ライフサイエンス研究でのデータ共有化を考える:イベント・セミナーレポート:HH News & Reports:ハミングヘッズ

ITをもっと身近に。新しい形のネットメディア

- Home > コラム > イベント・セミナーレポート > ライフサイエンス研究でのデータ共有化を考える
 コラムトップページ
 インタビュー記事 ▼
 イベント・セミナーレポート ▼
公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
は“個人の意識”
(動画あり)

セミナーレポート
ライフサイエンス研究でのデータ共有化を考える

 デジタル化された情報が猛スピードで増え続ける昨今、その利活用において、従来の紙媒体を想定した著作権法では対応できなくなってきており、その改正に向け、各業界で議論がなされている。生命を取り巻くあらゆる現象を総合的に研究する「ライフサイエンス」の研究分野においても例外ではない。ライフサイエンス統合データベースセンターの高木利久氏が壇上に立ち、今回のシンポジウムの開催趣旨を述べた。

ライフサイエンス統合データベースセンター
センター長 高木利久氏
ライフサイエンス統合データベースセンター
センター長 高木利久氏
 「昨今のように、IT化に伴いデータ情報が爆発的に増えている時代では、ライフサイエンス分野の研究者の研究スタイルにも変化が見え始めている。従来の“頭の中で立てた仮説を、データを用いて検証する”というものから、“最初からデータを分析することで、何かを発見する”というような変化である。これらのような“データ中心科学”においては、データの使用如何が研究の発展・スピードに大きく影響を及ぼす」と研究分野での現状を述べた。
 「研究発展のためには、現状では権利所有者がバラバラなデータを収集・整理・編集し、統合的に検索可能な形に整え、広く一般に再利用可能にしていくことが不可欠である。それらに立ちはだかる課題として、著作権問題を真剣に議論していく必要がある」と訴えた。
ハーバード大学教授 ローレンス・レッシグ氏
ハーバード大学教授 ローレンス・レッシグ氏
 講演ではまず、クリエイティブ・コモンズの発起人であり、インターネット社会における著作権の世界的権威であるハーバード大学教授のローレンス・レッシグ氏が檀上に立った。レッシグ氏は「科学専門誌からのデータ参照が著作権により制限されている現状では、研究費に大きなコストがかかり、研究自体への足かせになる」と話した。

 また、自身が2002年に立ちあげた「クリエイティブ・コモンズ」の活動にも触れた。「クリエイティブ・コモンズの中でも科学に特化したプロジェクトであるサイエンス・コモンズでは、科学分野においても独自の著作権システムを作り、賛同者間での科学情報を公開・共有できる仕組みを作っている。現在では1000もの学術雑誌がこの仕組みを採用し、オープンアクセスで情報を共有できるようになっており、利用コストを低くすることに成功している」とその取り組みを紹介した。
東京大学名誉教授 中山信弘氏
東京大学名誉教授 中山信弘氏
 東京大学名誉教授・弁護士であり、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン代表も務める中山信弘氏は、著作権法改正にも深く携わる立場から「多くの学術文献・設計図・コンピュータプログラム・データベースも、商業ベースで制作される映画や音楽と同等の著作物とみなされ、その使用にあたっては強力な規制が敷かれている現状には問題がある。果たして本当にそこまでの規制が必要であるのか、著作権法は科学技術の発展における役割を検討する必要がある」と語った。

 また質疑応答では会場から「利益を追求する産業分野と、国から研究費を受けている学術分野では、双方別々の法を作り、分けて規制を敷けばよいのではないか」との質問が挙がった。
 中山氏は答えて「ごもっともな意見。現に似た提案が経団連からされており、権利に強弱のバランスをつけるなど、著作権を複数システムにしてはという意見が出ている。現代の著作権はあまりにも広い分野を取り込んでしまっており、ひとつの法では規制しきれない。どのような法構成をとるか課題は大きいが、賛同したい意見である」と語った。
国立国会図書館長 長尾 真氏
国立国会図書館長 長尾 真氏
 国立国会図書館長の長尾真氏は、電子図書館を構築した際の著作権問題について解説した。現在、国会図書館では明治・大正前期の著書約15万冊をデジタル化しインターネット上で公開している。「ほとんどの著作権が切れていたにもかかわらずその費用は2億円にものぼった。今後、大正末期~昭和43年までのものをデータ化する予定だが、著作権処理費用も含め、さらに膨大な金額がかかると思われる」とその現状を語った。

 さらに長尾氏は、著作権者と利用者の互いの利益が得られる例として「国会図書館の著作物を完全データ化し、家からインターネットで閲覧できるようにして、図書館へ通う電車賃程度の使用料が、出版社の収入になるような仕組みを作る」といったものを挙げ、双方が歩み寄れる新しいビジネスモデルの模索が重要であると述べた。

 IT化における著作権問題は、このような研究分野にも波及しており、研究者のジレンマとなっている。ライフサイエンスの発展のためにも、法改正をはじめ最適な仕組み作りを早急に進めることが重要であると感じられたシンポジウムであった。


「生命科学分野によるデータベース利用を産官学が提案」セミナーレポートはこちら



※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*:クリエイティブ・コモンズ
著作物を保護しつつ、積極的な著作物の流通を目的とする非営利団体。著作権者が自ら提示する条件のもと、利用者がウェブ上で自由に利用・再編集できる仕組みを作った。


お問い合わせ

  コラムトップページへ▲