セミナーレポート
研究者の倫理観を育成する新プログラム
日本学術会議などが主催のシンポジウムを取材
日本学術会議・文部科学省などは、研究者の倫理感に関するシンポジウムを2014年7月29日に開催。STAP細胞に関する騒動などにより研究者の倫理観の育成に注目が集まる中、会場は研究者をはじめ多くの関係者で埋め尽くされた。
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| 関心の高さをうかがわせた満員の会場 |
国際的に起こる研究不正・ねつ造
日本学術振興会理事の浅島誠氏は、国内の研究発表において、これまでも不正やねつ造など不誠実なものが見られてきたと指摘。その背景には膨大な情報量とITの進化などによる社会的な変化のほか、個人の資質によるものや指導者の指導不足などの要因もあって問題が生じている。そのため浅島氏は「科学」が健全な発展によって社会に貢献するためには、研究者がその行動を自ら律するために「研究倫理」を確立していく必要があるとした。
また浅島氏は、研究倫理に関する国際動向についても言及。研究に関する不正やデータの改ざん・ねつ造(FFP:Fabrication,Falsification,Plagiarism)などは、欧米諸国でも問題視されており、インドや中国など他のアジア諸国でも増えていると説明。そのため国際的に起こっている問題であるとした。
そこで、日本でも文部科学省や日本学術会議などが協力し、科学者のための研究倫理教育プログラムを含んだ「研究開発における不正行為への対応等に関するガイドライン」の作成に取り組んでいる。
ガイドラインに盛り込むこと
文部科学省科学技術・学術政策局長の川上伸昭氏はこのガイドラインについて講演した。文部科学省ではこれまでも学術審議会などで話し合い、研究不正に関するガイドラインの作成に取り組んできた。2013年9月26日には中間のとりまとめを発表するなどのアウトプットも行ってきたが、直後にSTAP細胞のねつ造疑惑に関する事案が発生。その案件の状況を見て盛り込むべき項目を反映させ、新たなガイドラインとして公表するべく、作成を進めている段階だ。
これまでのガイドラインでは研究活動における不正行為への対応について、研究者個人の責任を問うところが大きかった。しかし「不正が行われた場合、最長で10年間は競争的の研究資金の申請資格を失うなどペナルティを上げてきたが、個人の責任を問うだけでは対処できなくなっている」(川上氏)。そのため今後は大学などの研究機関が責任をもって不正行為の防止に関わるよう、対応を強化していく方針とのことだ。
またSTAP細胞事案からもわかるように、研究データの保存・検証は極めて重要だ。研究データが失われると、研究者の責任所在が不明確になるという事態になる。そのため研究データの保存の問題には組織をあげてきっちりと取り組むことが必要となる。
さらに大学には、研究者(=学生)に対する倫理教育にも力を入れることが求められる。そこで研究者に研究倫理教育プログラムを履修させ、その受講の確認を大学側が行う。文部科学省は各大学がこのプログラムを含むガイドラインをきちんと履行しているか調査し、公表していく方針だ。
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| 文部科学省科学技術・学術政策局長 川上伸昭氏 |
日本学術会議副会長 小林良彰氏 |
研究倫理プログラムの内容
日本学術会議副会長で慶応義塾大学教授の小林良彰氏はこの研究倫理教育プログラムについて講演した。小林氏は何か問題がおきると罰則を強化することに目が行きがちだが、そこだけに目を奪われるのではなく、いかにして事前にそれを防止するのかを考えるべきだと意見を述べた。
また小林氏は科学が社会からの信頼という基盤の上に成り立っていると説明。「信頼が失われれば、間違いなく社会から支持を得られなくなる。そうなれば研究などの予算に影響するだけでなく、我々が何か言ってもそれが社会に受け止められなくなる」と警鐘を鳴らした。
小林氏は、「科学者の責務をあらためて認識する必要がある」と説明。日本学術会議の利点を、違う分野の研究者がそろっていることとし、分野による違いを超えて共通する倫理観の育成を教育プログラムに盛り込んでいく構えだ。
具体的には「公正な研究・計画・実施」「法令の順守」「地球環境の持続性」に関する項目などを盛り込んでいく。小林氏は「研究者が行う研究が社会のために役立つ」ことを認識させることがプログラムに必要であるとした。
STAP細胞のねつ造疑惑などで、研究活動における倫理観の必要性が改めて問われているなか、不正行為への対応に関するガイドラインや研究者の倫理観を育成するプログラムの重要性・注目度は増すばかりだ。今後これらの進捗を確認するうえでもこうしたシンポジウムの意義は大きいと感じた。
【セミナーデータ】
- イベント名
- :研究倫理教育プログラム
- 主催
- :日本学術会議、文部科学省、科学技術振興機構、日本学術振興会
- 開催日
- :2014年7月29日
- 開催場所
- :日本学術会議講堂(東京都千代田区)



