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サイボーグ技術の現在と未来について日本ロボット学会が講演

 SFの世界で50年以上も前から語られている「サイボーグ」。人間と機械を融合させ、身体機能の一部を機械に置き換える技術が、近年ロボット工学が急速に発達したことで、今まさに現実のものとなりつつある。

 日本ロボット学会は「第27回学術講演会」の併設行事として、一般公開セッション「サイボーグ技術は動き出すか?-ロボット技術と人間機能の協調-」を、2009年9月17日に横浜国立大学で開催。各大学や研究機関がロボットやサイボーグ技術に関する最新の研究成果を披露すると共に、今後の展望・課題について講演を行った。

 サイボーグのように機械を生身の身体と同じように操り、身体機能の代替・強化を可能とするため、手足を使いスイッチやコントローラを操作するのではなく、脳の思考によって直接機械を制御する「BMI(Brain Machine Interface)」の研究に、数多くの研究者が取り組んでいる。

 京都・大阪・奈良の3府県にまたがるけいはんな学研都市に居を構えるATR(国際電気通信基礎技術研究所)脳情報研究所ブレインロボットインタフェース研究室長の森本淳氏は「これまでのBMI技術は腕や手に注目したものが多いが、我々は特に下肢部の運動再建のためのBMI技術を考えている」と、サルの脳情報をもとにロボットの脚部を動かす侵襲型BMIの研究に、米デューク大学と共同で着手した経緯を説明した。

 デューク大学にいるサルが歩くと、頭部に埋め込んだ電極が脳内の神経細胞から、脚部の動きに関する位相情報を読み取りATRに送信。それをATR内のヒューマノイドロボットが受信することで、ロボットがサルとほぼ同様の動きとタイミングで歩く。その様子が、研究成果として会場に披露された。
ロボット聴覚が持つエンターテイメントやファッション分野への発展の可能性を示唆する奥乃博氏
ロボット聴覚が持つエンターテイメントやファッション分野への発展の可能性を示唆する奥乃博氏
 “聞き分ける”という観点から音の研究に取り組んでいる、京都大学大学院情報学研究科の奥乃博教授は、ロボット聴覚の現状について言及。「SFの世界では、音声を素早く認識できても話すのは苦手なロボットが描かれているが、現実のロボットは抑揚を付けて流暢に話せても他人の話を聞くことができない。人間同士の会話なら『他人の話を聞いていないのではないか』として許されないものだ」と問題点を指摘した。
 その上で同氏は、10人の訴えを聞き分けたという日本書紀上の逸話から「聖徳太子ロボット」と名付けられたロボットが、複数人からの料理の注文に対しそれぞれの料理名と値段を的確に答えるデモ映像を上映した。

 こうした高度な技術を応用することで、補聴器や人工内耳が聴力の弱い高齢者をサポートするだけではなく、聴覚を人間が本来持つ以上の領域まで拡張し、携帯型音楽プレイヤーのようなエンターテイメント分野、さらには眼鏡同様にファッション分野へも発展していく可能性を、奥乃氏は示唆している。

 脳波で操作する車椅子システムの開発を手掛ける電気通信大学知能機械工学科の田中一男教授は、「工学者の視点からBMIシステムを構築した」と強調しながら、初心者や障害を持った人でも簡単にかつ実際の生活の中で使用可能であることが重要だとした。
田中一男氏は工学者としてのアプローチから構築したBMI車椅子の操作性と有用性の高さを説く
田中一男氏は工学者としてのアプローチから構築したBMI車椅子の操作性と有用性の高さを説く
 さらに「脳科学論通りに設計しても、ロボットが動いてくれなければどうしようもない。そして人間を対象としている以上、電極を脳の中に直接埋め込んでいいはずがない」と、脳科学的アプローチから侵襲型BMIシステムを構築することに対し、現実論と倫理の両面から疑問を呈している。

 田中氏はこうした問題を解決すべく、脳波の測定は帽子型電極で頭皮を介して行い、機器類はすべて携帯可能、そして運動イメージでなくとも再現可能なイメージさえ登録し送信すれば、車椅子を動かせるトレーニングフリーなシステムを構築したことを解説。また、TV番組においてアナウンサーの古瀬絵理氏が、何ら特別な訓練を受けずに脳波で車椅子を操作したことを実証例として示した。

 また、システム一式を携帯できることを特長とした今後の展開として、ブロック崩しゲームや食事補助ロボット操作への応用、二足歩行ロボットによる格闘競技大会「ROBO-ONE」への出場を例示。さらには「私が死ぬまでには難しいだろうが、脳波だけで相手とコミュニケートできる“脳波携帯電話”を作りたい」と、自身の夢を語っている。
「情報化やコミュニケーションの“拡張”により地球全体がサイボーグ化する」と展望を語る森山和道氏
「情報化やコミュニケーションの“拡張”により地球全体がサイボーグ化する」と展望を語る森山和道氏
 最後に登壇したサイエンスライターの森山和道氏は、サイボーグ技術の意義を「身体機能と生理機能の置換・機能代償に加え“拡張”にもある」としながら、その根底にある超人願望そのものが現実とSF双方の傾向として「『より強く、速く』というものから、人間と機械を融合させてメディアに接続するという情報化やコミュニケーションの側面で“拡張”していった」と主張する。
 そして同氏は、サイボーグ技術がもたらす未来について「現在すでに市販化されているカプセル内視鏡のようなものが無線化され大勢の人が飲み込むようになれば、リアルタイムに大勢の人の生体情報が収集・共有可能になる。さらに今後ユビキタス化の進行と共にサイボーグ技術がネットワークで繋がれば、人とモノの関係がより密着し濃密になり、実空間と情報空間が地球スケールで重なり合う。つまり地球全体がサイボーグ化する」と、その展望を語った。

 サイボーグ技術が真に実用化され誰でも利用できるレベルにまで普及するためには、依然として技術やコスト、倫理面などクリアしなければならない課題は多い。しかしそれを乗り越えた先には、医療や福祉の分野で人々の生活を劇的に改善するソリューションとなるだけではなく、あらゆるものを人間本来の感覚以上に濃密な次元で感じ取れる、新たなコミュニケーション手段として発展する可能性がある。そんなサイボーグ技術の未来を予感させる、非常に興味深いセッションとなった。


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※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*:侵襲型
外科的手術により機器を身体の内部に取り付ける手法。外科的手術を行わない間接的な手法は「非侵襲型」と呼ばれる。


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