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公認会計士松澤大之
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セミナーレポート
「次世代スーパーコンピューティング・シンポジウム2009」が開催

 2009年10月7日~8日の2日間、丸の内MY PLAZAにて「次世代スーパーコンピューティング・シンポジウム2009」が開催された。文部科学省が推進し、理化学研究所が研究主体である「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」プロジェクトで開発中の「次世代スーパーコンピュータ」の最大限の利活用を議論する場として、今年で4回目を迎える。
 今回は、副題に“世界に誇る拠点を目指して”と掲げ、神戸ポートアイランドに建設中であるスーパーコンピュータ施設の2012年オープンを視野に入れ、研究戦略や組織体制について議論された。

理化学研究所理事長 野依良治氏
理化学研究所理事長 野依良治氏
 冒頭の挨拶では、理化学研究所理事長の野依良治氏が檀上に立った。野依氏は「日本が科学技術創造立国としての地位を築くためには、世界レベルで競争力を持つ先端技術や、付加価値の高い製品を生み出すシステムが必要である。科学技術に基礎をおいた国づくりが、我が国のとるべき道である」とその意欲を語った。
 スーパーコンピュータの開発競争は国際的にも激化の一途をたどり、特に米国ではオバマ政権以降「グリーンニューディール政策」を掲げ、スーパーコンピュータを使ったシミュレーション技術を大変重要視している。野依氏はまた「米国のみならず、中国をはじめ新興国の追い上げに圧倒されるものがある」と語った上で「神戸にできる拠点が日本の、ひいては世界の計算科学の中核になるべく議論を進めたい。このプロジェクトが我が国再生の起爆剤となることを望んでいる」と述べた。
資料1「次世代スーパーコンピュータ戦略分野」
資料提供:文部科学省
資料1「次世代スーパーコンピュータ戦略分野」
資料提供:文部科学省 (クリックすると拡大します)
 「次世代スーパーコンピュータ」の様々な分野への利用・応用は、国家戦略を持って取り組むべきとされている。文部科学省に設置されている「次世代スーパーコンピュータ戦略委員会」が発表した5つの戦略分野(資料1参照)について、文部科学省スーパーコンピュータ整備推進本部長の倉持隆雄氏が講演した。
 倉持氏は「これまでの計算機では、性能の限界があり着手できなかった分野を重点的に、“エネルギー創成”や“防災・減災に資する地球変動予測”等の戦略5分野を決定した」と述べ、その判断基軸が「次世代スーパーコンピュータの能力でなければできない課題であること、社会的・国家的見地から見て非常にニーズが高い課題であること」という社会的意義にあることを説明した。
文部科学省 スーパーコンピュータ整備推進本部長
倉持隆雄氏
文部科学省 スーパーコンピュータ整備推進本部長 倉持隆雄氏
 倉持氏はまた「いずれも『次世代スーパーコンピュータ』の計算資源を必要とし、かつ社会的・学術的に大きなブレークスルーの鍵を握っている。また、社会的ニーズに即応した成果を果たせることが、社会の期待に応えることであり、その意味でも今回、戦略分野として挙げられた5つのテーマは具体的な成果の上がる見通しを持ったものばかりで、期待が大きい」と語った。
神戸施設の完成予想図を前に講演する、理化学研究所計算科学研究機構設立準備室長の平尾公彦氏
神戸施設の完成予想図を前に講演する、理化学研究所計算科学研究機構設立準備室長の平尾公彦氏
 前東京大学副学長であり理化学研究所特任顧問の平尾公彦氏は、自ら設立準備室室長を務める理化学研究所「計算科学研究機構」の進捗状況を解説。
 「次世代スーパーコンピュータは8万個以上のプロセッサを有する超並列コンピュータ*1である。使いこなすには高度な計算科学技術が不可欠であり、従来の研究体制でこれらの能力を引き出すことは難しいという段階にきている。スーパーコンピュータを本当の意味で使いこなすには、計算科学*2者と計算機科学*3者の密接な連携が不可欠であり連携体制をとることが必至である。そのためには、個人の強い意志はもちろん、組織体制としてのバックアップが必要であり、『計算科学研究機構』は神戸の地でこれを実現するべく、コミュニティ全体で機構を作り、支える体制を確立したい」とその目的を語った。
全体討議の様子。各分科会のモデレータから、それぞれの研究テーマについて熱心な報告がされた
全体討議の様子。各分科会のモデレータから、それぞれの研究テーマについて熱心な報告がされた
 このほか、次世代スーパーコンピュータの戦略分野である5つの分科会が開催され、最終日にはその成果報告として各分科会モデレータが一堂に会し、中央大学の土居範久教授を座長に全体討議が行われた。
 「予測する生命科学・医療および創薬基盤」分科会の理化学研究所の高木周氏は、「計算生命科学は、医学、生物、工学等様々な分野の研究者が集まる融合的な分野である。神戸の研究拠点では、その特徴を活かし“連携することで何ができるのか”を考えたい」と話した。
 スーパーコンピュータを使った創薬のシミュレーションについては「過去に薬効が期待されていたにも関わらず、効かなかった薬はたくさんある。しかもその理由すら判明されなかったものも多い。シミュレーションによって、非常に複雑な相互作用の結果をひとつひとつ地道に出していくことは、医者や製薬会社のみならず、患者のメリットも大きいはずである」とその期待を語った。
 コンピュータの活用は、科学技術、産業にとどまらず、日本のライフライン維持を含む、社会システム全体を改革する力にならなければならない――開会挨拶での野依理事長の言葉が実現されるよう期待したい。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*1:超並列コンピュータ
大量のマイクロプロセッサーを結合して構成するコンピュータシステム。科学技術計算などを高速に処理する。

*2:計算科学
コンピュータによる大規模計算を主要な道具とする科学研究の学問。具体的には、様々な問題への計算機シミュレーション等。

*3:計算機科学
計算機の開発及び計算機を用いて、情報を適切に処理・伝達・蓄積する方法を追求する学問。さらにそれらのコンピュータシステムへの実装と応用に関する研究を行う。


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