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シンポジウム「日本版フェアユース導入の是非を問う」が開催

 慶應義塾大学SFC研究所プラットフォームデザインラボは9月17日、東京都港区の慶應義塾大学三田キャンパスで、フェアユース*1導入に向けた問題の解決策と、それによる新たな可能性を論じるシンポジウム「日本版フェアユース導入の是非を問う」を開催した。著作権に関係する多くの訴訟に関わってきた弁護士の福井健策氏、ITジャーナリストの津田大介氏のほか、国際的な知的財産法務において豊富な経験を持つTMI総合法律事務所弁護士の水越尚子氏や、アメリカ映画協会国際部門においてアジア太平洋地域の責任者を務めるマイケル・エリス氏が参加した。

 近年のデジタル化に伴い、著作権制度のバージョンアップが進められている。特に日本では著作権政策を決定する文化審議会において、著作権保護の例外を柔軟な形で定める、いわゆる「日本版フェアユース」導入に向けての議論が行われている。

講演する弁護士の水越尚子氏
国際的な知的財産法務において豊富な実績
を持つ氏は、その経験に基づいた見解を述べた
講演する弁護士の水越尚子氏
国際的な知的財産法務において豊富な実績
を持つ氏は、その経験に基づいた見解を述べた
 各参加者の講演では、日本版フェアユースの導入に関して、それぞれの考えを発表した。弁護士の水越尚子氏は、その導入について、権利者や各業界との利害関係や、国の経済政策によって慎重な対応が必要であるとした。

 同氏は2009(平成21)年度著作権法改正におけるインターネット対応関連条項について触れた。具体的には「情報検索サービスに必要な行為は、著作権者の許諾を得なくても可能とすることを明確化する」という項目について、世間から「著作権法の改正が遅すぎるのではないか」という非難を浴びた点について指摘した。

 同氏の見解によると、インターネット業界での著作権法の利用では、例えば流通やメーカー、コンテンツの制作者など立場の違いによって、各業界が著作権絡みの裁判で想定しているものが驚くほど異なっている。国の政策としてコンテンツ産業の促進・海外展開の重視もあるが、この改正はどのような政策実現のためにあるのかを考えなければならない。
 ただ、立法・司法の制度が透明であり、著作権が絡んだ裁判が予測可能であることは、事業者がビジネスに投資していくための基本条件であることに引き続き変わらないとした。

 さらにフェアユースに関して、権利者を保護するライセンスの仕組みを構築することは重要だと考えていると説明。ソフトウェアメーカーの弁護士の立場からすると、企業がビジネスを行っていくには、事業に対して資本投入していることになるので、そのビジネス周辺の法律や仕組みを明確にすることが要求されると指摘。客観的で、実務的、さらに信頼できる法律が必要であるとした。
 加えて、同氏は「権利者を保護するライセンスがなくてもいい仕組みが促進されると、企業にとって事業に投下した資本を回収するのは非常に難しいため、やはり適法なライセンス制度を促進する、そういう基礎づくりが必要である」と訴えた。
講演するマイケル・エリス氏
「米国のフェアユースは日本の法制度に合わない」と語る
講演するマイケル・エリス氏
「米国のフェアユースは日本の法制度に合わない」と語る
 一方、アメリカ映画協会国際部門・アジア太平洋地域責任者のマイケル・エリス氏は米国の著作権・フェアユースに注目し、各国がその導入に躊躇していることを例に挙げるとともに、日本の導入に関しても難色を示した。

 同氏は「米国で使われているフェアユースの法理を、自国に導入しようとする国は、自国に適応した形で調整することが必要となる」とした。
 そして、今日の米国のフェアユースには米国著作権法(1976年法第107条)に定められているように、著作物の使用がフェアユースとなるか否かを判断すべき以下の4要素があるとした。

1.利用の目的および性格
2.著作権のある著作物の性質
3.著作権のある著作物全体との関連における使用された部分の量および実質性
4.著作権のある著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響

 同氏はこの第4番目の要素が最も重要であると話した。例えば、1999年のNapsterとA&M Recordsの訴訟を例にとると、ピアツーピア(P2P)を利用したネットワーク上で、無料の音楽のファイル交換が行われたために、原告側(A&M Records)が、デジタルミュージックをダウンロードするビジネスの参入障壁が高くなってしまったケースがあった。他にも裁判に持ち込まれたすべてのケースについて、裁判所が第4番目の要素を重視している。

 同氏によると、米国の著作権法では、フェアユースに関して「今までのフェアユースに関連した米国の判例から、次の判決はこうなるのではないか」という予測がまったく立たないという。
 実際にフェアユースのシステムを導入しようと調査をした英国、オーストラリア、ニュージーランドでは導入に踏み切ることができないでいる。

 マイケル・エリス氏は「フェアユースは予測不能であり、裁判所が対象のものを『フェアユース』と判断するかどうか、前もって予見することができない。フェアユースの概念に柔軟に対応できておらず、ましてや判例も全くない本の法制度には合わないのではないか」と意見を述べた。
講演の最後に行われたディスカッションの様子
日本版フェアユース導入に関して活発なやりとりが行われた
講演の最後に行われたディスカッションの様子
日本版フェアユース導入に関して活発なやりとりが行われた
 講演の最後に行われたディスカッションでは福井氏が「フェアユース導入に関して、適法なライセンスの基礎づくりが非常に大事。『権利者の許可をとらなくてもよい構造にしていきたい』という傾向が見られることは大変遺憾である」と訴えた。

 また、同氏は、「私見であるが、現状の社会では、権利者を保護するための適法なライセンスが取得できるようになるということは期待できない。しかし『ライセンスを取りやすい社会』を目指していくことは非常に重要なことだ。また、フェアユースがいらなくても一般制限規定*2が必要な分野もあるのではないか」と話した。

 一方、津田氏は「新たな情報流通などは著作権と関係ないところで生まれてきている。そのような今、まさにビジネスを展開している企業やビジネスそのものに対して、『許可の判断は5年後にしましょう』では、5年後にそのビジネスやビジネスを展開している企業が存在するかわからない」と意見を述べた。
 他にも、水越氏は、権利者の経済的な損失がどれくらいのものかを考慮する必要があると述べた。それらを考慮した上で、フェアユース導入に向けた政策を決定するべき、と解説した。

 今回のシンポジウムではバックグラウンドの違う専門家が集まり、日本版フェアユースの導入に関して、意見を交換したことが意義深い。文化審議会での導入に向けた話し合いを筆頭に、活発な議論は各地で行われている。権利者や業界全体の活性化、双方にとって一番良い施策は何かを念頭にした話し合いを今後も続けてほしい。


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※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*1:フェアユース
アメリカの著作権法にある規定で、著作物の1.使用目的、2.使用量、3.創造性、4.権利者の程度が定められている。大きな特徴のひとつに、著作物の無断利用ができる場合(つまり、著作権が制限される場合)の規定の仕方につき、私的使用のための複製や裁判手続等における複製のような具体的な類型を列挙する方法によるのではなく、抽象的な判断指針を示す方法によっていることがあげられる。

*2:著作権法における権利制限の一般制限規定
デジタル化・ネットワーク化に伴う著作権法を取り巻く環境の激変に迅速に対応し、ユーザに情報を利活用させるためのインフラを構築する事業者(機器メーカー、ネットサービス業者など)が権利者への悪影響が少ないと思われる著作物利用を行う場合に、利用の停滞や萎縮を起こさせないため、著作権法に速やかに一般的・包括的な権利制限規定を設けるべきという考え方。


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