セミナーレポート

顧客に無数につながり、新たな消費喚起を

スマホの利用拡大で注目のオムニチャネル

2015/2/2

 リアルとデジタルの両輪でさらなる顧客満足を――。実店舗とWEBをつなげて新たな消費を喚起する「オムニチャネル」が近年注目を浴びている。急速な技術の発展により広がる小売業と顧客とのつながり。その今後はいったいどうなるのか。

 グループ全体で国内最多となる約18,500店舗を展開し、1日2,000万人が訪れるセブン&アイ・ホールディングス(以下、HD)傘下のセブン&アイ・ネットメディアの田口広人取締役常務執行役員(オムニチャネル推進事業部長)と、流通経済研究所主任研究員の加藤弘之氏が登壇し、その戦略と本質について講演を行った。

会場は満員。立ち見も出る盛況だった
会場は満員。立ち見も出る盛況だった

本質は「システム戦略でなく、顧客戦略」


 田口氏はHDの戦略を考えるにあたり、「米国を強く意識している」と説明。2011年にオムニチャネルの概念を初めて打ち出した、老舗百貨店のメイシーズや巨大薬局チェーンのウォルグリーンを具体的な例に挙げた。しかし、コンビニ・スーパー・百貨店などを抱える同HDと異なり、米両社は単一業態であることを指摘。「時間と空間の制限を受けないサービス」を提供すれば、両社を「越えられる」と強調した。


 また、オムニチャネルの本質が「システム戦略ではなく、顧客戦略」にあるとし、そのためには高品質な商品の開発が必要となる。今後は、WEBサイト上での売れ筋商品を実店舗で並行して販売し、全国に30~35万人いる現場の販売員やマーチャンダイザーの声を積極的に取り入れることで、2015年度までに「セブンプレミアム」を含むグループのオリジナル商品で売上3兆円を目指すと発表した。


 田口氏は「来年からは高齢者ニーズを視野に入れた御用聞きビジネスにも本格参入し、将来的にはビデオチャットを使いながらの顧客サポートに力を入れていく」と話す。併せて、現在150店舗で行われている書籍や高級化粧品の販売といった「実証実験」も紹介した。


手本は、セブン-イレブンの開発スピード


 続けて、田口氏は売り場・商品・店舗・物流・会員に関する5つのシステム開発プロジェクトに、HDの各事業会社が業務を横断して取り組んでいると説明。開発の要件定義書が7,000ページに渡っていることも明かした。開発は、システムベンダー10社のほか新興のネット系企業数社からもサポートを受けており、今後「全てをスマホファースト」で進め、「これからの標準」を作っていきたいとした。


 現在、低コストのアジャイル(短期反復型開発)を用いて、1か月単位の早さでシステムの機能追加を進めており、HD全体が事業会社の1つであるセブン-イレブンの「すさまじい事業スピード」に追い付く必要があるとした。


 また、1時間に最大1079回ものリリースを行うAmazon Web Services(AWS)の事例を挙げ、「システムの優劣そのものが売り上げに直結する」時代であると指摘。


 田口氏はこれからの課題として欧米では常識となっている開発とオペレーションを一体化したDevOpsやUX開発の有効活用でオリンピックイヤーとなる2020年までには「新しい消費行動がおきている状態を作り上げていきたい」とした。

セブン&アイ・ネットメディア 取締役常務執行役員
田口広人氏   流通経済研究所 主任研究員 
加藤弘之氏
セブン&アイ・ネットメディア 取締役常務執行役員 田口広人氏   流通経済研究所 主任研究員
加藤弘之氏

オムニより「スマホ利用の啓蒙が先決」


 続いて登壇した流通経済研究所主任研究員の加藤弘之氏は「オムニチャネルという言葉が十分に定義付けされていないため、企業や団体ごとに解釈が違う」と指摘する。「『現象』としては定義されているが、『本質』が語られていない」ためと理由を説明。その解決を、目標の統一化とインフラの環境整備に求めた。


 オムニチャネルはROI(投資対効果)との関係づけが難しいため、評価指標が不明確であることについても触れ、「『○○をした』という声は聞くが、『○○という効果があった』との声は聞かれない」と現状を説明。


 加藤氏はさらにオムニチャネルが盛んな米国では、スマートフォンやフィーチャーフォンの保有率が66.7%であるのに対し、日本での保有率は50.3%と低いことから、オムニチャネル推進以前の課題として「スマホの使い方を啓蒙することが先決」と日本における課題点を挙げた。


 2010年代前半の米国市場は、デジタル機器を自由にあやつる「ミレニアム層」への対策が急がれており、「スマートフォンとショールーミング(店舗間比較)の延長線上にある」オムニチャネルが求められていると解説。しかし、保有率の低い日本は米国戦略をただ真似するのではなく「日本的な解釈」が必要とした。


個別で専門的な情報発信が有効


 加藤氏は、「長期的な流通進化への対応」と「小売業の高質化・差別化」が、国内における中長期的な戦略であると指摘。「長期的な流通進化への対応」とは、コストを削減し、売り上げと店舗ロイヤリティを向上させることであり、また、それに付随するマーケティング戦略についても「集客型から接客型に移っている」とした。


 「小売業の高質化・差別化」については、オムニチャネルの浸透で「店舗を利用する頻度は上がるが、行く回数は減る」といった消費行動が今後主流となる。そのため、加藤氏は買い物に対する新たな価値観を提供する「選ばれる店舗」になることが重要であるとした。さらにスマホアプリやSNSを通じたコンテンツ発信を積極的に行い「特に個別的で専門性が高い情報は顧客から信頼されやすいため、戦略として有効である」と述べた。


 日本でのオムニチャネルの浸透はこれからだ。上記2氏の発言にもあるように、言葉の表面的な意味合いに惑わされるのではなく、本質を理解し実行していくことがなによりも求められる。一部の週刊誌では「セブン-イレブン vs アマゾン」といった刺激的な見出しも踊る。巨大化していく関連市場をこれからもウォッチしていきたい。

(國吉真樹)

【セミナーデータ】

イベント名
:オムニチャネル戦略セミナー
主催   
:ナノオプト・メディア
開催日  
:2014年12月5日
開催場所 
:フクラシア東京ステーション(東京都千代田区)

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