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セミナーレポート
コンテンツ学会が10日間連続で研究会を開催

 コンテンツ学会は8月17日~28日の土日を除く平日に東京都千代田区のデジタルハリウッド大学にて「サマースペシャル企画10日間連続研究会シリーズ」を開催した。これは10日間連続で、コンテンツビジネスに関係する専門家を招いて講演を行うといったものだ。
 この企画ではWeb 2.0の最新トレンドについてや、台頭するライフログビジネスなど、興味を引く様々なテーマで講演が行われていた。なかでも、6日目、7日目、9日目に講演された「デジタルコンテンツと著作権」に関するテーマについては関心の問題ということもあって、活発な意見交換が行われた

Googleブック検索を巡る米国訴訟について解説した
弁護士の福井健策氏
Googleブック検索を巡る米国訴訟について解説した
弁護士の福井健策氏
 6日目(8月24日)では「データベース化する世界と、著作権の課題―Google和解期限を目前に―」という内容で、骨董通り法律事務所弁護士・ニューヨーク州弁護士で日本大学芸術学部の客員教授でもある、福井健策氏が語った。

 福井氏はGoogleブック検索を巡る米国訴訟について説明した。Googleは現在、世界の図書館や出版社と提携して、スキャンされた書籍を閲覧することができるサービス「Google Book Search(Googleブック検索)」を展開している。
 このサービスでは著作権の保護期間が満了した書籍に関しては全文表示し、著作権保護期間が存続している書籍に関してはスニペット(数行の抜粋)を表示することとしている。
 このサービスに反発した米国出版協会などは2005年、Googleに対して集団訴訟を起こした。こういった集団訴訟は米国で、「クラスアクション」と呼ばれ、一部の者が共通点を持つ多数の者を代表して訴訟を起こし、脱退(オプトアウト)しなかった利害関係者に訴訟の結果(和解を含む)が及ぶという特異な制度によるものだ。

 福井氏は、米国訴訟の争点として、原告側の米国作家協会・全米出版社協会が「Googleのスキャン行為自体がビジネス行為の複製なので著作権侵害になる」と訴えていることを紹介した。それに対し被告側のGoogleは「米国著作権法のフェアユース(公正利用)という例外にあたり許される」と主張していることにも触れた。

 そして、この訴訟が2008年10月に和解合意したことを紹介。和解契約の内容に関しては、2009年1月5日以前に出版、頒布された書籍やその挿入物(歌詞、児童書のイラストなど)がGoogleによる書籍のデジタル化の対象となり、新聞、雑誌などの定期刊行物などが除外されたことになっている。

 その他、同氏は著者、遺族、出版社が2009 年9月4日までにGoogleブック検索に対して脱退通知をおこなわない場合、裁判所の正式承認を条件に、Googleは書籍のスキャンを継続し、全部閲覧を含むオンライン配信が可能(非独占的)となることを紹介した。
 実際にGoogleは権利者の特定と管理のために「版権レジストリ」を設立する予定だ。理事は作家と出版社が同数で、ニューヨークに設置するという。Googleはこの版権レジストリのために3,450万ドル(約32億円、1ドル=93円)を拠出している。

 一方、日本の各種団体の反応としては、書籍出版協会などでは和解残留が現実的というニュアンスだ。また日本文藝家協会では、抗議声明を出したが、その後、高く評価する考え方に転換した。ビジュアル著作権協会、出版流通対策協議会、漫画家協会は離脱、和解を拒否している。

 福井氏はGoogleの戦略と和解が問いかけているものとして、かつてない規模の「流通出版モデル」として成功するのかどうか、ネットでの書籍配信は急速に広まるのかどうかに関心があるとした。同氏は「『流通』と『権利』を握るのは誰なのか、そして膨大なデジタル情報の権利をどう設計し、誰が管理するのか、興味深い」と話し、日本版のフェアユースの導入などについて著作権を全面的に見直すといった考え方である「著作権リフォーム論」が高まっていると話した。

