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公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
は“個人の意識”
(動画あり)

日弁連主催のシンポジウムで“ISPをめぐる法律問題”を議論

 日本弁護士連合会は2009年1月23日、東京千代田区の弁護士会館で「日弁連コンピュータ委員会シンポジウム2009」を行った。寒冬の中、弁護士会館2階の講堂クレオには数百人の聴衆が集まり会場を埋め尽くした。
 今回のテーマは「インターネットサービスプロバイダ(以下ISP)をめぐる法律問題」。
 司法や法務のITへの適用や活用をめぐる課題を検討する「日弁連コンピュータ委員会」の弁護士が数名のほか、官民双方からITに関する法律の専門家が講師として壇上に立ち、違法情報や犯罪情報に対する法の適応について意見を述べた。


国側の対応について語る室橋氏
国側の対応について語る室橋氏
 弁護士側からは、違法情報や有害情報が見つかった際のISP側の対応について意見が出された。昨年成立した「青少年インターネット利用環境整備法」の関係からか、児童ポルノなどに関する民事責任・刑事責任の実例が多く挙げられた。
 また近年は、違法情報や有害情報に対する判例も増えてきている。昨年の秋葉原殺傷事件以来、模倣した犯罪予告が増えたが、ISP側との連携が検挙に繋がった。このように開示請求を受ける側であるISP側の協力は違法・有害情報の摘発には必須だ。しかし発信者情報開示に応じることは同時に「通信の秘密」に抵触する可能性もある。
 「日本の弁護士は『通信の秘密』という言葉を持ち出されると思考停止してしまう」という指摘もある通り、このような事情で開示請求と法整備については、議論がなかなか進まないのが現状だ。


 これに対して、総務省総合通信基盤局の室橋秀紀氏は、プロバイダ責任制限法関係や違法情報への対応関係のガイドラインを定めることで総務省が法適応の判断基準を示していることを説明。また「青少年インターネット利用環境整備法」や民間の識者を集めた携帯電話などへのフィルタリング導入促進対応の検討会発足など、官民の協力体制が整備されつつあることを示した。

 また、マルウェア対策の現状についても言及された。
 NTTPCコミュニケーションズの小山覚氏は「日本ではマルウェアの一つである直接感染型のボットウイルス対策は前進している」とした。PCのマルウェア感染率の低さ(=「PCの健全性」)を調べたところ、2005年時点では世界で9位だった日本は、2007年には世界で1位になったというデータもある。

 一方で、日弁連コンピュータ委員会の副委員長を務める高橋郁夫氏は、インターネットの大衆化に伴い、情報セキュリティ対策に対する意識が高くない利用者「永遠のビギナー」の存在が顕著になってきていることを指摘。
 この課題を解決するために、インターネット通信の媒介者であるISP側の協力が不可欠であり、果たすべき役割と限界、枠組みを考える必要があるとした。
ISP絡みの法整備について熱い議論が交わされたISP絡みの法整備について熱い議論が交わされた
 ISPをめぐる法律や対策について一通り講演が行われた後、講演者全員をパネリストに据えたパネルディスカッションが実施された。
 パネルディスカッションでは、現在の法律の不備について言及がされた。違法情報や名誉毀損につながる情報が書き込まれたとき、ISP側へ開示請求が行われるが、もちろんISPは違法情報を書き込んでいる本人ではない。しかし開示請求を受け入れた場合でも、開示された側から「通信の秘密」を基に責任を問われるリスクもあり、ISPが板ばさみになっているのが現状だ。これらの問題の解決に向けて、法整備の必要性を訴えた。

 急速に拡大するインターネットに対して、後手になりがちな法律側の対応だが、現場における意見交換は頻繁であり、ITに対する知識が豊富な弁護士も増えてきていることから、今後の法整備に期待が感じられるシンポジウムとなった。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



注釈

*:青少年インターネット利用環境整備法
正式には「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」。2008(平成20)年6月18日公布。携帯電話を介したインターネットを利用する際、保護者が不要としない限り、フィルタリングサービスの提供を義務付けるなどした。



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