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JAXA航空プログラムグループが研究成果を発表

 JAXA(宇宙航空研究開発機構)航空プログラムグループは2009年9月10日、日本科学未来館のみらいCANホールで「航空プログラムシンポジウム 社会に役立つJAXAの航空技術研究開発」を開催した。
 JAXA航空プログラムグループは、国産旅客機の開発、災害時のヘリコプター運用技術ほか航空に関わる分野の技術開発や研究に幅広く関わっている。今回のシンポジウムでは、それらの成果がいくつかのテーマに沿って発表された。

井上氏は炭素循環の観測により精密なデータを入手する必要性を訴えた
井上氏は炭素循環の観測により精密なデータを入手する必要性を訴えた
 最初の講演では「地球環境に優しい」と題し、人間科学文化研究機構 総合地球環境学研究所教授の井上元氏が、人工衛星や民間航空機による温室ガス観測について解説した。
 二酸化炭素をはじめとする温室ガスの増加は、人為的な排出量の増加以外に、「炭素循環」と呼ばれる陸地や海洋における吸収・放出能力も要因とされている。そのため、将来にわたる温暖化推移を正確に把握するためには、地球規模での炭素循環も調査する必要がある。
 炭素循環のうち、海洋における吸収量は沿岸域を除いてほぼ均一であるため、ある程度限られた領域から全体の数値を推定することが可能だ。
 ところが陸上の地形は非常に複雑で、その形態により炭素循環は大きく異なるため、陸上全域の観測を行う必要がある。しかし陸上からの観測では、地表面の大気に範囲が限られてしまう上、装置を多数設置する必要性も生じるため、自主的に設置ができる先進国にデータが偏る傾向にあった。
 そこでJAXAや環境省などが中心となり、民間航空機(日本航空)と観測衛星“いぶき”から二酸化炭素とメタンの濃度測定を行った。
 結果「北半球では濃度が高く、南半球は低い」「日本―ヨーロッパ間において、対流圏では地上に連動し5月に温室ガスが最高濃度になるが、成層圏では最低濃度になる」というような地球規模の幅広いデータを取得した。特に人工衛星による世界規模の温室ガス観測は世界初であり、得られたデータに関係研究者らは強い興味を示している。
 井上教授は今回の試みを「観測精度を高めるための第一歩」とし、「今後も炭素循環の現状を把握するためにも長期にかけて観測を続け、さらに航空機や衛星の穴を埋める大気観測専用の航空機の補完的な運用が必要になってくるだろう」と、航空技術が今後も環境観測分野においても不可欠なものであるとした。
ほかにも山根氏はこの財政危機下、ヘリコプターの保有台数が減ることにも懸念を示した
ほかにも山根氏はこの財政危機下、ヘリコプターの保有台数が減ることにも懸念を示した
 次の「公共のニーズに応える」というテーマでは、大規模災害時におけるヘリコプターの運用に関する研究が発表された。元陸上自衛隊航空学校長で、現在は富士重工業顧問を務める山根峯治氏は、自衛隊時代の経験から、災害時のヘリコプター運用の重要性を説いた。
 東海地方では2009年時点で、マグニチュード8クラスの地震が30年以内に87%の確率で起こると言われているように、地震大国の日本では、大規模災害のリスクが非常に高く、対策は必須となっている。
 山根氏は「大地震のような大規模災害の際には、初動の救命活動、ライフラインや道路網遮断時における復旧までの物資補充などの手段として、ヘリコプターは不可欠である」と語る。大地震によるライフライン遮断時は、道路も同じように寸断されているため、トラックなどによる輸送は期待できず、ヘリコプターの需要は高い。
 同氏は、阪神大震災以降、ヘリコプターの総機数が充実する傾向にはあるものの、民間機などの運用も含めると「効率的に運用するための体制がまだ確立していない」と指摘する。
 例えば「防衛省と海上保安庁では共通の通信ネットワークが存在しない」「使用する燃料が異なるため給油ができない」といった低い互換性、「複数の機関が出動している現場において、一機関が入手した情報を知らせるべき上位機関がはっきりしていない」といった不明確な指揮系統、など課題は多い。
 山根氏は、予想される各震災に対応した緊急時の一元的な通信情報ネットワーク、指揮・統制系統の早期構築を訴え、「明日起きるかも知れない大災害に向けた体制構築に加えて、迅速に対応できる訓練を継続的に行っていくことも重要である」とし、更なる備えの必要性を強調した。
シンポジウム開会の挨拶で、この翌日未明(9月11日)に新型ロケット「H2B」の1号機を打ち上げるという報告もあった
シンポジウム開会の挨拶で、この翌日未明(9月11日)に新型ロケット「H2B」の1号機を打ち上げるという報告もあった
 ほかにも機体運用の効率性を大幅に高める次世代の運航システム「DREAMS」の開発状況や、超音速機の持つ最大の問題点「騒音」を克服する「静粛超音速機技術の研究開発」の現状など、未来に向けた技術が紹介された。静粛超音速機の開発が成功すれば、東アジア圏への日帰り出張なども可能になる。また機体運用の効率性や輸送能力の高まりは経済効果も大きく、東アジアのハブ空港として国際的に認知されている中国や韓国との遅れを取り戻すことも含めて、これらの技術に期待がかかる。

 環境、防災、経済とインフラの一つである「航空」分野の技術開発で解決できる課題は多い。宇宙開発部門とともに今後のJAXAの研究に注目したい。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



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