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公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
は“個人の意識”
(動画あり)

セミナーレポート
制度のさらなる進化に向け日本内部統制研究学会が開催

 2008年度から実施された内部統制報告制度は、一定の取り組みが進んだ一方で課題も浮き彫りになっている。そんな中2010年9月6日に日本内部統制研究学会の第3回年次大会が開催され、会場には企業の法務や業務監査の担当者や学識経験者などが多く集まった。

 会場では内部統制報告制度に関して様々な議論が交わされ、大学研究者による内部統制の研究報告のほか、監査人側からは「内部統制を企業価値に結びつけるにはどのようにしたらよいか」などの報告等があった。

箱田氏は内部監査が企業価値向上に貢献できる点を解説した
箱田氏は内部監査が企業価値向上に貢献できる点を解説した
 あらた監査法人の代表社員である公認会計士の箱田順哉氏からは、「企業価値向上に貢献する内部監査」と題した講演が行われた。箱田氏は、改めて「内部監査は組織体運営に関し、価値を付加および改善し、経営目標の達成に役立つこと」と位置付け、内部監査人が企業価値向上に貢献できる点を解説。特に内部統制におけるモニタリングの重要性について取り上げ、「継続的に監査を行えば問題が起こる前に指摘できるようになることが期待されている」と語った。

 また、欧米企業では法務関連の部署に数百名が在籍するなど、リスクマネジメントまで手掛けている企業が多いのに対し、日本企業では内部統制の対応のみでリスクマネジメントまで至っていないことを指摘。内部監査人がリスクマネジメントのコンサルティングを実施し、その体制を確立させることが将来期待される分野だとした。

 箱田氏は、「内部統制報告制度が導入され課題や難しさもあるが、内部監査人は経営者や部門責任者などのステークホルダーと密に連携をとりながら、企業に貢献していくべき」と語った。
野村氏は内部統制報告制度をさらに整備していくと語る
野村氏は内部統制報告制度をさらに整備していくと語る
 このほか特別報告として、金融庁 総務企画局企業開示課の野村昭文氏より「内部統制報告制度の見直しについて」講演が行われた。野村氏は、内部統制報告書の現在の提出状況を解説した上で、企業会計審議会内部統制部会にて現在制度の見直しを進めていることを報告。制度実施後、企業からは負担が大きいという声や、会社における財務報告が法令に従って適正に活用される会社の体制の確立を目指すものと定義されているので、一旦この体制ができれば、その後はさほど負担をかけて実施しなくてもよいのではないかという意見もある。そのため、現在、実施基準の明確化・簡素化が求められており、検討内容となっている4つの項目を説明した。

 1つ目は、「中堅・中小上場企業に対する簡素化・明確化」だ。同じ上場企業でも企業はそれぞれ規模が異なるが、作業量はどの企業もさほど変わらないため、特に中堅・中小上場企業にとって内部統制報告書の作成は負担になっている。子会社であったり海外拠点がない、取り扱い品目が少量であるなどという中堅・中小上場企業に対しては、工夫をして内部統制を整備してよいという規定もすでに存在するが、主に、評価手続等にかかわる記録および保存の簡素化・明確化、会社の規模等に応じた手続の合理化、代替手続の容認、全社的な内部統制の評価方法の簡素化を図るという。

 次に、「制度導入2年目以降可能となる簡素化・明確化」だ。実施企業からはコストや作業負担が高かったという声が大きかった。そのため、「初年度に有効な体制がとれており、2年目以降も大きな変更がないと確認されれば、ある程度簡素化してはどうか」といった意見が出てきている。そのため、評価対象範囲の絞込み(省略できる範囲の拡大)、対象とする統制やサンプリング方法などの緩和などが検討されている。3つ目が「その他の明確化」。監査人や企業の負担を軽減するために監査の指標を明確化したり、作業がより効率的に行えるよう様々な施策を今後検討していくとした。

 そして、4つ目が「『重要な欠陥』の用語の見直し」だ。内部統制報告書制度では、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備を「重要な欠陥」と表現すると定義されているが、これを企業側から見ると「重要な欠陥がある企業だと誤解を生む可能性がある」ため、用語の変更を望む声が多くあがっているという。金融庁では、これらの誤解を生まないためにも「今後改善を要する重要な課題」があることを開示する意見合いで使用していることを周知徹底するとともに、こうした誤解を恐れるがあまり企業側から情報の開示がされないということであれば、用語の変更も検討していきたいとした。

 野村氏は、「金融庁では、今までの状況を踏まえ、内部統制報告制度の運用をできるだけ効率的に進めてもらえるようさらに整備していく。今後も内部統制部会や同学会でいろいろな意見をもらい、制度の見直しを行っていきたい」と語った。
パネルディスカッションでは積極的な議論が交わされた
パネルディスカッションでは積極的な議論が交わされた
 学会の最後には、内部統制報告制度にかかわる各分野の代表者が登壇。中央大学の藤沼亜起氏を座長に、太陽ASG有限責任監査法人 公認会計士の齋藤哲氏、旭化成 業務監査室室長の吉田稔氏、アンダーソン・毛利・友常法律事務所のパートナー弁護士である池永朝昭氏、岡山大学 教授 兼田克幸氏らで、「内部統制報告制度による企業価値の向上-制度のさらなる進化に向けて」と題してパネルディスカッションが行われた。

 監査を受ける企業側の代表として吉田氏は「内部統制報告制度への対応業務を毎年同じようにするのはあまりに無駄が多く、すべて最初からやるのは必要性がないと思われる。効率化・簡素化を進めてもらいたい」と語った。これには、出席している企業担当者から賛同が得られていたが、一概に効率化・簡素化させては制度の意義や大きな制度変更が必要となるため、監査実務の効率化を図るべきだという意見も聞かれた。

 一方、内部統制報告書が株主総会までに提出されていないことが指摘されたが、兼田氏は「株主にとっても会社にとっても情報開示をし、説明責任を果たすことは有効である。海外投資家も増えているので、日本企業のガバナンスは強化されたということをどんどんアピールするべき。簡素化・効率化を進めるのもよいが、強化すべき点は何かということに重点を置いて改善をしてもらいたい」と述べた。

 また、誤解を生む用語だとして制度の検討内容にもなっている「『重要な欠陥』の用語の見直し」についても論議された。池永氏は「言葉の変更には賛成だが、内部統制に不備があった場合、どういう対策をとっていくかというPDCAを回していけるように情報を開示することが重要だ。それが健全な企業経営になるのではないか」と語った。

 このほかにも、内部統制報告制度を簡便化する「レビュー制度」について、あるいは子会社の会計不正防止、内部統制担当者との経営トップや取締役会の連携についてなど、様々な議論が交わされた。これらの議論が今後どのように制度に変化をもたらすのか、注意深く追っていきたい。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*:内部統制報告制度
ディスクロージャー(企業などが投資者や債権者などの利害関係者に対して、経営や財務の状況をはじめ、各種の情報を公開すること)の信頼性を確保するために、上場会社を対象に「財務報告に係る内部統制の経営者による評価及び報告」と「公認会計士等による監査」の提出が2006年6月に成立した金融商品取引法により義務付けられ、2008年4月より実施されている。


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