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公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
は“個人の意識”
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セミナーレポート
「スキル標準ユーザーズカンファレンス2011」が開催

 ビジネススピードの変化や企業のグローバル化に伴い、企業が求めるIT人材はシステム運用・管理者から、情報やITサービスをビジネスに活かすことのできる人材へと変わってきている。そのような背景を受け、「スキル標準ユーザーズカンファレンス2011」では、「組織力強化に直結するIT人材の充実」をテーマに掲げ、2010年12月8日に開催された。

いかに人材育成を行うか活発な意見交換が交された
いかに人材育成を行うか活発な意見交換が交された
 「ITスキル標準」(以下、ITSS)は、経済産業省が2002年にIT人材に求められるスキルやキャリア・職業を明確化・体系化した指標。それをユーザ企業向けに情報システム活用における課題を解決するためのスキル項目として情報処理推進機構(IPA)が策定したのが「情報システムユーザースキル標準」(以下、UISS)だ。企業では、これらのスキル標準を基にIT人材育成を行おうとしている。

 基調講演は、経済産業省 情報処理振興課課長補佐の田辺雄史氏が「高度IT人材の育成に向けて」と題して行った。田辺氏は、「企業は今ITを使ってどうやって競争力を高めていくか、グローバルで戦っていく中で業務をいかにITで効率化させていくかが課題であり、そういったことを実現できる人材が求められている」と言及。そして、今後クラウドの利用や、データを加工して付加価値をつけて他の事業者とやり取りを行うデータの二次加工・三次加工といったビジネスが多くなるため、他社のシステムと連携するためには大企業だけでなく、中小企業も同等のITスキルが必要になってくると指摘した。

 そのため、経済産業省では高度なIT人材の育成を目指し、情報処理技術者試験*1とITSS/UISSなどのIT人材スキルの整合化を実施。産業界が求める実践的な人材と大学の教育をマッチングさせる産学連携の人材育成や、22歳以下を対象とした講習会を実施する若年IT人材育成事業なども展開している。
 また、中国・インドなどでのオフショア開発*2が増加しているため、グローバル支援として情報処理技術者試験の海外相互認証の確立を目指している。例えば、海外で資格取得をしてもそれが相互認証資格であれば、日本でも同等の資格取得を認めるといったことや、オフショア開発や海外事業を進める際に相互認証資格があれば日本が求めるスキルと整合し、発注先企業に求める人材がいるかどうかの判断基準となる。田辺氏は「IT人材の育成は国の競争力を向上させる。今後もよりよいIT人材のスキル標準の方向性を作っていきたい」と語った。
(ユーザ企業IT関連業務の担当人員割合
(出典:情報処理推進機構「IT人材白書2009」)
(クリックすると拡大します)
ユーザ企業IT関連業務の担当人員割合
(出典:情報処理推進機構「IT人材白書2009」)
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 次に情報処理推進機構で理事を務める田中久也氏が「IT人材白書」の調査結果を基にIT人材の意識と課題について講演を行った。同白書によると、企業ではIT人材の質に対して不足感を抱いており、特にユーザ企業ではその傾向が顕著だという。田中氏は、ユーザ企業のIT関連業務担当の人員割合で「社内システムの開発・導入・保守」が2008年度調査で25.7%だったのが、2009年度調査では28.3%(右図参照)と、他の担当よりも一番増加率が高いことを示し、「情報システム部門はトップからの期待感が多く、仕事量が増えているのではないか」と解説。

 しかし、その一方でIT人材からは「将来のキャリアに不安を感じる」という調査で「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」が約7割を占め、その理由として「自分の現在のスキルが将来にも通用するかどうかわからない」という回答が約半数を占めた。
 これに対し田辺氏は「企業のトップはITの可能性は非常に高く、これからもIT分野の人材が必要であることを示していくべき。そのためにも、会社のビジョンと必要としている人材像やキャリアアップの目標を明確にするべき」と訴えた。

 明治大学大学院教授の野田稔氏は、「真の国際競争力を持つIT人材を育てること、その重要性と方策とは」と題して特別講演を行った。野田氏は「企業は顧客の獲得ではなく、顧客を創造することが重要。今企業はその顧客を創造することに苦しんでいる」と語り、日本企業の変遷を解説。1960~70年代の規模拡大や利益至上主義の「強い会社」から、1980年以降は、事業の多角化や海外への進出による事業拡大をするための知識や知恵を必要とする「賢い会社」へと変遷し、そして今は、社会問題解決や社会価値創造を目指す「志の高い会社」になりつつあるという。特に若い優秀な人材ほど社会問題や価値創造の意識が高く、これは世界的な動きであることを指摘。
 しかし、「賢い会社」と「志の高い会社」には意識に大きな溝があり、この溝を埋めないとよい人材が確保できず真の国際競争力を持った企業にはなれない。そのため、「今はこの溝を乗り越えられる自立創造性を持った人材育成が必要であり、企業がどれだけ真剣に人材育成ができるかが問われている」と述べた。

 このほか、製造業のIT部門やITサービス企業におけるITSS/UISSを活用したIT人材育成の事例などが紹介された。
 カシオ計算機では、IT部門の役割が「情報活用による経営戦略の創造」や「全社横断のビジネスの変革」となってきたことから、それらの要求に対応できる人員を育成するために、2003年よりITSSを導入し(のちにUISSに移行)、人材育成に取り組んできた。同社の業務開発部グループリーダーの大熊眞次郎氏は、「自社に必要なIT部門の役割を定義し、職種やキャリアパスを提示した。スキル標準は運用させて定着させることが重要なので、まずはシンプルなかたちで始めてほしい」と述べた。

 小松製作所では、能動的に業務改革を提案できる人材を育てるためにUISSを導入。UISSの表現はなじみのないものが多く、それでは現場に浸透しづらいため、自社の用語に置き換えたり、UISSで細分化されているキャリアレベルや人物像をいくつか合わせて全員がイメージしやすいように作り直したりするなど、自社に合うようにカスタマイズさせた。そして、必要となるスキルと現状のスキルを表で比較して、社員個別の研修計画を立てて実行するという、IT人材育成のPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを実施。同社のインフォメーションストラテジーグループの米村美香氏は、「UISSを自社に置き換えて解釈し、そのPDCAを回してみる。そこからブラッシュアップさせて自社に合ったものを探してもらいたい」と語った。

 IT人材の不足や育成方法に悩む企業にとって非常に有意義なカンファレンスであった。スキル標準ユーザー協会及び日本情報システム・ユーザー協会では、スキル標準(ITSS/UISS)を活用してIT人材が成長し、それが企業の成長につながるよう、今後も精力的な活動を行うとしている。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*1:情報処理技術者試験
「情報処理の促進に関する法律」に基づき経済産業省が、情報処理技術者としての知識・技能の水準がある程度以上であることを認定している国家試験。

*2:オフショア開発
システム開発や運用管理などを海外の事業者や海外子会社に委託すること。




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