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公認会計士松澤大之
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は“個人の意識”
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セミナーレポート
ユビキタス社会におけるITの管理・運用について講演

 2010年12月7日、科学技術振興機構 社会技術研究開発センターは「情報と社会」に関して研究や開発を行っている分野(同機構では「研究開発領域」と表現)の最終報告としてシンポジウム「ユビキタス社会のガバナンス」を開催した。
 「ユビキタス社会」が到来し、あらゆる局面で情報技術が利用されるようになってきたが、一方で情報漏洩、不正アクセス、不適切なコンテンツの蔓延など、新しい社会問題も生み出してきた。「研究開発領域」を総括している中央大学研究開発機構教授の土居範久氏は「科学技術の発展に、社会や法整備が追従しきれていないことが原因の1つ」と話し、管理・運用つまり「ガバナンス」の未成熟を指摘。これらの問題点を解決する研究「『情報と社会』研究開発領域」の関係者らが講演を行った。

小野寺氏は「過去に作られた法律では現状に対応できなくなっている」と語る
小野寺氏は「過去に作られた法律では現状に対応できなくなっている」と語る
 基調講演としてKDDI代表取締役会長の小野寺正氏がユビキタス社会の先にある「アンビエント社会の実現」について解説。アンビエント社会とは、いつでもどこでもインターネットにつながることができる「ユビキタス社会」を発展させ、日常生活の中に自然とインターネットやPCが溶け込んでいる社会のことを指す。
 日本では、欧米諸国と比較して、携帯電話・スマートフォンによるモバイルインターネットを中心にインターネットが普及した結果、「ユビキタス社会」から急速に「アンビエント社会」へと移行している。
 小野寺氏は「急速な進展の影に、社会的な問題も存在する」と語り、ITに関するガバナンスが技術に追いついていない結果、有害情報へのアクセス問題やネット依存などといった「青少年保護」、サイバー犯罪や著作権法違反などの「ネット犯罪」などの課題が発生している現状を説明した。同氏は「これらの課題解決のためには、法整備は必要だが過剰な規制はイノベーションを阻害する」とし「我々のような通信業者はインフラを提供する立場なので責任は重いが、事業者だけの取り組みには限界がある。産官学民の連携のもと、社会全体がこれらをバランスよく進める必要がある」と展望を述べた。

 研究開発領域のプロジェクトの1つとして研究開発を推進してきた長岡技術科学大学教授の三上喜貴(よしき)氏は「カントリードメインの脆弱性監視と対策」に関する研究成果を発表した。
 「カントリードメイン」とは、正式にはカントリー・コード・トップ・レベル・ドメイン(ccTLD)のことで、国別に割り振られたドメイン名を指す。日本国内で言えばアドレスの末尾につけられる「.jp」に相当する。
 カントリードメインは、独立国家を中心に、ほか遠隔地の海外領土などに割り振られている。カントリードメインの管理・運営は割り当て先の国家や地域に委ねられているため、国内での割り当てなどに関する技術・法律・規律などが国ごとに大きく異なっている。ところがドメインの扱いが国ごとであるにも関わらず、そこにアクセスする「インターネット」は国境を超えることが容易である。
 三上氏は「規律や技術的能力の欠如しているカントリードメインが、スパムや不適切なコンテンツの温床となる危険性を生む」と指摘。「カントリードメインを扱うガバナンスに関する適切な目標と、目標の達成状況を多面的に評価できる透明度の高い指標を作る必要がある」とした。同氏は国内外のカントリードメイン関係者に提案を繰り返し、指標・ガバナンス方法の取りまとめを行うことで、このような国の法律・技術などによるカントリードメインの脆弱性改善を促した。
 今回シンポジウムを開いている「領域」は、本年度が最終年度になるが「これからも国際的な働きかけを続けていく一方で、関与者からのフィードバックによって改善を重ねていきたい」と話し、引き続き研究を継続していく必要性を訴えた。
東倉氏は「利便性のために個人情報を提供するか否かの選択をさせることがガバナンスの価値」とした
東倉氏は「利便性のために個人情報を提供するか否かの選択をさせることがガバナンスの価値」とした
 「研究開発領域」のアドバイザーである東倉(とうくら)洋一氏は、インターネット上で形成される仮想の社会と現実社会の境界が、ユビキタス技術により、曖昧になった「融合社会」について講演した。
 「融合社会」において、サービスのレベルと個人情報の提供が比例しているにも関わらず「日本では個人情報の開示に関する警戒感が強すぎるため、利便性を妨げる事態になっている」と懸念。「利用者、提供者、国のレベルが一体となった、安全性を理解するための正しい情報リテラシーを身に付ける継続的な努力が必要」とした。

 講演の最後には、奈良先端科学技術大学院大学教授の山口英氏らをパネラーに据え、「ITガバナンス」についてパネルディスカッションが行われた。
 山口氏はパネルディスカッションの中で、サプライチェーンにおけるガバナンスを作成するべきだと話す。「金銭の流れや人の動きなどリソースの処理はICTが要石になっているが、超大手製造業でも未整備のところがほとんど」であり「さらに今後、クラウドコンピューティングのようにデータを海外に預けるようになった際、どうするのか」と警鐘を鳴らした。そのため「ICTが企業運営の要となっている現状に則したガバナンスやマネジメントがどうあるべきか考えていく必要がある」とした。

 情報通信技術をより効率よく使うため、政府・企業・個人における有効なITガバナンスが構築されることに期待したい。


科学技術振興機構 社会技術研究開発センター



※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



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