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公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
は“個人の意識”
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セミナーレポート
特許庁が外国産業財産権制度セミナーを開催

 2011年1月12日、東京都千代田区の全国町村議員会館にて「中小・ベンチャー企業のための外国産業財産権制度セミナー」が開催された。これは特許庁が主催となって、社団法人発明協会が実施したもの。同セミナーは翌13日に大阪においても開催されている。この日のテーマは「インドネシア・マレーシア・シンガポールの知的財産権制度と模倣対策」だった。

 インドネシア・マレーシア・シンガポールは経済発展を続けるASEAN地域において、貿易・投資・人材の面で進捗著しく、その存在感を一層高めている。
 また3カ国は近年、経済連携を強めており、各国の企業進出によって、特許出願も非常に盛んだ。セミナーではそうした3カ国の知財事情や模倣対策について触れる貴重な場となり、200名ほどの参加者があった。

 マレーシアでも屈指の知的財産法律事務所KASSインターナショナル社長のP.カンディア氏はマレーシア国内外での特許取得、商標権、意匠権の仕事に20年以上従事しており、その観点から講演を行った。
P.カンディア氏はマレーシアとシンガポール両国の
知的財産権や模倣品対策について解説した
P.カンディア氏はマレーシアとシンガポール両国の
知的財産権や模倣品対策について解説した
 マレーシアとシンガポールは英国の植民地だったことが共通しており、両国とも英国の法制度と同様の法律・裁判制度が採用されている。また、両国において特許出願を英語で行えることが、海外の国々が特許出願を行う上でメリットともなっている。
 マレーシアでは特許の出願件数が年々増加しており、今では年間約6000件の登録件数がある。登録においては2009年の段階で米国がトップで、2位がマレーシア、3位が日本の企業だ。一方、シンガポールでは米国が首位、日本が2位となっている。

 こうした背景に見られるように海外の企業が進出し、特許の出願が増える一方、模倣品など特許を侵害する事件が両国でも深刻な問題になっている。

 模倣品に対する処置として、両国では刑事訴訟と民事訴訟のケース*1がある。刑事訴訟の場合は侵害事実の調査*2 のあと、著作権と商標権に関する侵害事実が明らかとなった場合は被害者による正式告訴が行われる。その後、警察による被疑者の取り調べを経て、IP(Intellectual Property:知的財産)専門裁判所の法廷での刑事訴追*3が行われ、罰金や懲役刑の判決が行われるといった流れだ。
 一方、特許権と意匠権の侵害の場合は民事訴訟による対応を行う。民事訴訟の場合は調査のあと、被害者による訴訟提出が行われる。この際、IP専門裁判所では本格的な審理を行う前の一時的な救済措置として、被害者側の申し立てに対応して仮差止命令が下される。その後、同裁判所にて裁判が行われることで正式に差止命令が下され、被疑者による損害賠償の支払い、新聞での謝罪などの処置が行われるといった仕組みだ。

 カンディア氏は「被害者が模倣品のような権利の侵害に気付いた場合、速やかに行動すべきだ」と指摘する。差止命令を求める訴えが不当に遅れた場合、裁判所は仮差止命令を拒絶する場合があるからだ。
 実際に、マレーシアで日本の大手家電メーカの家電製品が進出したのと同時期に同社ブランド名のアルファベットがわずかに異なる模倣品が市場に出回った。これに対して、日本企業側が迅速な対応を取らなかったため、仮差し止め請求を行う権利を失う形になった。そのため、現在でも消費者にとって紛らわしいブランドが市場に流通し続けているといった状況だ。
 こうしたことを防ぐためにも、カンディア氏は特許等を速やかに正確に登録し、権利の侵害がないか、定期的に市場を監視することを挙げている。

 続いて、インドネシアの知的財産権制度と模倣対策について、同国で知的財産に関するコンサルティングを行っているハギンダ・インターナショナル代表の山本芳栄氏が講演を行った。
山本氏はインドネシアの知的財産制度について講演
山本氏はインドネシアの知的財産制度について講演
 インドネシアでも商標・意匠・特許の出願が年々増加傾向にある一方、それらの侵害についての件数も増えている。海賊版利用率についても85%とアジアのなかでもベトナム、パキスタンに次いで3番目に高い状況だ。(海賊版利用による被害額は中国が1位)
 しかし、こうした環境であるにも関わらず、インドネシアでは海賊版の取り締まりが遅々として進んでいないのが実情だ。例えば、税関での差し止めについては海賊版CD以外ほとんど実績がない。これについては税関での差し止めに関する施行規則がインドネシアでは整っていないことが理由として挙げられる。
 さらに広い範囲で見ると、同国では民事的解決方法について商標、意匠、特許などで可能となっているが、ほとんど実績がない。損害賠償請求訴訟が行われた件数も2003年~2005年で5件、そのうち、原告の勝訴が1件という少なさだ。

 したがって山本氏は同国における商標、意匠、特許といった権利侵害については「民事よりも刑事的解決に持ち込むのが得策」と指摘する。同国の刑事的な解決の流れとしては被害届を出してから取り調べが行われたあとに刑事訴追となるが、一般的には刑事訴追の手前で示談*4 交渉が行われている。その示談によって侵害の停止や罰則規定が決まる。
 ここで特許の侵害について、インドネシアの知財総局から鑑定書をもらうことが非常に重要となる。国家が与える証明書が物を言い、鑑定書のない権利を主張することは被害者にとって不利になるというわけだ。
 このことからもわかるが、被害者はインドネシアでの特許等の侵害に関して「私権の保護を求める」というスタンスよりも、「国家が与えた特権を侵害する者を、国家権力を利用して懲らしめる」といったスタンスで示談に臨んだ方がよいと山本氏は説明する。

 また、商標・意匠・特許の侵害は親告罪(告訴がなければ公訴を提起することができない犯罪)であるため、被害者側も捜査に対し積極的に参画することが絶対条件となる。

 今回のセミナーでは普段触れることができないインドネシア・マレーシア・シンガポールの知財の仕組みや背景、模倣品に対する裁判の流れ、現地で注意すべき点について知ることができるなど中小企業にとって重要なセミナーとなった。また、これからもそういった国々に進出する企業が足がかりにするためのきっかけにつながったと思う。特許庁が同内容のセミナーを今後も行っていくことで、中小企業がアジアに進出する際の参考になることを期待したい。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*1:刑事訴訟と民事訴訟のケース
両国では模倣品について、全ての侵害の形態が刑事の対象になるわけではない。著作権の侵害、商標の模倣は刑事罰の対象。特許の侵害については刑事ではなく、民事の対象になる。被害者が民事手続きで裁判を提訴する目的は1.被疑者側の方で違反行為を止めてもらうこと2.損害賠償を求める、などで当事者間での解決を望む場合が一般的。一方、刑事の場合、刑事犯について訴追をする権利は政府・警察となっている。

*2:調査
知的財産権の所有者本人が行うか、現地で製品の頒布、販売を行っている業者が行うか、専門の調査会社に依頼して行う。

*3:刑事訴追
刑事事件の犯人として逮捕起訴されること。

*4:示談
法律上の問題を巡る紛争を裁判外において当事者同士の話し合いで解決すること。




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