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公認会計士松澤大之
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セミナーレポート
電子書籍の未来に関するシンポジウムが開催

 iPad等に代表される端末の登場や、グーグルによるデータベース化などで注目を集める電子書籍について産業面や制度面から議論するシンポジウム「電子書籍ビジネスの未来」が4月13日、東京都港区の慶應義塾大学三田キャンパスで開かれた。
 同大学SFC研究所 プラットフォームデザイン・ラボが主催する「GIEシンポジウム」の7回目として行われ、学識経験者7人のパネリストを迎えて議論が交わされた。

 ITの諸問題に詳しいジャーナリスト・津田大介氏は、著書『Twitter社会論』をiPhoneやiPad対応の電子書籍で出版する計画を披露。その中で「(出版した2009年11月のままでは)内容が古くなっているのでアップデート版にしたい。批評家のコメントを掲載したり、テキストだけではなく音声データや動画を入れたりして、すでに本を買った人でもプラスアルファが得られ、また買いたくなるようにするのが、電子書籍の形ではないか」と語った。
 電子書籍のビジネスモデルにも触れ「利益を著者、出版社、アプリ開発会社で3等分するのが良いのではないか。第1弾として僕の本で試してみて、ビジネスモデルを広げていきたい」とした。
福井氏は権利・契約の側面から、電子書籍をめぐる課題を浮き彫りにした
福井氏は権利・契約の側面から、電子書籍をめぐる課題を浮き彫りにした
 著作権法などを専門とする弁護士の福井健策氏は、電子化する際、書籍の権利所有者について「著者と出版社が出版契約書を交わしていれば、電子出版の窓口は出版社になるようだが、契約締結率は45.9%(2006年、書籍出版協会調べ)しかない。契約書がないものはあいまいな状態」と指摘。その上で「(電子化についての条項も含んだ)新刊本のマルチユース契約化、既存書籍の権利一元化といった、契約と権利の明確化が課題になってくる」と主張した。
 一方、古くて市場にほとんど流通していないことなどから権利者の所在確認が困難ないわゆる「孤児著作物」問題にも言及。「アーカイブ的に幅広い書籍を(電子化して)利用する場合、どうしても問題になる。グーグルは『オプトアウト方式』*1でかなりの反発を受けた。日本国内では、改善された『裁定制度』*2の普及が課題になってくる」と力を込めた。
 自民党参議院議員の世耕弘成氏は、産業的な側面から「電子書籍の端末やプラットフォームなどの分野で、日本がしっかり勝ってほしい。コンテンツ産業振興の面でも、縮小している出版マーケットをリバウンドさせるきっかけにならなければならない」と力説。
 その上で「日本には黒船が迫っており、電子書籍の分野ではビジネスとして対抗していかなければならない。日本がノーガードの状態になっている知的財産を、どのように守るかを考えていく必要がある」と訴えた。

 民主党衆議院議員の岸本周平氏は「国には文化庁や経済産業省、観光庁、外務省などにコンテンツに携わる部署がバラバラにあり同じことをやっている。これを『文化・コンテンツ庁』のような形で一つにくくった組織を作り、それも(他省庁からの)出向者の寄せ集めではなく民間からも人材を集めていけば、知恵が出てくるかもしれない」と強調。
 また「(電子書籍など)コンテンツ業界はアップダウンが激しいので、そのアップダウンをならすような税制を作れば業界もやりやすくなると思うし、それが政治の仕事」と自説を述べた。
会場いっぱいとなる120人超が集まり、電子書籍への期待と危機がうかがわれた
会場いっぱいとなる120人超が集まり、電子書籍への期待と危機感がうかがわれた
 このほかのパネリストや聴衆からも、日本国内における電子書籍をめぐる制度面の整備、産業としての成熟を進める必要性などを訴える発言が続出。問題意識や関心の高さに加え危機意識も感じられた。今後の電子書籍をめぐるさらなる議論の進展、コンテンツの充実に期待したい。





オープンガバメントの実現を目指すシンポジウムが開催



※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*1:オプトアウト方式
ここでは、グーグルが書籍の電子データベース化を進める際、権利者側から電子化を認めない旨の申し出があった場合にのみ公開を取り止める方法で、権利問題を処理しようとしたことを指す。

*2:裁定制度
権利の所在が不明な著作物について、補償金を国庫に供託することで利用が可能となる制度。新聞・雑誌・インターネット上などで情報を募集するなど、権利の所在を探すために「相当の努力」を行ったにも関わらず分からなかった場合にのみ申請できる。


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