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セミナーレポート
デジタルコンテンツの諸問題について講演

 知的財産を巡る学際領域を扱う、日本知財学会の「秋季シンポジウム」が11月22日、東京都港区の機械産業記念事業財団(TEPIA)ホールで開かれた。
 2010年度は「デジタルコンテンツの時代」がテーマ。音楽、映画、アニメ、漫画、ゲーム、書籍といったコンテンツのデジタル化が急速に進む中で、日本がどのような戦略を取り、どのような課題を解決すべきなのか。政府関係者や研究者、映像作家、弁護士らがそれぞれの立場から、デジタルコンテンツを巡る諸問題を洗い出した。

 基調講演には文化庁国際課長の大路正浩氏が立ち、同庁における日本のコンテンツの海外展開と、著作権を巡る国際戦略について語った。

 大路氏はまず、クールジャパン*1と呼ばれる日本文化が世界的人気を集めている一方で「せっかくいいものを持っているが、必ずしも海外での売上につながっていない」と指摘。
 さらに「韓国などアジア諸国でも官民をあげて国家ブランド発信に取り組んでおり、文化発信は国際競争の様相を呈している。のんびりしていると日本は競争に埋没してしまう。(海外への発信で後れを取ることによる)文化の空洞化は避けたい」と危機感を露わにした。
大路氏は日本のコンテンツを海外発信する際、
関係省庁間の連携が重要になってくると語る
大路氏は日本のコンテンツを海外発信する際、
関係省庁間の連携が重要になってくると語る
 政府でのクールジャパンの海外発信戦略は、内閣官房の知的財産本部と経済産業省のクールジャパン室が行っている。同氏はその中での文化庁の役割について「日本文化の魅力を通じてブランド価値を高め、コンテンツを『商品』としてではなく『文化』として売り出すこと」と強調。「『産業』として取り組む経産省と文化庁がタッグを組んでやっていく」と力説した。
 この後、海賊版対策など著作権に関する国際的な取り組みに言及。大路氏によれば、日本は現在、中国、韓国、台湾と著作権問題を協議する場を持っているが、これを東南アジア諸国にも拡大したいという。「コンテンツ産業をどう海外展開していくか、現状と見通しを鑑みて国を選ぶことが重要」と同氏は話す。

 このほか、国際的な動きでは、日本、韓国、米国、豪州、EUなど10カ国、1地域が参加して「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)」の締結を目指す動きがある。
 一方で、180カ国以上が加盟する国連の専門機関「世界知的所有権機構(WIPO)」では、先進国と途上国の間で著作権条約に権利制限や例外に関する規定を盛り込むかどうかで意見が対立。法的枠組みの整備が進んでいないことから、同氏は「問題意識が高く共通認識を持つ国だけが集まり、規律を作るような動きが今後も出てくるだろう。ACTAにも著作権条項を入れていく予定で、国際ルールを作ることが重要だ」と訴えた。

 専修大学ネットワーク情報学部教授で、国が監修する「デジタルコンテンツ白書」の編集委員長を務める福冨忠和氏は、日本のコンテンツ産業市場の現状について報告した。

 それによると、2009年の市場規模は12兆843億円で、前年比6.0%減。 これを流通メディア別の分類で内訳をみると、パッケージ流通が5兆7114億円で、同9.8%減、放送が3兆4493億円で、同4.6%減。一方でインターネットは7443億円、同1.1%増、携帯電話が6556億円、同14.1%増と、全体が不況の影響で収縮する中、この2つのメディアは伸びている。

 世界のコンテンツ産業市場で見ると2007年現在で、日本は全体の約7.6%を占め、世界2位。1位は約40%を占める米国となっている。
 しかし「世界全体の市場規模は2001年~2007年で43.8%成長したが、日本市場は3.8%の伸びにとどまっている。GDPと比べたコンテンツ産業の市場規模も、世界水準より低い」と福冨氏は分析。
 また、日本のコンテンツの海外収支をみると、2004年時点の実績で映画、音楽、出版が大幅な輸入超過で赤字となっており、「これらの赤字をゲームでカバーしている」(福冨氏)という。そのため、同氏は「現状では日本は『ゲームとアニメの国』とみられている。(この状況から)コンテンツをどう育てていくかが今後の課題となってくる」という認識を示した。

