セミナーレポート

タブー視せずに遺体処理も議論を

4年ごとに開催の「地震工学シンポジウム」

2015/1/22

 4年ごとに開催される日本最大の地震工学分野の会議「日本地震工学シンポジウム」が2014年12月4日から3日間開催された。2011年の東日本大震災を踏まえ、近い将来の発生が「確実視」(山崎文雄・同シンポジウム運営委員長)されている南海トラフ巨大地震や首都直下地震など「今後の地震・津波による被害をできるだけ小さく抑える」ための対策などが話し合われた。

大会議室のほか複数の小会議室でもセッションが展開された
大会議室のほか複数の小会議室でもセッションが展開された

東日本大震災で脆弱性を改めて痛感


 日本地震工学シンポジウムのプログラムには、同シンポジウム運営委員長の山崎文雄氏が挨拶文を掲載している。そこには、関係者は1995年の「阪神・淡路大震災」の教訓を生かして構造物の強靭化などに取り組んできたが、東日本大震災では「巨大地震・津波による我が国の脆弱性を改めて思い知らされた」との思いが記されている。


 「大災害時に、(死者は)もちろん発生させたくはないが、今までの被害想定を冷静に受け止めるとそれなりの数の亡くなってしまう人たちが出る状況は避けられない」―。東京大学教授の目黒公郎氏は、苦々しい表情でこう語り始めた。同氏は「遺体処理の問題はタブー視される場合もあり、多くの自治体では具体的・十分な対応法が議論されてこなかった」と指摘。「巨大災害時に適切に遺体処理を行うための重要なポイント」を説明した。


 目黒氏は、南海トラフ巨大地震などの発生が懸念されている一方で、大災害時に「死者をどのように埋葬するか、処置するかの議論は不十分だ」と指摘。阪神・淡路大震災の時でさえ、「被災地だけで火葬することができず、九州に運んだ遺体があったが、東日本大震災はその比ではなかった」と当時の状況を語った。


 併せて、東日本大震災の時に宮城県石巻市では「遺族による自己火葬」「東京での火葬」「仮埋葬(土葬・改葬)」が行われたことを紹介。「とにかく火葬処理能力を超えたので仮埋葬をせざるをえなかった」とし、当時は6市町村の2000人が仮埋葬されたことを紹介した。


 これらを踏まえて、目黒氏は「今後の大規模災害へ向けた遺体処理業務」を提案。身元が判明した遺体と身元不明の遺体を「同じ手続きで火葬することはボトルネックだ」と指摘した。その上で、作業に関わる人の肉体と精神の負荷を軽減させるための「職員交代体制」やカウンセリングの導入などを提案した。

東京大学教授 目黒公郎氏   東北大学災害科学国際研究所 佐藤健氏
東京大学教授 目黒公郎氏   東北大学災害科学国際研究所 佐藤健氏

仙台市、防災リーダーを400人養成


 東北大学災害科学国際研究所の佐藤健氏は、仙台市の「地域防災リーダーの養成プログラムの開発」について報告した。佐藤氏は、阪神・淡路大震災以降「自主防災組織」の組織率が高まっているが、形骸化・高齢化により活動の活性化に課題があると指摘。その解決策に、「推進役になる地域防災リーダーを養成する」ことが考えられるが、受講で得た知識を活用する機会が少ないなどの課題もあるとし、それらの課題を解決するために開発した養成プログラムを説明した。


 リーダー養成の基本コンセプトには、「とにかく地域に根差していること」「身に着けた知識と技能を地域で活かすことを前提」などを掲げていると紹介。主な活動は、地域の小学校での避難所運営の協議・訓練などを行っており、「少しずつかもしれないが、地域性を踏まえた活動ができるようになってきた」と述べた。併せて、リーダーの情報は小学校区ごとに学校に提供し「各学校区に誰がいるか分かる状況ができている」と強調した。


 養成プログラムはこれまでに400人が受講しており、うち20%が女性。毎回、「定員を超える申し込みがある」という。今後の課題について佐藤氏は、養成プログラム修了者の相互の情報交流の場を設けることや、修了者が活動しやすい環境づくり、市民の認知度向上を挙げた。


 このほか、災害リスクマネジメントなどを手掛ける株式会社ERSの水越熏氏は、住宅の「簡易地震リスク診断ツール」の開発について報告した。同ツールは「住民と専門家が対話形式でコミュニケーションできる」もの。住宅の所在地や戸建て・集合住宅などの建物情報等を入力すると、地盤情報や今後30年間の地震発生確率などが出力される。


 水越氏は試行実験の結果について、「自宅の耐震性についての関心はもともと高い。ただ、自分たちだけでリスクを正しく理解して行動に移すことはかなり難しいことがわかった」と説明。このことは「専門家が対面方式で助言することで乗り越えられる可能性がある」との認識を示した。


 「防災」とともによく語られる言葉に、「減災」がある。発災時には被害が発生するものとして考え、その被害を最小限に抑えるための取り組みを指す言葉だ。目黒氏が、タブー視することなく遺体処理対策の必要性を強調するのも、被害想定を冷静に受け止めたことによるものだろう。「遺体処理」はショッキングな言葉だ。しかし、これまでにいくつかの防災・東日本大震災関連の会議を取材したが話題に上ったことはなかった。災害ではないが、シミュレーション結果を無視して多くの犠牲者を出した過去の出来事を思い出し、事前想定等を重く受け止める必要性を改めて感じた。

(高橋 慧)

【セミナーデータ】

イベント名
:日本地震工学シンポジウム
主催   
:日本地震工学会など10団体
開催日  
:2014年12月4日~6日
開催場所 
:幕張メッセ国際会議場(千葉県千葉市)

【関連カテゴリ】

その他