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公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
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セミナーレポート
電子自治体実現の課題について講演

 地方自治体の業務の電子化を推進することを目的とした「地方自治情報化推進フェア2010」が11月9、10の両日、東京都江東区の東京ビッグサイトで開かれた。28回目を迎えた同フェアは、地方自治情報センター(LASDEC)が主催。情報システムの展示会と各種講演、セミナーに前回を上回る5000人超が来場した。
 このうち、有識者による講演会と自治体関係者らが講師となったオープンセミナーでは、電子自治体実現へ向けた課題や方向性についての話があり、技術導入より先に入念な制度設計をすることの重要性や、住民目線でのICT導入の必要性が盛んに訴えられた。

 9日の講演会には2氏が登壇し、約400人が集まった。東京大学大学院情報学環教授の坂村健氏は、ユビキタス社会における制度設計の大切さや行政の在り方について説いた。
 行政サービスの電子化でも技術設計以上に制度設計が重要と語る坂村氏
行政サービスの電子化でも技術設計以上に制度設計が重要と語る坂村氏
 坂村氏はまず、ICタグで管理されているというフランス・パリのレンタル自転車「ヴェリヴ」のシステムを例に挙げた。
 ヴェリヴは市内各所に広告を独占的に設置できる権利と引き換えに広告代理店が費用負担して運営し、納税者負担はゼロ。市内数千ヶ所に自転車置き場を設け、最初30分を無料にすることで短時間・短区間の利用を促進しているという。
 同氏はこのような短い距離を頻繁に利用してもらう仕組みをしっかりと構築していることに触れながら、ヴェリヴから学ぶものとして「ICタグで管理していることが焦点ではなく、どういうビジネスモデルで、何のために貸自転車を導入するのかという制度設計が重要」と指摘。「ここを勘違いすると何をやっているか分からなくなる。最新技術を使うためのシステム導入は最悪だ」と、安易な新システムの導入にくぎを刺し、制度設計の大切さを訴えた。

 このほか坂村氏は、主に海外で「オープンにした情報インフラで、行政にイノベーションを起こそうという動き」が高まり、米国ではgov2.0という考え方が起こっていることを紹介した。

 gov2.0とは、これまでの政府・行政があらゆるサービスを自己完結的に利用していたのとは異なり、政府・行政は基本サービスと情報を提供するプラットフォームになるべきとする考え方。同氏によると、例えば米国ではバスの運行情報を行政側が公開することで、それをより分かりやすく閲覧できるようなアプリケーションが民間でどんどん開発されているという。
 これを踏まえ、坂村氏は「情報の抱え込みは未来への扉を開かなくさせる。行政のインフラづくりにはいろいろな人を参加させることが大事」と、情報公開が重要と結論付けた。

 総務省地域情報化アドバイザーの高橋明子氏は、ICTを活用して地域の人材育成、経済活性化を目指す「地域情報化」の在り方について話した。
地域情報化の在り方について話した高橋氏
地域情報化の在り方について話した高橋氏
 同氏は講演の中で、地域の「つながり創り」「人材育成」の基盤をプラットフォームと定義。「地域の活動を深めるにはプラットフォームが役立つ」と述べた。
 プラットフォームの例としては、自身が代表を務める杉並TVの「住民ディレクター」活動を紹介した。東京・杉並区の地域住民が自らディレクターとなり、地域の魅力を伝える番組をボランティアで制作、発信しているサイトで、番組を通じて人々が出会い、地域がもっと住みよい場所になることを目的としているという。

 同氏は住民自らカメラを回して番組を作り、ユーストリーム(USTREAM)を通じた情報発信をする中で、住民や商店主同士、世代間の交流が活発になったというメリットを披露。
 その上で「(ツイッター(Twitter)やユーストリームのようなユーザ発の)新しいメディアを使っていただいた上で、変わらない地域づくりの部分にどう使っていくのかを考えてほしい。例えば住民ディレクター活動のような映像を使った活動はユーストリームと相性が良く、プラットフォームとしても使い甲斐のある道具だ」と語った。

 2日間を通じて行われたオープンセミナーでは、地方自治体関係者から地方自治体の情報化の実情や課題などが示された。

 このうち鳥取県企画部参事監の戸谷壽夫(としお)氏は、同県のシステムにクラウドコンピューティングを導入し始めた事例をもとに、電子行政の在り方について言及した。
 導入時の経緯等について「県内企業から提案コンペを行ったうえで業者を選定し、経費削減のため大型サーバを所有せずに利用のみにとどめた」と説明。
 業者と県との役割・責任分担を明確化するなどし、一部システムからの導入を始めたといい「割り勘効果でコスト削減につながり、業務・組織単位でのサーバ調達もなくなる。職員の事務軽減にもつながる」と手ごたえを強調した。
 その上で同氏は「利用者の視点にたった情報化の推進、業務効率化を目指した行政経営が必要であり、そのためにはトップダウンによる人・物・金・情報・時間の総合判断がいる」と力を込め、住民目線でのサービス導入の大切さを強調した。

 岡山県高度情報化顧問の新免(しんめん)國夫氏は、国が進める自治体クラウドに対する中小市町村の期待や不安について述べた。
 新免氏は期待について「システムの標準化や共通化が促進され、コストも下がる」と指摘。一方で「既存システムとのギャップや使い勝手に不安を感じている」と述べた。
 また、中小市町村の情報化に必要な条件として「行政効率化と行政サービス向上を追求することが必要。そのためには市町村が自ら判断し選択できる知識や技術を持たなければならない」と力説した。

 国による自治体クラウドの実証実験事業もスタートするなど、遅れているとされる地方自治体の電子化、業務効率化は徐々に進んできている。しかし、各講演者が指摘したように住民サービス向上という確固たる目的を持ち、十分な制度設計をした上での取り組みが求められるだろう。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*:自治体クラウド
住民登録や税務、保険などの自治体業務の中でも基幹となるシステムを複数の市町村で統合したデータセンターにまとめ、これを共同利用することで効率化やコスト削減を目指そうとするもの。総務省を中心に2009年度から実証実験事業が始められている。




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