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公認会計士松澤大之
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情報技術マップシンポジウム2010が開催

 数百にものぼるITの要素技術は、利用動向・活用頻度・成熟スピードが様々であり、SIerをはじめ情報サービス産業を取り巻くビジネス環境の変化はめまぐるしい。これらの市場動向をつかみ企業戦略に活かすべく、情報サービス産業協会(JISA)は、2004年より「情報技術マップ調査委員会」を設置。IT技術者へのアンケート調査から、技術の利用状況・利用意向等、現場の「生の声」を汲み取り市場分析を行っている。

 2010年10月13日、同協会主催「情報技術マップシンポジウム2010」が開催され、平成21年度のアンケート結果から最新動向が報告された。特に、世間の注目度も高いクラウドコンピューティングの技術については、様々な登壇者が言及した。

「クラウドコンピューティングと日本の競争力に関する研究会」報告書に関して講演する経済産業省 商務情報政策局の鴨田浩明氏
「クラウドコンピューティングと日本の競争力に関する研究会」報告書に関して講演する経済産業省 商務情報政策局の鴨田浩明氏
 基調講演では、経済産業省 商務情報政策局の鴨田浩明氏が登壇。同省が2010年8月に公開した「クラウドコンピューティングと日本の競争力に関する研究会」報告書の内容を中心に、技術・制度に関する課題を述べた。

 鴨田氏は「企業がITを所有する時代から、利用する時代へと変化している」とした上で、現状、コンシューマ向けサービスが多いクラウド技術も、今後は企業間取引、さらには行政分野での活用も広まっていくだろう、と語った。
 上記の研究会では、クラウドが生むイノベーションを「大量データのリアルタイム処理が可能になることで、新サービス・新産業を創出する」と定義し、医療(新薬の開発やパーソナル向けヘルスケアサービスの向上)、交通(ITSの普及)、農業(生産効率の向上)、教育(デジタル教科書)等への活用を想定。
 課題として、大規模なデータセンターが都市部に集中していることをあげ、企業の「何かあった時に駆けつけられる場所に設置したい」という感覚の変革も必要、と語った。さらに同研究会は、クラウド利用に際して課題となってくる、医療情報の匿名化をはじめとした「個人情報の二次利用」に関するガイドライン等の策定にも、取り組んでいることを話した。

 鴨田氏は、最後に情報技術マップへの期待として、「個々の技術の分析にとどまらず、技術とサービスのマッチングを進めて欲しい。世の中で求められているサービスは何か、またそのサービスを実現できる技術は何なのか。合わせて分析することで、海外市場の獲得まで視野に入れた魅力的なサービスが生まれることを期待したい」と語った。
野村総合研究所の亀津敦氏
野村総合研究所の亀津敦氏
 野村総合研究所の亀津敦氏から、平成21年度の情報技術マップ調査報告がなされた。同氏はまず調査概要として、下記の3つを説明。

1.ITディレクトリの検討
ITディレクトリとは、SIに用いられる主な要素技術をリストアップしたもので、平成21年度は、16カテゴリ・130項目。今回、クラウド関連技術についてはカテゴリを新設。

2.アンケート調査概要
54社、3,929名の現役エンジニアが、上記130項目に対し回答(実施企業は、JISA会員企業であるSIer・ソフトウェア開発企業・シンクタンク等)

3.分析結果
・実績指数上位の技術(商用DBMS、Windows系サーバOS、ウィルス対策ソフト、PCサーバ)は、過去6年ほぼ変わらず汎用性の高い技術であることがわかる。
・ここ1、2年で実績指数上位に上がってきた技術(メッセージング技術、グループウェア等)から、社内等のコミュニケーション技術の実績の蓄積が進んでいることがうかがえる。

 さらに亀津氏は、着手意向指数が高い技術(今後利用すべきと考えている技術)の上位が、クラウドコンピューティングカテゴリに集中していることを提示。開発の最前線にいるエンジニア達からの関心が高い分野であると同時に、まだ実績順位が低い分野であることも指摘し、これから研究を重ねていく、という状況にあると解説した。
 分析結果の活用については、技術の認知度や、長期継続的に使われるか否か、業界、業種ごとの実績指数等から、注目・投資すべき技術の判断に役立てて欲しいと語った。
会場には150名もの参加者がつめかけ、熱心に聴講した。
会場には150名もの参加者がつめかけ、熱心に聴講した。
   続いて「技術のライフサイクル進行度に関する分析」と題し、さくらケーシーエス 技術支援グループの安藤洋氏が登壇。この分析は、経年の調査結果を定点観測することで、各技術の「研究期→普及期→安定期→衰退期」といったライフサイクルの推移をみるものである。これにより、各企業のコアとする技術が、現在ライフサイクルのどのステージにあるのかを把握し、技術戦略に役立てようとする試みである。
 安藤氏は「ITガバナンス・マネジメント」カテゴリにおいて、「品質管理やセキュリティ管理は、企業活動に必要不可欠なものであり、多くの技術が安定期にさしかかっている」と現状を示した。その上で「クラウド技術に関しては、今後セキュリティのガイドラインも整備されれば、このガバナンスカテゴリにクラウド項目が追加される場合もある。今後の動向に注目したい」とコメントした。
パネルディスカッションを行う、電通国際情報サービスの戸田氏(左)、インテック社の笹井氏(中央)、野村総合研究所の亀津氏(右)
パネルディスカッションを行う、電通国際情報サービスの戸田氏(左)、インテック社の笹井氏(中央)、野村総合研究所の亀津氏(右)
 最後に、パネルディスカッションでは、情報技術マップの活用や課題について言及された。今後の課題として、インテック社の笹井誠氏は、「技術変化の激しい業界において、130項目あるITディレクトリには、まだまだ足りない部分もあり、その更新のスピードアップを目指したい」と語った。また今後の抱負について、電通国際情報サービスの戸田和宏氏は「情報技術マップという素材を活かして、いかにエンドユーザが求めるソリューションと結びつけるか、それが一目瞭然となるようなユーザインターフェースの作成が今後必要になってくる」と語った。

 技術動向の定量的な把握・分析は、事業戦略や、人材育成への活用だけでなく、様々な応用分野が考えられる。情報技術マップの調査が画期的なのは、現場エンジニアひとりひとりにアンケート調査が行われているところであり、日本のIT技術の現場をダイレクトに反映しているといえる。今後の活動にも期待したい。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



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