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公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
は“個人の意識”
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総務省がユビキタス技術と医療ITについてのシンポジウムを開催

 総務省と財団法人テレコム先端技術研究支援センターは、東京都品川区にあるコクヨホールにおいて、今年で3回目になる「ユビキタス医療シンポジウム」を開催した。


開会挨拶は総務副大臣の石崎岳氏が務めた
開会挨拶は総務副大臣の石崎岳氏が務めた
 ユビキタス医療とは、「どこでも、いつでも、だれでも、意識しなくとも」最良の医療や健康管理を受けられる医療のあり方である。カルテが電子化されていても、患者データや実際に投与した薬品の情報を、電子的なデータに反映するのは、現在のところ事務的な手作業による入力でしか行えない。

 しかし無線などから、バイタル情報や投薬状況などの医療情報を、ネットワーク上にある電子カルテに自動的に記入する技術があれば、単に入力の作業を軽減するだけではない。「24時間体制で患者の健康状態を管理する」「電子カルテやオーダーをネット経由で自動的にチェックして人的なミスを劇的に削減する」など、医療の効率化、安全化に直結するような様々な利点が考えられる。

大道氏が医療現場のIT導入について述べた
大道氏が医療現場のIT導入について述べた
 同シンポジウムでは実際にシステムを開発している研究者や現場でシステムを扱う医療関係者を招待し、医師たちのIT利用程度やユビキタス医療について講演が行われた。

 社団法人日本病院会常任理事の大道道大(みちひろ)氏は、今年の2月に病院会で行った、病院におけるITシステムの導入に関するアンケートの結果を示した。医療事務(99.8%)やオーダリングシステム*1(65.7%)については高い導入率を示したが、地域医療*2の根幹とされている電子カルテ*3については27.1%と低い数値だった。
 同氏は「IT化のメリットは理解されつつも、費用対効果、維持費などの懸念から導入率は低い」と述べ、依然として医療の最前線では医療事務やオーダリングシステムといった、一病院内での単独システムしか構築されていない現状を訴えた。

 また現在、試験的に導入されているユビキタス技術の具体例として、秋田大学医学部付属病院医療情報部教授の近藤克幸氏が、薬品への個別電子タグ埋め込みによるトレーサビリティ(流通過程の追跡)の有用性について紹介した。
 近藤教授は製薬会社に協力を仰ぎ、製造段階から薬剤ごとに個別の電子タグを張り付けた。この電子タグと電子カルテとを連動させることで、例えば電子カルテとのオーダーと、看護師が投与しようとしている薬剤が異なった場合には警告を発し、ベッドサイドにおける誤投与などの事故を防ぐことができる。
 また薬剤の電子タグを読み込むことで、電子カルテに「どの薬剤をどの患者に投与したか」という記録が残るため、通常では大変手間のかかる、薬剤市販後に義務付けられている市場調査も、非常に簡便なものになるという。

ユビキタス医療の展望について議論された
ユビキタス医療の展望について議論された
 最後に行われたパネルディスカッションでは、「医療のより高い安全性・信頼性の向上に向けて」と題して、これまでの講演者に、厚生労働省・総務省官僚を加え、ユビキタス技術の医療への応用について議論した。
 厚生労働省医政局研究開発振興課の冨澤一郎氏は「ユビキタス技術や電子カルテなどを利用した医療ネットワークを用いることで、医療の安全性向上や業務負担の軽減が図れる」と述べ、同技術の必要性を訴えるとともに、マンパワーの減っていく少子高齢化社会においても、質の高い医療水準を維持していくためには欠かせないとした。

 このシンポジウムでは、医療とユビキタス技術の関係が中心の内容となった。医療IT化政策の中でユビキタス技術はもっとも先進的なものであるだけに、導入した場合の効果も劇的だ。医療財政においても、医療現場においても「医療崩壊」が叫ばれる中、崩壊を食い止める一手として、ユビキタス技術を含む医療のIT活用発展に期待したい。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



注釈

*1:オーダリングシステム
一病院内での、科を跨いだオーダー(放射線科へのレントゲン写真要求、薬剤科への処方箋など)を院内ネットワークで行うシステムのこと。

*2:地域医療
地域の中核病院と診療所で連携を取る医療形態のこと。例えば、生活習慣病の慢性的な疾患の管理は診療所に任せ、重症化した場合に即座に中核病院へ移すというようなシステム。地域医療を行うための情報基盤には、継続的かつ連携しやすいカルテが必要になるため、ネット上でやり取りができる「電子カルテ」が有力な方法とされている。

*3:電子カルテ
医師が診断した際に患者の情報などを記録するカルテの電子版。紙カルテでは、その場に原本が存在しない限り見ることができなかった患者情報が、電子カルテではネットワーク上に存在するため、アクセスできる環境下ならば、いつでもどこでも見ることができる利便性がある。



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