 早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授で映像作家の安藤鉱平氏は、映画の著作権の在り方を説明しながら、経済的側面だけを追ったコンテンツのデジタル化や著作権問題の処理について危機感を示した。
経済効果のみを追いすぎたコンテンツのデジタル化は、
文化の空洞化を招くと警鐘を鳴らす安藤氏
経済効果のみを追いすぎたコンテンツのデジタル化は、文化の空洞化を招くと警鐘を鳴らす安藤氏
 安藤氏は「経済を最優先し、物の価値を至上とする考え方は過去の遺産と言わざるを得ない」と強調した上で、映画監督が映画の著作権者ではない現状*2を説明。
 「一元的に『著作権を監督の手に』と叫ぶつもりはないが、映画監督にとって作品は子どもみたいなもので、何か著作権のようなものをプライドとして持っておきたいもの。アナログ的に受け入れてもらわないといけない」と、経済的な側面だけで著作権の問題を語るべきではないとした。

 コンテンツのデジタル化の流れについても「経済効果や作業効率だけで物事を考えてはいけない。アナログのセンスを持っていないとデジタルは扱えない。著作権制度についても然りだ」と主張。
 その上で「文化を保護し育成する根幹の思想がなく、経済効果ばかりで知財の在り方を考えていると、やがて文化の空洞化が起こる」と警鐘を鳴らした。

 日本知財学会理事で、小学館キャラクター事業センター長の久保雅一氏は、ゲーム、映画、音楽、出版などのコンテンツがデジタル化されることで、市場規模の縮小化「デジタル・シュリンク」が起こっていると指摘。そのメカニズムについて解説した。

 久保氏によると、コンテンツのデジタル化で大量のコピーが可能になっているため、コンテンツ自体の価値が低下し低単価化している。そのことで既存のパッケージ商品によるビジネスが打撃を受け、コンテンツに対するモラルも低下し、海賊版の発生環境が整ってしまった。
 そして海賊版が流通することで、コンテンツの有料販売ビジネスが打撃を受け、海外販売ビジネスも崩壊。クリエイターへの資金還流が難しくなる悪循環が起こっているという。

 また、海賊版が海外に流通することで、久保氏は「海外で日本のアニメやゲームの人気が上がっても、それがビジネスにつながらなくなっている」と指摘。さらに「2ちゃんねるやmixi、オークションサイト等に毎日1000万人が1~2時間滞在している」とした上で、 「コンテンツ産業はユーザの時間を奪い合う『タイム・シェア』の争いに突入している」と考察した。
8回目を迎えた秋季シンポジウムには、企業関係者や
大学研究者、官公庁関係者など約140人が参加した
8回目を迎えた秋季シンポジウムには、企業関係者や大学研究者、官公庁関係者など約140人が参加した
 このほか、日本女子大学名誉教授の小舘香椎子氏は、自身が研究に携わった顔認証システムを応用したネット上の違法動画を自動検索するシステムを紹介。現在実証実験中のこのシステムを活用することで「コンテンツ流通の可視化を実現させ、すぐれたコンテンツを生み出す正のスパイラルを実現できる」と力を込めた。

 弁護士の福井健策氏は「ラフな夢想にすぎない」とした上で、書籍や画像、映像、音楽など全メディアを扱うデジタルアーカイブを国策で構築するという試案を披露した。 同氏は「充実した文化的アーカイブの存在は、人々の生活を豊かにさせ、社会的な情報インフラにもなりえ、情報産業の発展にも重要」と主張。
 また「(グーグルのように)一企業にゆだねるのは情報の安全保障、文化の序列化、文化振興、産業育成、公平性や安定感などの観点からも、あまり望ましいものではない」と、国主導で整備する意義を語った。

 今回のシンポジウムでは、デジタルコンテンツを巡る多くの問題が明らかになった。日本のデジタルコンテンツの国際競争力を強化することはもちろん、違法コピー問題や市場の縮小化などへも対応し、産業が持続可能なものになるような施策も求められてくるだろう。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*1:クールジャパン
主にゲームや漫画、アニメ、コスプレなど海外で人気が高い日本のポップカルチャーを指すが、食、伝統産業、自然や文化遺産などを含むこともある。

*2:映画の著作権
1971年の著作権法改正で、映画の著作権は映画制作会社に帰属することになっており、映画監督には著作権がない。映画監督約600人が在籍する日本映画監督協会では、著作権獲得のための同法改正に向けた運動を行っている。




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