連載「人間VSコンピュータ 10番勝負!」

2013/9/12

将棋対決・第2回 しのぎを削る将棋ソフトと、Bonanzaの登場

1970年代に初めて完成したコンピュータ将棋はアマ20級程度の棋力で、1980年代の市販ソフトも「王手を放置する」「合法手を指すだけ」という代物が売られていたという。

 「人間VSコンピュータ」と言うには程遠かったコンピュータ将棋は、一体どのようにしてプロ棋士に勝つまでになったのか。

枝を減らし、勝てる手を探す


 コンピュータ将棋協会(CSA)が主催する「世界コンピュータ将棋選手権」が始まったのは、平成の世に入って間もない1990年。この時の参加ソフト数はわずか6本だったが、時を経て参加ソフトは増え、一時は55のソフトが参戦した。2013年の第23回大会では40のソフトが参加している。

世界コンピュータ将棋選手権 直近5年の結果
ほぼ実力は変わらないという上位のソフト

 「今の将棋ソフトは、どれも『読みの幅をどれだけ減らすか』、というところを競っているんです」とCSA会長の瀧澤武信氏は語る。アルファ・ベータ探索のように、いかに効果的に読みを行うか、というところに知恵を絞っている状況だ。


 それでは、どうやって読みの精度を上げているのか。コンピュータ将棋の中でも屈指の強さを誇り、市販もされている将棋ソフト「激指」では、プロ棋士の棋譜を参考に、「実現確率探索」という方法で読みを進めている。アルファ・ベータ探索では、読みの深さはどの局面でも同じ「3手先まで」という設定だ。しかし「激指」では、3手先を読んだ後に、「この局面で評価を終わっていいのか?」という、「評価に対する評価」を行うのだ。


 この判断基準となるのが、プロ棋士の棋譜。3手読んだ時にインプットされている棋譜と同じような局面だった場合、さらにその先の手まで読んでいくことで「読みの精度」を上げている。


Bonanzaの登場とオープンソース化


 プログラミングができて、なおかつ将棋に詳しい開発者が、読みの精度を上げる知恵を絞っていた。これを一気に変えたのが将棋ソフト「Bonanza」だ。「開発者の保木(ほき)邦仁さんは、将棋は初心者レベル」(瀧澤氏)というBonanzaは、どのような仕組みで動いているのか。


 まず、基本的な局面の評価をつける。そして全ての手を探索し、出てきた局面を過去のプロ棋士の膨大な棋譜から判断して指す手を選んでいく。こうして勝利した時の手を、PCの「漢字変換」のように自動学習していき、より勝てる局面の評価を上げていくのである。


 「評価関数の要素にはいろいろなものがあります。例えば金を『2枚持っている』時よりも、『3枚持っている』という場合は、評価を上げるんです。また、王の周りにたくさん駒があれば『頑丈』で、少なければ『弱い』。これも評価の対象です」(瀧澤氏)。


 「王と金の位置関係」などの「評価パラメータ」を自動的に学習していくBonanza。その数は、発表された当初は1万程度だったが、現在ではなんと5000万項目にもなっているという。


 何よりもコンピュータ将棋界に寄与したのは、開発者の保木氏がBonanzaをオープンソースにしたことである。「コンピュータ将棋協会でも、お互いのプログラムを学会で発表して共有することはありました。Bonanzaがオープンソースにしたことで将棋ソフト開発のハードルは一気に低くなったのです」(瀧澤氏)。


 ちなみに、第1回の電王戦で故・米長邦雄永世棋聖と対戦した「ボンクラーズ」、第2回電王戦で出場した「ポナンザ」は、ともにBonanzaをベースに開発されたものだ。


エヴァの「MAGIシステム」も


 Bonanzaは2006年の世界コンピュータ将棋選手権で優勝、瞬く間にコンピュータ将棋界のスターソフトとなる。2007年3月には、「大和証券杯ネット将棋・最強戦」で、渡辺明竜王と対戦。特別記念対局ながら、将棋ソフトとトッププロの初めての対決となった。結果はBonanzaの敗北であったが、タイトルホルダーのプロ棋士のレベルに近づいたのである。


 2010年、女流棋士・清水市代氏と将棋ソフト「あから2010」の対局が行われた。「あから」は、激指やBonanza、GPS将棋など複数のソフトが出した結果を、それぞれに設定された「発言権の強さ」を踏まえてどれにするか選ぶ、という合議制システムを採用している。アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』に登場する合議制コンピュータ「MAGIシステム」さながらの構成だ。対戦結果は清水氏が敗北。


 その後の展開は、皆さんもご承知のとおりである。第1回電王戦では米長氏が敗北、第2回電王戦ではプロ棋士が1勝3敗1分けと負け越した。


 米長氏の対局はインターネット動画配信サイト「ニコニコ動画」の生放送で100万人が観戦していたという。人間が、自分自身が作ったものに追い越される、もしくは追い越されようとしている状況が、「人間VSコンピュータ」に惹かれる理由かもしれない。


 現在、コンピュータ将棋協会が主催する「世界コンピュータ将棋選手権」の決勝に立つソフトは、ほぼ互角の実力を持っている。アルゴリズムのレベルが底上げされ、さらにマシンスペックも年々上がっており、非常に高度な戦いになっている。一見、人間の入る余地はなさそうだが、現時点のテクノロジーを考えた時、人間のプロはコンピュータに全く歯が立たなくなってしまうのだろうか?

(中西 啓)

>>コンピュータの弱点は、やっぱりある


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