 7日目(8月25日)は、ウェブコンテンツ制作や映像プロデュースなどを行っている株式会社シンク代表の森祐治氏が「日本コンテンツ海外展開の過去・現在とリバイバルプラン 」という題で講演を行った。
 森氏は日本のコンテンツは「長らく明確な意図のもとで、海外に販売・流通されてこなかったが、なぜか海外で広く親しまれている」として、これを「姿と戦略なき侵略」と位置付けた。

シンク代表の森祐治氏は日本におけるコンテンツの
海外展開について説明した
シンク代表の森祐治氏は日本におけるコンテンツの
海外展開について説明した
 森氏は日本のコンテンツによる海外展開の現在に至る過程について言及した。まず、「浸潤」――すなわち大きな注目を浴びることなくコンテンツが海外に持ち出されたという過程について触れた。
 その後、フリーライド作品や海賊版として、何度も視聴され、世代を超えた「浸透」の過程を挙げ、その国の人が自国の作品だと思うほどに愛されるようになった旨を説明。さらに、文化的差異を超え、類似作品や周辺商品などの再生産が始まった「定着」の過程があるとした。
 このことから日本のコンテンツ産業は、90年代から注目を浴びたものの、依然として、回収が困難な状態が続いていたと指摘。逆を言えば、回収されていなかったために広がったという認識がある。

 森氏は「今世紀に入り、世界的にメディアそのものの構造が崩壊しつつある。すでに様々なグローバルメディアが発達する中で、『コンテンツ・センタードモデル』のリーダーとしてポジショニングすることが重要になってきている」と説明した。

 他方では、同氏は2002年に発表したダグラス・マッグレイ氏(米国ニューアメリカ財団研究員・ジャーナリスト)の書いた論文『JAPAN’S GROSS NATIONAL COOL』について言及し、日本のアニメやマンガ、音楽、そして消費スタイルそのものに世界的に大きな注目が集まっていたことを紹介。
 しかし、その報告のなかで、日本がJポップの理論的な分析と解釈を行っておらず、戦略的な情報発信力の欠如が深刻であることも紹介した。これはJポップという強みをさらに強化するには、障害や多くの課題が日本にはあるとしたものだ。

 その上で、森氏は「サイバースペース*1」という言葉を生み出した世界的なSF作家ウィリアム・ギブスンが発表した2001年のエッセイに触れ、「なぜギブスンが日本に注目したか」という理由について語った。つまり消費の面では日本は世界のアーリーアダプター*2であり、日本は「未来の製造国」であると語っていたこと注目した。
 こういった考えは、今世紀初頭前後に活発化した韓国や台湾などのアジア圏諸国のコンテンツ政策も、元はといえば、日本のコンテンツやデザイン性のある付加価値家電や自動車などの成功などから発想されたものだ

 また、森氏は70年代~90年代の日本のコンテンツの海外展開について解説した。70年代の日本は加工貿易国家だったが、そうした中で、海外市場に対してはクオリティで勝負した時代だった。しかし高度成長期では内需優先でコンテンツの海外市場の理解が薄かった。80~90年代になると、内需ピークだが海外市場の重要度は増していく。そして90年代では日本のコンテンツに対して海外からの問い合わせが増加し、海外市場の再発見につながっていった。こういった流れから、日本では自国のコンテンツへの海外からの思いがけない評価に改めて驚く。海外市場の顕在化が叫ばれるが、日本の施策は空回りする状況に。その間にメディアコンテンツ産業の大変動期が訪れてきた、といった流れだったと解説した。

 9日目(8月27日)に登壇したITジャーナリストの津田大介氏は、「コンテンツビジネスと著作権」という内容で講演。ネットユーザのフェアユースについて考えていきたいとした。
 津田氏はデジタル化による変化について、物理物流コストの大幅削減や高品質の音質、画質サービスを提供できることに加え、コピーが短時間かつ容易に行える点を指摘した。また「違法コピー」の増加について、MP3 などの圧縮技術の進化やデジタルデータのネット上へのアップロード、動画投稿サイト(You Tube、ニコニコ動画など)の登場を例に挙げた。

