セミナーレポート

歴史資料を未来につなぐ災害対策

第8回資料保存シンポジウムを取材

2014/11/13

 情報保存研究会(JHK)と日本図書館協会は2014年10月20日、都内で第8回資料保存シンポジウムを開催した。紙資料や文化財の災害対策、救出について講演が行われた。

東京都立中央図書館資料保全専門員 眞野節雄氏
東京都立中央図書館資料保全専門員 
眞野節雄氏

大震災を受けて資料防災マニュアルを作成


 東京都立中央図書館 資料保全専門員の眞野節雄氏は、都立図書館の資料防災マニュアルなどを解説した。図書館の災害時の資料保存対策には、「予防・準備・緊急対応・復旧」の段階があり、そのような「教科書」もたくさんあるが、「それぞれの図書館や機関がそのようなマニュアルを持っているかというと、ほとんど皆無」だったと指摘。マニュアルを「館の意思として決定できるものをつくり上げるのは、組織が大きくなればなるほど大変なこと」との認識を示すとともに、都立図書館では、東日本大震災の発災を受けて資料防災マニュアルを作成したと経緯を説明した。


 都立図書館マニュアルの特徴については、1.資料が受けるダメージから見る2.ダメージの種類によって優先順位がある3.塗工紙に着目、の3つを挙げた。その上で、災害対策を考える際には地震や水害など「災害種別にマニュアルをつくろうとするが、そうではなくて資料が受ける被害」に着目したとし、都立図書館では水濡れや落下による破損、蛍光灯等の飛散による資料破損を想定したと強調した。


 表面が加工された塗工紙の資料が水濡れ被害にあった場合には、「カビも心配だが、塗工紙のはり付きもできるだけ避けたい」とし、マニュアルに盛り込んだトリアージ・フロー図などを紹介した。


 熊本大学文学部の木下尚子教授は、内閣府に置かれた日本学術会議が2014年6月に、文化財を次世代に継承することを目的に発表した提言の概要を説明。提言は、文化財の防災と救出に向けた国レベルの常設機関の設置を求め、行政と文化財関連団体との連携・協力や文化財データの組織的整備などをその期待される業務に挙げた。文化財専門職員を配置する必要性も強調した。


 その上で、災害時の文化財救出の実態を紹介し、なかでも基本的にボランティアで組織されている「資料ネット」について、文字資料を中心に地域の個別事情に対応する即応性に秀でていると強調。組織は「行政的なものではなく、草の根的なもの」だが、資料ネットが地域の文化財のセーフティーネットの役割を果たしていることを評価し、「大都市を含めた各地方公共団体に資料ネットが存在することが望まれる」との考えを示した。


 このほか、文化財データベースを構築する必要性を強調し、文化財の被災に備え、所在情報を含んだ個別データを国内複数カ所に保管することを提言。東日本大震災では、デジタルデータを作成していたために、津波で流出した現物資料を補うことができた例があったことを紹介した。

熊本大学文学部教授 木下尚子氏   元敦賀短期大学教授 多仁照廣氏
熊本大学文学部教授 木下尚子氏   元敦賀短期大学教授 多仁照廣氏

歴史を学び、地域を消滅から守る


 敦賀短期大学の元教授で現在は私塾の涛声学舎で舎主を務める多仁照廣氏は、国内に大量の古文書が遺っていることについて解説。その要因として武家政権が先例主義であったために証拠を遺す必要があったことや、和紙と墨の存在、江戸時代に大規模な対外戦争が起こらなかったことなどを挙げた。


 一方、消滅可能性がある集落や高齢者割合が高い集落が消えていく可能性に触れ、集落が消えても「その地域の記録は、多くの場合は一部しか救済されない」と指摘。地域の資料を次世代につなげ、多様な各地域の個性ある歴史を学ぶことで地域や民族の絆が育まれ、地域を消滅から守ることができるとの考えを示した。


 多仁氏は「過去の歴史資料は未来への遺産づくり。地域を守ること、国民を守ることにつながっていく」と述べた。さらに「いろんな経験を寄せ合って、残っている資料を少しでも多く次の世代に伝えてほしい」とし、講演を締めくくった。


 今回の講演で話題に出た「資料ネット」は、阪神淡路大震災を契機に登場したもの。文化財の多くは、博物館施設や各地の教育委員会、埋蔵文化財調査センター、資料ネットで蓄積されているとのことだったが、いまだにデータ化されていない文化財や旧家などに眠っている資料もあるという。官・学・民が連携し、早急に災害等に備える体制を構築する必要性を強く感じた。

(高橋 慧)

【セミナーデータ】

イベント名
:第8回資料保存シンポジウム
主催   
:情報保存研究会(JHK)、日本図書館協会
開催日  
:2014年10月20日
開催場所 
:東京国立博物館 平成館(東京都台東区)

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