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日本の科学技術の未来について講演

シンポジウムでは研究者の人材育成について多くの人が耳を傾けた
シンポジウムでは研究者の人材育成について多くの人が耳を傾けた
 暮らしやすい社会を作るために身近なところからサイエンスを知り、考えることを目的として2006年より開催されているイベント「サイエンスアゴラ」。今回は2010年11月19日~21日に実施され、初日には「ニッポンの科学技術が目指すもの」として、シンポジウムが開催された。政府の次期科学技術基本計画策定の基本方針で打ち出されている「日本の科学・技術基礎体力の抜本的強化」などをいかに実現していくかということをテーマに、講演やパネルディスカッションが行われ、主に人材育成について活発な議論が展開された。
 最初に、科学技術振興機構理事長の北澤宏一氏が同イベントの主旨を説明。「今世界は刻々と変化しており、日本を国内外から見直す時期にきている。科学技術は、国力を支える原動力となる。科学技術の次世代を担う若者を育成し、世界において日本を存在感のあるものにしたい」と語り、開幕を宣言した。
研究の質の高さで評価するべきと語る柳沢氏
研究の質の高さで評価するべきと語る柳沢氏
 基調講演は、筑波大学とテキサス大学の教授である柳沢正史氏が行った。同氏は1991年、31歳のときにテキサス大学の准教授となり、以来約20年間米国で睡眠覚醒などの医学生物学の研究を手掛けており、今年度より筑波大学でも教授を務めている。そのため、日本の研究環境を海外の目を持って見ると様々な課題が浮き彫りになったという。
 まず、「日本の科学技術は遅れているわけではないが、日本人の研究者は外に出たがらない傾向にあり、海外で研究者として独り立ちをする主任研究員が非常に少ない」と指摘。海外に行っても帰国後日本で研究ができるポストに就けるかわからない、海外に出て1人でやっていきたいと思わないという若い研究者が増え、世界における日本の研究者数が激減しているという。

 また、日本と米国の研究における補助金の予算規模では、日本では500万円以下の小規模研究が全体の約90%を占めるが、米国では500万円~3000万円の中規模研究が約50%、3000万円~1億円の大規模研究が約25%となっており、柳沢氏は「日本の研究は中規模の層が少ない。自分の研究室を持ち、主任研究員としてやっていくには、どうしても1000~3000万円の経費がかかる。研究費がなくなれば、研究員の確保ができず、研究の数やアイデアの数が減ってしまい、世界で存在感を示すことができない。日本が成長するためには、中規模以上の研究支援体制を整えるべきではないか」と述べた。
 そして、同氏は「研究の業績評価を単に論文の数や特許の申請数で図るべきではない」とも語り、「何をしてきたのか、何を先駆けて研究したのか、数値では表わせない研究の質の高さで評価するべき」と訴えた。
パネルディスカッションでは活発な意見が交された
パネルディスカッションでは活発な意見が交された
 パネルディスカッションでは、日本で科学研究開発を盛んにしていくにはどのようにしたらよいかという議論が交わされたが、ここでも研究員の人材育成にフォーカスされた。

 衆議院議員の津村啓介氏は、政府の政策では同じ予算内でもより質の高い投資を目指し、研究数の拡大よりも質の高い研究の増加にシフトしてきていることを説明。総合科学技術会議常勤議員の奥村直樹氏は、「質の高い研究の増加」のために、どの研究を強化するかを新たに若手研究員の意見も取り入れていることを紹介した。一方で同氏は、企業が国際競争力を求め、事業を海外展開し中核となる人材も現地で確保している現状を指摘し、大学卒業後企業に入っても研究者として活躍できる人材を育成するためには、「国際的に活躍できる能力を授与することと、専門外の知識も学べるようにすることが重要」と述べた。

 それに対し、「産学連携で共同研究する事例は増えてきており、大学発の特許出願数やベンチャー企業設立の数が増加しているため、人材育成は進んでいる」と科学技術振興機構の北澤氏はアピール。しかし、基調講演を務めた柳沢氏は「特許出願は数ではなく、それがどれだけお金につながったのか、ベンチャー企業であれば、どれだけ存続し続けているのか、黒字運営ができでいるのかにそろそろ目を向けるべき」と大学や政府は研究成果の指標を見直すよう勧めた。また、産業技術総合研究所 理事長の野間口有氏は、大学の特許取得について「同じような特許技術の発掘をするのではなく、大学ごとに特長を出していってもらいたい」と強調。

 これらの意見を受けて慶応義塾大学教授の小池康博氏は、「大学は基礎となる技術を研究し、時間がかかるかもしれないが、そこからいくつか大きなポテンシャルの持った研究や技術が生まれるので、企業はそこを支えていってほしい」と語った。そして、北澤氏は米国にはベンチャーキャピタルが存在し、それが大学発のベンチャー企業も支えていることを例にあげ、「日本には企業を支援して育てる機関が少ないので、省庁と企業が組んで施策を打ち出してほしい」と訴えた。
 すると津村氏は、「今後予算を獲得し、研究が発展するためにも大学は成功した事例だけでなく失敗した事例を含め、もっと情報を公開し、行政・研究機関・国民の理解を深める努力をしてほしい」と相互理解を求めた。

 今、どの企業でも研究機関でも人材育成が重要になっていることを感じたシンポジウムであった。今後日本の研究者が国内外で活躍でき、それが日本の発展につながることを期待したい。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



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