企業のグローバル化が進む中、日本の工学系学生が国際的なリーダーとなるにはどのような教育プロセスが望ましいのか。東京大学大学院工学系研究科の付属機構である工学教育推進機構が、産学の有識者を集めて講演会を行った。
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欧州の航空産業を例にグローバル企業の現状を鈴木氏が解説した |
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工学教育推進機構長の鈴木眞二氏は「教育のグローバル化も含め、工学学生の国際的なコミュニケーション力の開発が必要」とシンポジウムの趣旨を解説。国際間でのプロジェクト例として、1960年代に英仏共同で開発された超音速旅客機「コンコルド」を紹介した。超音速という、ただでさえ難しい技術開発であることに加え、英語とフランス語の壁などで、開発が難航したという。しかし「コンコルドで経験した複雑な共同開発プロセスは、後の欧州4カ国の連合体企業であるエアバス社設立に寄与した」と、鈴木氏は説明した。
鈴木氏の講演後、国内・外資それぞれグローバル展開している企業関係者による社員教育の実例が解説された。
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日本の学生の海外インターンシップ事例を紹介する野口氏 |
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続いて、室蘭工業大学理事の野口徹氏が登壇、「我が国の工学教育に求められる実践力および国際性教育」と題し、海外長期インターンシップが日本の学生に強い影響を与えた事例を紹介。「在学中は目立った成績ではなかった学生が、インターンで米国にある日系自動車部品メーカー工場に1カ月赴いて溶接不良の低減を実現するなど、目の覚めるような結果を出してきた。長期の海外インターンシップを経験した学生は、渡航前に比べて自分から行動を起こすようになった」と、研究室の学生がリーダーシップを取れるような人材に成長したこと報告した。
また、大学での座学と、有給での就業を1学期ごと交互に履修する教育コースがあるカナダなど、海外の大学のインターンシップの取り組みを紹介した。野口氏は「米国の工学系大学院の50~75%は外国人。これだけ学生が集まってくるのは学力や実践能力の向上のほか、英語力の習得、国際企業への就職などの魅力があるためだ」として、日本の大学も、ナノテク・生命科学など高い研究成果を出している分野を生かして、海外に匹敵するような魅力を提供すべきと述べた。
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企業側の講師を交えたパネルディスカッション |
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最後に行われたパネルディスカッションでは、インターンシップの現状についてそれぞれパネリストが意見を述べた後、質疑応答で意見が交わされた。「学生がインターン先の企業で何らかの発明をしたときはどのような対応となるのか」など、会場からも多数の質問や意見が飛び交った。
この中で、会場にいたある大学関係者は、1~2週間のインターンシップを複数渡り歩くという修士2年の学生の夏休みの動向を紹介し、「リクルートを目的としたインターンシップに学生が殺到し、インターンシップに合格することがある種のステータスになっている」と述べた。
日本での長期インターンシップが実現されにくい原因のひとつに、教授など研究者の業績が論文の本数で評価されるという「アカデミック・プレッシャー」があることも指摘された。現状では、研究者がいくら自分の研究室から学生をインターンシップに行かせて優秀な人材を輩出しても、大学や研究機関では評価の対象にならないという。
鈴木氏は「『自分の研究の手伝いをしてもらいたいのに、1か月以上も企業に取られてはかなわない』という意識は研究者に少なからずあると思う」と、大学などの評価システムも見直していくべきとの考えを示した。
今回の講演会では、海外を含めたインターンシップ経験がリーダーとなるべき人材育成のキーポイントになることが強調された一方で、日本の教育機関と企業側の間に解決すべき課題も再認識された。
日本の学生が世界でリーダーシップを発揮できる人材となるために、産学がそれぞれの現状を見直して、早急に連携を図るための具体策が求められる。
※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。