セミナーレポート

生産性を向上させる「サービス」の研究

サービス学ロードマップシンポジウムを取材

2014/9/25

 サービス学会は、サービス学ロードマップシンポジウムを2014年8月8日に開催した。 サービスの分野をロボットなど工学の領域からのアプローチによって改善していく取り組みが活発化している。シンポジウムではこうしたサービス学やサービス工学に関する取り組みが紹介された。

サービス学ロードマップの様子。
サービス工学などの様々な事例が紹介されていた
サービス学ロードマップの様子。サービス工学などの様々な事例が紹介されていた

サービス学の必要性


 サービス学会会長で、東京大学名誉教授の新井民夫氏は講演でかつての「物の時代」「ハードの時代」から「情報の時代」「ソフトの時代」へとパラダイムシフトが起こっていると説明。その結果、第3次産業の雇用の割合が増えているとした。反面、製造業に従事する人の数が減ってきており、工業製品販売店が極端に減少し、100円ショップの数が増えているという。


 新井氏は「第3次産業の活性化が必要不可欠」と持論を展開。サービスの本質が何であるかを洗い出して理解・共有し、生産性向上を実践するための方法論(=サービス学)を考えること大切だとした。すでに2007年5月にサービス産業生産性協議会が発足。2009年4月の「技術戦略マップ」では、工学分野からのアプローチによってサービスの改善を図ることが決定。ヘルスケア分野を皮切りに、小売・飲食・金融などにサービス工学の導入が進められてきた。


 サービス工学とはサービスの受け手である顧客をモデル化することで、サービス向上・高度化を目指すというもの。さらにサービスの価値とコストを客観的に評価する指標を掲示し、経営力の強化を目的とするとしたものだ。


 2014年3月には経済産業省が、サービス工学分野技術戦略マップを発表。このロードマップができたことにより、研究者はテーマを選択し研究を行い、学会では技術や動向を予測し、標準化していくことが求められている。新井氏はサービス提供者にとって、どのように新しいサービスを提供すれば顧客が喜ぶのかを考えることが重要だとした。


サービス工学の応用


 産総研(産業技術総合研究所)サービス工学研究センター長の持丸正明氏は、サービスについて、「モノを扱う製造業に対して、無形性や不均質性などを伴う」と指摘。研究対象としても、人(提供者と顧客)が必ず含まれることや、在庫を保有できないという特徴があるとした。


 持丸氏は産総研でサービスの現場を改善する「サービス工学」に関する研究を行っている。持丸氏の研究チームではお寿司のチェーン店・がんこ寿司と協力し、従業員の服の帯にセンサーを入れ、屋内で従業員がどのように移動しているか調べている。これまでサービスの現場は従業員が屋内でどう動いているか、経営者本人もわかっていなかったとのことだ。


 しかし、これを計測することで顧客の滞在時間が判明。顧客のいる時間帯に合わせて準備の時間を前倒しするなどスケジュールを調整した。さらに顧客がいつ来店するか需要を予測し、その予測変動に対して、チェーン店の中で従業員をどうまわすかシミュレーションすることでサービスをより良質なものにできたという。

サービス学会会長 新井民夫氏   産総研 サービス工学研究センター長
持丸正明氏
サービス学会会長 新井民夫氏   産総研 サービス工学研究センター長
持丸正明氏

生産性の向上


 一方、JIPDEC(日本情報経済社会推進協会)の坂下哲也氏は、製造業における製造プロセスにおいてコモディティ(陳腐)化、IT化が進んでおり、均質化が進んでいると解説した。坂下氏はその反面「サービス産業では多くの分野で生産性向上の余地がある」と説明。POSデータなどのデータ利用や人材不足のフォローなど、その知見をフィードバックすることによって、サービスにおける全体の最適化が行われるようになるとした。


 坂下氏によると、例えば、米国の大手金融機関・バンクオブアメリカでは、約90人のスタッフに小型センサーを内蔵したバッジを装着させ、行動や会話を記録・分析したという。その結果、同僚と頻繁に会話している社員は結束力が強く、生産性が高いということがわかった。


 この結果を踏まえ、同社では休憩をグループでとるようにスケジュールを調整。社員食堂の照明・メニューを社員に好まれるように変えた。またコーヒーメーカーを減らし、特定の場所に社員がコーヒーを入れに来るよう仕掛けたところ、社員の会話の回数が増え、生産性が10%向上したという。同社でこうした研究を社員のSNS(TwitterやFacebookなど)に広げることで、より精緻なコミュニケーションの取り方を分析し生産性を上げようとしている。


 また日本企業でも、現場のデータを収集・活用し、経営の効率化に活かす取り組みが進められている。坂下氏は名古屋の地場タクシー企業・宝タクシーからプローブデータ(タクシーの走行履歴データ)を譲り受けて分析を行い、「稼いでいるドライバー」のパターン化に成功。病院の往復が多いことや、時間毎の乗車数のピークが夕方と深夜に存在していることなどがわかり、社員全体のスキルアップ、売り上げの向上につなげたという。


 坂下氏は1つの可視化した情報によって全体の底上げができると説明。また解析を行う事業者が登場するなどデータ解析のニーズが高まっているとする一方で、データアナリストの人材不足も指摘している。


 サービスを向上させるための「サービス学」において、工学からのアプローチは必要不可欠だ。サービスの底上げのためにも、データの解析・活用を行い、生産性を向上させていくことに期待したい。

(山下雄太郎)

【セミナーデータ】

イベント名
:サービス学ロードマップシンポジウム
主催   
:サービス学会
開催日  
:2014年8月8日
開催場所 
:東京大学弥生講堂(東京都文京区)

このセミナーレポートのキーワード
【キーワード解説】POSデータ

【関連カテゴリ】

その他