ITジャーナリストの津田大介氏は著作権とコンテンツ
ビジネスについて講演を行った
ITジャーナリストの津田大介氏は著作権とコンテンツ
ビジネスについて講演を行った
 さらに、ネットとコンテンツ産業の対立についてはネットワークが自由であるがゆえに、「コピー」がばらまかれるやりやすさと、「伝搬しやすさ」が従来の著作権との「食い合わせ」を悪くしているとした。その一方で、デジタル化によって変化したコンテンツビジネスの「構造(産業)」を守るため、著作権者(アーティストを含まない)以外はコピーをさせないように、著作権法は改正されてきた歴史を伝えた。

 また、ネットにおける技術と社会制度が対立してきた背景を例示。動画投稿サイトの問題として、コンテンツ産業とIT事業者の対立やコンテンツ産業とメーカーの対立、Winny作者逮捕事件に代表される、著作権問題、情報漏えい問題があるとした。

 そしてクリエイターの立場としては、作った作品を多くの人に楽しんでもらい、(可能なら)対価を得たい点があること、著作権者(出版社・放送局・レーベルなど)の立場としては、専有する権利を露出も含めて、できるだけ自分たちでコントロールしたい点という対立の構図があると語った。
 一方で消費者・ユーザーの立場としてはできるだけ、安く便利に多様なコンテンツを楽しみたい点があり、メーカーやIT事業者の立場としてはコンテンツが自発的に流通するプラットフォームをつくってトラフィック*3を集め、マネタイズしたい(お金に変えたい)という思惑があると指摘。最近の技術と著作権の対立裁判としてはファイルローグ事件*4録画ネット事件*5まねきTV事件*6などを紹介した。

 津田氏は日本版フェアユースの可能性について、日本の著作権法では通常は違法だが、「こういう使い方なら見逃す」ということを個別に列挙する必要があるとした。そもそもフェアユースは「面倒なことは裁判で決着させよう」という米国の司法制度に基づいたものだと解説。そのため、日本で導入されたところで、どれだけネット事業者が勝負できるようになるかは微妙であると見解を述べた。

 また、今後認めてもらいたいフェアユースとして、津田氏は不特定多数公開を前提としない録画代行サービスや、リッピング*7 化などのデジタル化支援サービスを挙げた。これについてはデジタル時代のコンテンツ「共有」はどこまで認めるべきか、クラウドのようなサービスはどうするのかといった問題があると加えた。

 今回のような、10日間連続で、コンテンツ分野に精通する専門家を招いて、個々の専門について語ってもらうという取り組みは、参加者にとって有機的な知識の習得につながる。実際に各講演後は、時間ぎりぎりまで質問が相次ぐなど、参加者の関心の高さがうかがえた。こうした取り組みを今後も行っていくことを、コンテンツ学会に大いに期待していきたい。


シンポジウム「日本版フェアユース導入の是非を問う」の記事はこちら



※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*1:サイバースペース
SF作家のウィリアム・ギブソンが著書『ニューロマンサー』などで使用したサイバネティックスと空間の合成語。電脳空間ともいう。

*2:アーリーアダプター
新しい商品やサービス、技術や知識、ライフスタイルなどが登場したとき、早い段階でそれを購入・採用・受容する人々(層)のこと。 

*3:トラフィック
ネットワーク上を移動する音声や文書、画像などのデジタルデータのこと。

*4:ファイルローグ事件
日本MMO(有限会社日本エム・エム・オー)が開発・公開していたP2Pソフト(ファイル共有ソフト)「ファイルローグ」が、市販の音楽CDからの違法コピーにより著作権を侵害しているとして訴えられた事件。 

*5:録画ネット事件
2004年10月、日本のテレビ番組を録画・視聴できる環境を海外在住の日本人向けに提供していた「録画ネット」に対し、東京地裁が著作権侵害等を理由にサービス差し止めの仮処分を言い渡した事件。

*6:まねきTV事件
「まねきTV」とは利用者が自分で購入したソニー製品である「ロケーションフリー」をまねきTV側に送り、専用ソフトを組み込んだ自分のパソコンなどでインターネットを通じてテレビ番組を受信するもの。その「まねきTV」に対し、NHKと民放5社が著作権法違反を理由にサービス停止の仮処分を申し立て、東京地裁はそれを却下した事件。

*7:リッピング
音楽CDに記録されているデジタル形式の音声データを抽出してパソコンで処理できるようなファイル形式に変換して保存すること。


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