。第3回電王戦にハードウェアの制限がついたのも、こうした意識の表れかもしれない。


 だが、将棋ソフトの性能が上がって誰よりも恩恵を受けるのはプロ棋士のはずだ。2013年9月には、第2回電王戦で激突したプロ棋士とコンピュータソフトが1組ずつタッグを組んで対戦する「電王戦タッグマッチ」も行われた。 チェスでは一般的になっている、コンピュータと人間の共存が将棋界に浸透するのも、そう遠い話ではないかもしれない。

(中西 啓)

>>将棋は道筋が見えてきた。次は囲碁!


【関連カテゴリ】

その他