セミナーレポート

ナノテクノロジーで進歩するがん研究

がん研究に関する最新の事例を紹介

2014/9/29

 東京大学医科学研究所は、がん研究に関する公開シンポジウムを2014年8月21日に開催した。がん細胞から分泌されるエクソソームや、そのメカニズムを解き明かすナノテクノロジーを使った研究など、最新の事例が紹介された。

がん研究に関する最新の事例が
紹介されたシンポジウムの会場の様子
がん研究に関する最新の事例が紹介されたシンポジウムの会場の様子

がんのメカニズムを調べる


 がんのメカニズムを解明しようとする研究は近年、着実に進歩している。例えば「ゲノム編集」と呼ばれるアプローチ。これは生物における傷ついた遺伝子の修復過程を利用して、遺伝子を意図的に改変しようというもの。ゲノム編集によって遺伝子をカスタマイズしたマウスを育てることで、がんの転移や発がん試験などに用い、がんの仕組みの解明に役立てようとするものである。


 このゲノム編集の他にも、エクソソームと呼ばれる、がん細胞から排出される微小な粒子を研究することで、そのメカニズムを解明しようという取り組みがある。国立がん研究センター研究所分子細胞治療研究分野 分野長の落谷(おちや)孝広氏は、エクソソームとその研究について説明した。


がん細胞とエクソソームとの関係


 エクソソームとは直径1ナノメートル(1ナノメートルは1メートルの10億分の1)ほどの粒子で、周囲にある様々な正常な細胞と相互に影響し合う。具体的にはmRNA(情報を伝達する核酸)によって他の細胞と情報を交換することがわかっている。そのため、落谷氏はこのエクソソームが、がんの進行に大きく関係しているとしている。


 落谷氏の研究室では、乳がんとエクソソームの関係について調べている。乳がんは手術後長期間たつと、再発・転移が行われるという特長をもつ。落谷氏の研究室では骨髄の中にある細胞が分泌するエクソソームが、乳がん細胞の休眠状態を誘導することをつきとめた。


 乳がんは日本人女性で発生する確率が高いがんとして知られている。今回の発見のように、乳がん細胞のメカニズムがわかれば、乳がんの再発を防止する創薬につなげられるというわけだ。

国立がん研究センター研究所 
落谷孝広氏   名古屋大学大学院
馬場嘉信氏
国立がん研究センター研究所 
落谷孝広氏
  名古屋大学大学院 馬場嘉信氏

ナノテクをがん研究に活用


 一方、名古屋大学大学院教授の馬場嘉信氏は、ナノテクノロジーを活用してエクソソームの解析に活かす取り組みを紹介した。ナノテクノロジーとはナノメートル単位で加工や製品開発を行う技術で、今やパソコンやスマートフォンの半導体などに欠かせない技術でもある。


 馬場氏は大阪大学と協力して行っている「ナノポア」という技術に言及した。ナノポアとはDNAシーケンス(塩基配列を解読する手法)に使われるナノテクノロジー。ナノメートルの超微細な穴に、ひも状に長く伸ばした1本のDNAを通して塩基を解読するというもの


 これまで行われてきたPCR(Polymeras Chain Reaction:複製連鎖反応)という解析手法では、DNAの複製を作ったり特殊な試薬をつくる必要があって、DNA解読に時間がかかっていた。しかし、この「ナノポア」という手法ならば1塩基あたり1ミリマイクロ秒(1000分の1秒)で読み取ることができる。ナノポアに関する複数の機器を使えば、ヒトのDNAなら1日程度で全遺伝子情報の解読が可能だという。馬場氏の研究室ではこのナノポアに電極を利用することで、より精度の高い解析を行う研究を行っているという。


 馬場氏はこのナノポアの技術が、エクソソームやmRNAの解析に応用できることを紹介。ベンチャー企業を設立し、新たな技術の実用化に取り組んでいる。こうした取り組みは文部科学省が進めている「ナノテクノロジープラットフォーム」(ナノテクに関する研究設備の共用を促す事業)の一環として政府のサポートを受けているとのことだ。


 “不治の病”といわれていた「がん」も、医療やバイオテクノロジーの進歩で治癒が目指せる時代になってきている。がんのメカニズムを解明するためにも、こうしたナノテクノロジーを用いた研究の重要性は益々高まるという印象を受けた。

(山下雄太郎)

【セミナーデータ】

イベント名
:がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動公開シンポジウム
主催   
:東京大学医科学研究所
開催日  
:2014年8月21日
開催場所 
:一橋講堂(東京都千代田区)

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