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公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
は“個人の意識”
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RIETI政策シンポジウム「大規模業務データから何を学ぶか」が開催

 RIETI(経済産業研究所)が主催するシンポジウム「大規模業務データから何を学ぶか」が3月5日に千代田区にある如水会館で行われた。


如水会館には300名近くの参加者がつめかけた
如水会館には300名近くの参加者がつめかけた
 これは経済・産業における大規模データの解析手法やモデル構築方法を議論する「東工大・一橋大学国際会議&APFA7」との関連イベント。例年ヨーロッパで開催される国際会議「APFA7」の流れを受け、会場には物理学者や経済学者をはじめ、国際色豊かな参加者が集まった。




一橋大学物価研究センター・経済研究所教授 渡辺努氏一橋大学物価研究センター・経済研究所教授 渡辺努氏
 一橋大学物価研究センター・経済研究所教授で、国際会議のオーガナイザーでもある、渡辺努氏から今回のシンポジウムの目的が紹介された。
 同氏は、秒分数秒単位で変動する為替相場や、スーパーで販売されている商品の個別売上高など、数十年前には得られなかった詳細かつ正確なデータが、研究に用いられるようになった旨を説明し「このようなデータは経済学者のみならず物理学者の興味も喚起し、積極的に研究に活用されている」と述べた。経済現象を物理学による分析アプローチを用い、そのメカニズムが解明するという、経済学の新しい潮流ができつつあるのである。
 またシンポジウムタイトルに“業務データ”とした理由を「政府の統計とは異なるものとして、企業が生み出す業務データを研究に用いられるようになったことの成果は大きい」とし、今後、企業とのさらなる協力体制を築くことで、経済のさまざまな現象についての理解を深めることができるはずである、とした。

ノースイースタン大学 アルバート・ラズロ・バラバシ教授の講演で用いられたネットワーク構造のモデル図
ノースイースタン大学 アルバート・ラズロ・バラバシ教授の講演で用いられたネットワーク構造のモデル図
 基調講演のひとつとして、ノースイースタン大学 アルバート・ラズロ・バラバシ教授が檀上に立ち、まず同氏の研究成果で世界的な注目も高い「スケールフリーネットワーク」について説明がされた。
 「スケールフリーネットワーク」とは、一部のノード(接合点)が膨大なリンクをもつ一方で、ほとんどはごくわずかなノードとしか繋がっていないという、ネットワーク構造の特徴である。「例えば、世の中の人が皆、平均数の知人を持つわけではない。一部の人は非常にたくさんの知人を持つが、大多数の人の知人の数は少ないというような性質である」と述べ、これはGoogleというサイトが莫大な数のリンクを持つのに対し、ほとんどのサイトはわずかなリンクしか持たないといったインターネット上での現象はもちろん、産業構造や企業間ネットワークでも見られる現象である、とした。またその最大の特徴はノードが増えてもネットワークの形状が変化しないフラクタル 性にあり、こういった法則性の発見により社会、経済における様々な現象を解明することができると述べた。今回は例として、先進国・発展途上国の産業が発展する過程の分析を行った。

左/ノースイースタン大学 アルバート・ラズロ・バラバシ教授、中央/スイス連邦工科大学 チューリッヒ校教授 ディディエ・ソネット氏、右/東京工業大学大学院総合理工学研究科准教授 高安美佐子氏左/ノースイースタン大学 アルバート・ラズロ・バラバシ教授、中央/スイス連邦工科大学 チューリッヒ校教授 ディディエ・ソネット氏、右/東京工業大学大学院総合理工学研究科准教授 高安美佐子氏
 また質疑応答では「噂とはどのように伝搬して、どのように社会に影響を及ぼすか、昨今の不況は噂(口コミ)の伝播も一因ではないのだろうか」との質問が会場から上がった。
 それに対し、基調講演を行った東京工業大学大学院准教授 高安美佐子氏は「噂(口コミ)と販売量の相関は、マーケティングの研究においても明確に数字に表れている。しかし、噂によって販売量が増加するのか、販売量が増加するから噂になるのか、その解明には少し時間がかかるだろう」とした。また、同じく基調講演を行ったスイス連邦工科大学 チューリッヒ校教授 ディディエ・ソネット氏は「この不況は噂を超えてハーディング(群衆行動)の問題であるとも言える。不況に入り、人々が過剰な楽観主義から過剰な悲観主義に変化したことも一因であるだろう」とした。

 そのほか業務データや政府統計をもとに、さまざまな調査・分析が行われている事例が報告され、大規模データの多様な活路が示された、また議論されたシンポジウムであった。



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※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



注釈

*:フラクタル
1975年にフランスの数学者ブノワ・マンデルブロが考案した幾何学の理論。木々の枝別れや海岸線などを例にとり、図形の一部分と全体が自己相似形になることを数学的に証明した。



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