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公認会計士松澤大之
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セミナーレポート
「ASPIC Autumn Meeting 2010」が開催

 2010年10月15日、ASP・SaaSインダストリ・コンソーシアム(以下、ASPIC)の主催で「ASPIC Autumn Meeting 2010」が東京都港区のコクヨホールにて開催された。ASPICは、ASP・SaaSの普及啓発、市場創造などの活動を行っている団体であり、ASPIC Autumn MeetingはASP・SaaS関連の政策や取り組みなどの最新情報を共有する場となっている。

新政権のIT戦略について解説する吉田氏
新政権のIT戦略について解説する吉田氏
 まず最初に、内閣官房内閣参事官の吉田眞人氏が「新たな情報通信技術戦略について」と題し、政府のIT戦略について講演を行った。吉田氏は、新政権のIT戦略が「国民視点」であることを強調。特に強化する分野としては、電子行政、医療、教育と変わりないが、今までと違うのは国民の目から見て暮らしや情報の質が向上するのかという視点で推進されていることだという。
 電子行政については、今でも住民票や戸籍の書類をもらうために窓口に行って手続きを行っている状況を提示し、「これだけITが発展している社会で行政はワンストップサービスが実現されていない」(吉田氏)と指摘。今後、各自治体と協力して利用頻度の高い行政サービスを24時間利用できる環境を構築する。また、医療・介護の分野でも国民・患者の視点で改革を進め、必要なときに必要なデータを自ら取り出せるよう、バラバラに存在していた医療情報をITで共有可能にしていく。

 そして、これらの戦略の工程表を示しながら、各省庁が何をいつまでにやるのか責任が明確になっていることを説明。吉田氏は「今回は各機関の個別目標の達成とともに、全体目標の達成を目指し、PDCA(Plan-Do-Check-Act)の『C(Check)』を強化している。そのため、策定の段階から積極的な議論が交わされるようになっており、全体目標達成を目指して戦略を推進していきたい」と述べた。
山本氏はガイドラインの改訂で医療のIT化が進むと語った
山本氏はガイドラインの改訂で医療のIT化が進むと語った
 次に、「医療分野におけるICT活用・情報化の動向」と題して東京大学大学院情報学環准教授の山本隆一氏より、医療におけるICTの状況と今後について解説された。

 今まで医療データは、個人情報保護法の関連で医療機関およびそれに準ずる機関以外ではデータを預けられなかった。しかし、2010年2月に厚生労働省が「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を改訂し、医療機関ではない民間事業者を医療データの預け先としても問題がないと通知した。
 これまでは、病院は患者に最大限の医療を提供することが使命であり、自前で医療データを管理すること、ひいては医療をIT化させることは非常に重荷であった。だが、同ガイドラインが改訂され、安全性に関して適切な処置を行っている国内のデータセンターであれば、管理を外部委託できるようになった。山本氏は、「今まで医療機関のシステム担当者は、不慣れな状況でIT化しようとしてきたが、これからは信頼性の高い専門業者にデータ管理をしてもらうことで、堅牢なシステムが実現し、安心して医療のIT化が行えるようになる」とこの改訂の意義を訴えた。

 また、このガイドラインの改訂により政府が進める「生涯利用可能な健康情報データベース」、「医療・健康情報の全国規模での分析・活用」という、いわゆる「EHR(Electronic Health Record:電子健康記録)」への実現に一歩進んだという。現在、病院側の患者の来院履歴の保持期間は5年となっているが、見方を変えれば5年たつと削除されてしまう。
 そのため、例えば自分の病歴にかかわる薬に副作用が見つかっても「自分はその薬を飲んでいたかわからない、病院側でも古い患者であれば確認できない」、「海外に行くことになったが、必要な予防接種を幼児期に受けていたかわからない」というのが現状だ。

 このような状況を打開するのが、EHRである。生涯にわたる健康記録や診療内容を「健康情報活用基盤」によって一元管理することで、どの病院に行っても自分のデータを引き出せるようにし、患者中心の生涯医療を実現させるというものだ。山本氏は、「自分の健康情報をきちんと保存すると、10年、20年先に役立ってくる。それらの情報を基に生涯の生活設計ができる」と述べた。

 加えて、これらのデータは、自治体の医療・健康データとして使えることも強調。例えば、自治体で健康キャンペーンを実施しても現状ではその効果を知ることができない。しかし、そのキャンペーンを受けた人の健康状況を見ていき1年後統計をとれば、キャンペーンの効果測定ができるほか、その結果を基に今後どのような健康対策をとっていけばいいかもわかるという。「健康情報活用基盤は、沖縄で実証実験をして一定の効果があることがわかっている。しかし、一方で共通IDがないと管理が難しいので、『国民ID制度』に期待したい」と山本氏は今後の発展に期待を込めて語った。
河合氏はASP・SaaSの現状について説明した
河合氏はASP・SaaSの現状について説明した
 このほか、ASPIC会長の河合輝欣氏がASPICとマルチメディア振興センターが共同で発行している「ASP・SaaS白書2009/2010」の内容を基に「ASP・SaaSの現況と今後の動向」として発表を行った。

 ASPICでは、総務省の「ASP・SaaSの安全・信頼性に係る情報開示指針」に則って適切に情報が開示されていることを認定する「ASP・SaaS安全・信頼性に係る情報開示認定制度」を推進しているが、同白書によると企業や地方公共団体(総件数:351件)の約60%が「事業者・サービスを選定する際に認定を判断基準とする」と答えている。河合氏は「ASP・SaaS関連市場は、2015年までに3兆円規模に拡大するという予測が出ている。今後もASP・SaaSにかかわるガイドラインなどを作成・拡充し、事業者と利用ユーザがともに安心・安全にASP・SaaSを活用できるよう貢献していきたい」と述べた。

 ガイドラインの変更などでさらなる広がりを見せるASP・SaaS市場だが、安全性、信頼性をいかに確保するかが今後の課題と言えるだろう。事業者、利用企業、エンドユーザすべてが安心して利活用できる環境を望みたい。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*:国民ID制度
全国民に識別番号(ID)を割り当てることで、行政サービスの品質と効率の向上を図る制度。政府は2013年度の実現を目指している。




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