セミナーレポート

知の拠点 図書館のさらなる可能性

貸出履歴と新たな横断検索で存在価値向上

2014/12/4

 ビッグデータの活用がさけばれる中、個人情報保護の観点から“縛り”がある図書の貸出履歴データはどのような活用が考えられるのか。11月5~7日の3日間開催された第16回図書館総合展のフォーラムでは、貸出履歴データの活用を巡る実際の活用事例や法的問題、公共・大学・専門図書館と利用者をつなぎ図書館の価値向上をねらう新たな横断検索などが話し合われた。

過去最多の3万人が来場した14年の図書館総合展
過去最多の3万人が来場した14年の図書館総合展

貸出履歴の活用例と法的問題


 7000の図書館等が会員の日本図書館協会が定めた「図書館の自由に関する宣言」には、「図書館は利用者の秘密を守る」が掲げられている。また、個人情報保護法の制定により、貸出等を管理するシステムもプライバシーを守ることを前提に設計されている。そのため、図書館では、資料返却と同時に貸出情報を自動消去するなどの運営が行われてきた。今回のフォーラムでは、世の中の流れも踏まえた貸出履歴情報の活用について、図書館システム開発や法律の専門家が講演した。


 フォーラムではまず、ライブラリーアドバイザーの高野一枝氏が貸出履歴の活用事例と課題について講演。活用事例では、借りた資料の名前や年月日が印字される「読書手帳(通帳)」や、読みたい本などの資料をメモとタグとともに登録できる「My本棚」などを紹介した。


 その上で読書手帳(通帳)については、システムサーバとは別の「読書手帳用サーバに、LAN上とはいえ個人情報が流れてしまう」ことが課題だとの認識を示した。併せて、貸出履歴については「ベンダーごとに取り組みがまちまちで、共通インターフェースが確立していない」と指摘。履歴データの集め方が各ベンダーで違うことがシステム移行時には「縛り」となるとし、実際にサービス提供を断念した図書館があることを紹介した。


 続いて、情報セキュリティ大学院大学教授の湯淺墾道氏が貸出履歴データ活用を巡る法的問題について講演。「貸出履歴データを利用する権利は誰にあるのか」と問題提起し、履歴情報が個人情報に該当する場合には、開示請求や利用停止請求などが認められるとした。さらに、「個人情報」の定義が各地方自治体の個人情報保護条例によって異なることや、個人情報保護法について解説。その上で、「貸出履歴情報は、一義的には収集した人のものだが、情報への個人の関与がかなり強く認められ、収集者には利用の制限がかかっている」との見解を示した。


 マイナンバー制度との関連については、「現時点では、マイナンバーの利用目的は限定されているので、図書館関係ではマイナンバーを使うことはできない」と説明。しかし、将来的には民間での利用が予定されているので、「将来的に図書館でも使われるのはゼロではない状況だ」と述べた。

ライブラリーアドバイザー 高野一枝氏   情報セキュリティ大学院大学 湯淺墾道教授
ライブラリーアドバイザー 高野一枝氏   情報セキュリティ大学院大学 
湯淺墾道教授

図書館の存在価値を高める新たな横断検索


 このほか図書館総合展では、公共図書館や専門図書館、大学図書館、利用者をつなぐ「横断検索のその先」を議論するフォーラムも行われた。専門図書館のオンライン蔵書目録(OPAC)を横断検索する例はこれまでもあったが、今回議論される新しいシステムは、専門図書館だけでなく公共図書館や利用者を巻き込むものだ。


 日本最大の図書館蔵書検索サイト「カーリル」を運営する株式会社カーリル代表取締役の吉本龍司氏は、カーリルの運営状況などを紹介。現在、全国の図書館のうち6550館、公共図書館の93%に対応しているが、専門図書館で対応しているのは228館で、「だいぶ増えてきたが、まだまだ少ない」との認識を示した。


 併せて、カーリルで公共図書館の資料を探している利用者に対して、OPACがない専門図書館と「つながるきっかけをつくっていけないか考えている」と今後の意気込みを語った。


 専門図書館との連携などに詳しい鳥取県立図書館支援協力課課長の小林隆志氏は、専門図書館と公共図書館が連携することについて、「公共図書館の機能・サービスが向上し、専門図書館の存在価値が上がる」など「両方の価値が“Win-Win”で向上していくことの意味をよく考えないといけない」と強調。利用件数が少ないとしても、連携することによって地方の公共図書館が提供できなかった資料が提供できるようになることの「意味合いは大きい」と述べ、機能強化の検討を求めた。


 インターネットの世界にすべての情報があるわけではない。調べものをするとき、ネット以外に頼るものの1つが図書館だ。特に専門図書館には、ネットでは把握できなかった資料が収蔵されている。そんな資料に横断検索を通して巡り会えたとしたら、その機会が少ないとしても出会えたことの「意味会いは大きい」(小林氏)。新しい横断検索が実現されることで眠れる資料に活躍の日が来ることを期待してやまない。

(高橋 慧)

【セミナーデータ】

イベント名
:第16回図書館総合展
主催   
:図書館総合展運営委員会
開催日  
:2014年11月5日~7日
開催場所 
:パシフィコ横浜(横浜市西区)

【関連カテゴリ】

トレンドその他