「パブリック・ドメイン所蔵品資料活用に向けて」が開催:イベント・セミナーレポート:HH News & Reports:ハミングヘッズ

ITをもっと身近に。新しい形のネットメディア

- Home > コラム > イベント・セミナーレポート > 「パブリック・ドメイン所蔵品資料の活用へ向けて」が開催
 コラムトップページ
 インタビュー記事 ▼
 イベント・セミナーレポート ▼
公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
は“個人の意識”
(動画あり)

「パブリック・ドメイン所蔵品資料の活用へ向けて」が開催

 慶應義塾大学DMC(Digital Media and Content)機構は、国際交流基金の助成を受け、2009年1月24日、25日に慶應義塾大学三田キャンパスの北館で「パブリック・ドメイン*1所蔵品資料活用に向けて―美術館・博物館所蔵の映像資料のフェア・ユース*2を考える―」を開催した。
 同シンポジウムは博物館が所有する美術作品などについて、WEB上を含めて今後、どのように公開していく必要があるかについて、話し合ったものだ。国内外から様々な発表者が意見を交換した。


1日目に行われた意見交換の様子
1日目に行われた意見交換の様子
 1日目は、初めにカナダ・トロントを拠点に置く美術館・博物館向けの情報デザイン・コンサルテーションを行うアーカイブズ&ミュージアム・インフォーマティクスの共同経営者、デイヴィッド・ビアマン氏が「ミュージアムと共有文化財:知財の枠を超えて」という題で講演を行った。
 次に、同じく共同経営者であるジェニファー・トラント氏が「世界のミュージアム・ウェブの現状と課題」について現場からの現状報告を行った。その後、国内外の若手美術家の育成を図る発表の場を提供していることで知られるトーキョーワンダーサイトの館長・今村有策氏をモデレーターに迎え、フランス・パリに拠点を置く総合文化施設であるフランスのポンピドゥーセンターでIRI研究所の副所長を務めるヴァンサン・ピュイグ氏らがパネリストとして意見を交換した。
 また韓国・漢陽大学博物館館長のべ・キドン教授、前出のヴァンサン・ピュイグ氏、国立台湾大学センター・オブ・デジタル・アーカイヴス研究員のツァイ・チュンミン氏らが各国より現状報告とケーススタディの紹介を行い、最後に慶應義塾大学常任理事の村井純氏が総括をした。
ウィリアム・フィッシャー教授の講演ウィリアム・フィッシャー教授の講演
 2日目は、冒頭で「知財クライシスをいかに打開すべきか?」という題で、ハーバード大学法科大学院バークマン・センターのファカルティ・ディレクターであるウィリアム・フィッシャー教授が講演した。
 フィッシャー教授は、高レベルな知的財産の観念や、IPの問題とソリューションの提案を挙げた。「著作・知財の権利について考えるとき、IPの権利をシステムではどういう目的があるのかを考えていき、そしてそれを調査し、大学やミュージアムのなかで、危険な状況に陥っているか確かめる必要がある」とした上で「もしも危機的な状況だとしたら、一般のアクセスを妨げないような形で、最大限アクセスを高める方法を議論すべきだ」と語った。
 次に放送ジャーナリストでもある、米イメージ・フォートレス社メディア部門代表のスチュワート・シーフェイ氏が「知財へのアクセスを考える現実的なビジネスモデルとは?」という題で、講演を行った。シーフェイ氏は自身のキュレーター(学芸員)としての経験から、具体的なIPの問題に対して、自分達がコレクションを作っていくうえで、どのように取り組んできたのかを説明し、インターネット・アーカイブについて自身の経験を話した。
パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子
 午後の部では「コンテンツホルダーとしての美術館・博物館の理想とは?」という題でパネルディスカッションが行われた。たばこと塩の博物館の学芸員である鎮目(しずめ)良文氏が現場からの現状と問題提起を行った。
 鎮目氏はデジタル・コンテンツを充実させていく施策のなかで、企業や博物館などが所有する様々な“資源”が注目されていることを指摘。いわゆる美術作品や歴史資料だけではなく、過去に制作された商品や広告(ポスター、チラシ、CM、その他)、製造機械や文書類も含めて“資源”として注目されているとした。そのなかでも、公表から100~50年前後のものは契約書類が残っておらず、誰が著作権者かわからなくなっているという問題があることも指摘した。
 さらに印刷博物館の館長である樺山紘一氏、東京都写真美術館の館長である福原義春氏、文部科学省宇宙開発委員会委員の池上徹彦氏によって活発な議論が交わされた。美術館や博物館が所蔵しているものがネットで活用されるためにはどのようにして理想的な環境を実現する必要があるのかについて、それぞれ意見を述べた。

 一方、「知財:望ましいナショナル・ポリシーと現実的な対応」のパネルディスカッションでは、弁護士・弁理士の伊藤真氏、立教大学法学部准教授の上野達弘氏、弁護士・弁理士であり、京都大学産官学連携センターの客員准教授の藤川義人氏がパネラーとして参加。「日本版の著作権法では、フェア・ユースに関する一般的な規定、包括的な規定がない。そのため、日本版フェア・ユース規定をどのようにつくればよいか」といった意見が出た。
 最後に慶應義塾大学DMC機構准教授の金正勲氏や、同教授の岩渕潤子氏を中心に実践的モデル提案に向けた議論が行われ、大盛況のうちにセミナーは締められた。

 今回のセミナーでは美術館、博物館が所有する美術作品や歴史資料だけではなく過去に制作された商品や広告といったものに関して、WEBなどの手段も含め、どのように公開するべきかについて、またフェア・ユースに関する規定について海外の専門家や、国内の美術館関係者、法律の専門家を招いて議論したことが意義深かった。日本と欧米ではフェア・ユースに対する考え方が違うところもあるが、今後のフェア・ユースの未来像をこれからも建設的に議論していくことに期待したい。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



注釈

* 1:パブリック・ドメイン
著作物や発明などの知的創作物について、著作者や発明者などが排他的な権利を主張できず、一般公衆に属する状態にあること。パブリック・ドメインに帰した知的創作物については、知的財産権が誰にも帰属しない。そのため誰でも自由に利用することができる。

* 2:フェア・ユース
アメリカの著作権法にある規定で、著作物の1.使用目的、2.使用量、3.創造性、4.権利者の程度が定められている。大きな特徴のひとつに、著作物の無断利用ができる場合(つまり、著作権が制限される場合)の規定の仕方につき、私的使用のための複製や裁判手続等における複製のような具体的な類型を列挙する方法によるのではなく、抽象的な判断指針を示す方法によっていることがあげられる。



お問い合わせ

  コラムトップページへ▲