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公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
は“個人の意識”
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セミナーレポート
“パーソナル情報”の利活用に向けてのセミナーが開催

 電子マネーの購買履歴、携帯電話等GPS機能の移動履歴など、日常生活において社会全体のあらゆる所で蓄積され続けている膨大な情報。多様なセンサーが組み込まれた機器を人々が携行する現在、多種多様な情報の収集が可能になり、行動支援や健康支援といった、より個別のニーズに応えることを目的とした新たなサービスも生み出されようとしている。一方で収集された“パーソナル情報”は個人にまつわるデータの蓄積であり、新たなサービスの可能性を秘めている反面、常にプライバシー保護のリスクがつきまとう。

会場は、当日は立ち見も出るなど大盛況であった
会場は、当日は立ち見も出るなど大盛況であった
 経済産業省の実施事業としてスタートした「情報大航海プロジェクト」は、一橋大学名誉教授の堀部政男氏、東京大学生産技術研究所の喜連川優氏、弁護士の牧野二郎氏を発起人とし「パーソナル情報利活用コンソーシアム(仮称)」の設立を進めている。“パーソナル情報”のビジネスへの利活用とプライバシー保護を両立する、新たな枠組みの構築を目的としている。2009年6月19日に泉ガーデンコンファレンスセンターで行われたシンポジウムでは、様々な取り組みと情報利活用の新たな枠組みに向けて講演を行った。

東京大学生産技術研究所教授 喜連川優氏
東京大学生産技術研究所教授 喜連川優氏
 冒頭の講演では、東京大学の喜連川氏が檀上に立った。まず2009年6月12日に著作権法の一部法改正*1が参議院を通過したことに触れ、「我々の努力がある程度実ってきたという実感がある」と述べた。IT化により情報流通形態が激変した昨今、既存の法律が電子情報活用への足かせとなる現実を改善するべく、新たな制度作りへの働きかけを続けてきたことのひとつの成果であるとした。

 また国際動向として、同氏が参加した経済協力開発機構(OECD)の「情報セキュリティとプライバシー作業部会(WPISP)*2」(2009年6月8~9日にポルトガルのリスボンで開催)での様子を報告した。高齢化に伴い増大する医療費の抑制がOECD各国共通の課題である中、米国が莫大な資金を投入しているEHR(Electronic Health Record 医療情報のネットワーク化)について賛否両論の議論が交わされた旨を報告。また会合で最も注目の高かったのがセンサーネットワーク*3を取り巻く環境整備に関してである。「情報の生成源は人からセンサーに移行しつつある」と喜連川氏は述べ、現在、非常に広域に展開するインフラをどう整備するのか、また収集される膨大かつ詳細な情報に関し、セキュリティ、プライバシーといった側面に対するガイドラインの策定も重要であり、今後は日本からも積極的に提案していきたいとした。

牧野総合法律事務所 弁護士 牧野二郎氏
牧野総合法律事務所 弁護士 牧野二郎氏
 弁護士の牧野氏は「パーソナル情報時代の制度設計」という題で講演。「“個人情報”が個人を特定可能な情報とすると、“パーソナル情報”は行動履歴や生体情報等も含んだより広い範囲の情報であり、二次利用や第三者提供を視野に入れている」と、まずその概念を整理した。

 そして“パーソナル情報”活用の問題点として、行動ターゲティング広告を例に挙げ「米国では、プライバシー侵害ではないかという議論がある」と提起した。消費者が自分の知らない間に自分の行動を監視されているような「気味の悪さを感じる」として、牧野氏はその嫌悪感の理由を「情報の使用目的に対する説明、また情報提供することで消費者が得られるメリット、そして情報を提供するか否かの選択権が、消費者に与えられていないという部分にある」と述べた。

 しかしすべての情報において煩雑な手続きを経て「消費者の同意」を得ることは事実上困難であり、例え同意を得たとしても消費者もその内容を忘れてしまう可能性が高い。プライバシー保護の制度を作る際に重要な点として、ひとつひとつ約款を作るといった「左脳で考えた理詰めの仕組み」ではなく、感覚的な嫌悪感を一掃できる「右脳で考えた時にもストレートに理解できる仕組み」を模索することが重要ではないかと提言した。

 “パーソナル情報”を保護しつつ、いかにサービスにつなげていくのか。今後ますます発展するであろう情報化社会において重要なテーマであり、活発な議論が交わされたシンポジウムであった。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*1:著作権法の一部法改正
改正された著作権法では、違法配信されている音楽・映像のダウンロードを禁止する、「ダウンロード違法化」の措置が盛り込まれた。また、著作物利用円滑化への措置として、ストリーミング配信におけるキャッシュや、検索エンジンによるコンテンツの複製について一定限度内において、権利者の許諾を必要としないとした。

*2:情報セキュリティとプライバシー作業部会(WPISP)
正式名称はWorking Party on Information Security and Privacy。OECDにおいて、ICCP(Information Computers and Communication Policy 情報コンピュータ通信政策委員会)の下部機関の一つとして設立された、情報を制度的・立法的側面から検討する組織。

*3:センサーネットワーク
無線通信機能を持たせた複数のセンサーをあらゆる場所に散在させ、それらが連携して環境や物理的状況を採取することができる無線ネットワークのこと。


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