セミナーレポート

人工的に雨を降らせる仕組み

日本学術会議のシンポジウムを取材

2014/7/22

 日本学術会議農学委員会はシンポジウム「人工降雨による渇水・豪雨軽減と水資源」を2014年6月26日に開催した。昨今では異常気象が話題となっているが、シンポジウムでは液体炭酸を用いて人工的に雨を降らせる技術について講演が行われた。

福岡大学教授 守田 治氏
福岡大学教授 守田 治氏

実験の変遷と液体炭酸法の登場


 福岡大学教授の守田 治氏は、講演で人工降雨に関する実験の変遷について触れた。守田氏は「研究者にとって人工降雨の実験は困難が伴ってきた」と説明する。日本ではこれまで1947年に九州大学と在日米軍、電力会社などで初のドライアイス散布実験が行われるなど、様々な人工降雨実験が行われてきた。しかし大気中の雲に水やドライアイスを散布するなどいろいろな方法が試されるものの、成功率は今ひとつだった。また室内の実験と違い、自然条件が絡むため実験条件のコントロールできないデメリットがあった。さらに似たような気象条件で実験を行っても、気象条件が全く同じということはなく、実験を再現することが困難だった。


 加えて飛行機をチャーターして実験・観測を行うため、多くの費用を要するという課題があった。そのため多くの研究者のモチベーションが下がる原因となっていたという。


 しかし1996年、米・ユタ大学教授の福田矩彦氏が、冬の時期にソルトレイク市にて自動車で走りながら液体炭酸を散布して霧を消すことに成功した。この「液体炭酸散布法」が、現在最も費用対効果の高い人工降雨法である。


液体炭酸による人工降雨実験


 液体炭酸散布法では、雲の底部の温度が0℃よりも低いことが条件。その雲に液体炭素をわずかな時間で空中散布するといったものだ。1gの液体炭酸で1014個の氷晶ができるという。この氷晶が雲の成長とともに降水可能なレベルに成長して、雨が降るという仕組みだ。


 守田氏は九州大学名誉教授の真木太一氏らと2012年2月27日に三宅島周辺で行った実験を紹介。飛行機に搭乗して雲頂高度2000m以下の積雲に液体炭酸を散布。雲の雲頂高度が3500mに達したのを観測し、さらに4回の散布を行って観測したところ、降雨を確認することができたという。


 また、真木氏はこの例の他にも、2013年12月26日に佐賀県で実施したものを始め、多くの実験で人工降雨を成功させていることを報告した。真木氏は「実験状況がそろえば、ほぼ間違いなく人工的に雨を降らせることがわかってきた」と説明。今後は降雨実験の実施マニュアルをつくっていきたいとしている。


 こうした実験ではコンピュータを活用した数値シミュレーションが効果を発揮する。三宅島周辺で行った液体炭酸散布実験でも、事前に数値シミュレーションを行い、液体炭酸の散布を行った場合と行わなかった場合を比較し、散布の効果を調べたという。

九州大学名誉教授 真木太一氏   海洋研究開発機構アプリケーションラボ 
山形俊男氏
九州大学名誉教授 真木太一氏   海洋研究開発機構アプリケーションラボ 
山形俊男氏

異常気象についても講演


 一方、シンポジウムでは異常気象をもたらす気候変動現象についても講演が行われた。海洋研究開発機構アプリケーションラボの山形俊男氏は、1993年に東北地方で発生した冷夏について言及した。これはエルニーニョ現象と、「負のダイポールモード現象」が発生したためだという。


 ダイポールモード現象とはインド洋東側の海水温が通常より低くなり、逆にアフリカ側で高くなる現象のこと。インド洋東部に位置するオーストラリアで降雨が減少して干ばつが発生。またインド洋西部に位置するアフリカでは降雨が増加して洪水が発生するなどの影響が出る。この状態を「正のダイポールモード現象」という。2006年にも正のダイポールモード現象が発生し、ケニアで大洪水が起きたとのことだ。またこの現象ではインド洋の海水の蒸発によって、上昇気流が強くなる。この気流がフィリピンや日本に下降。太平洋高気圧を招き、日本では猛暑になるという。


 反対に「負のダイポールモード現象」とはインド洋の東側の海水温が通常よりも高くなる現象のこと。対流活動も活発化し、日本でも突風・豪雨を引き起こすなど、大気が不安定になるという。


 こうしたダイポールモード現象が引き起こすような異常気象は、スパコンで予測できるようになってきている。山形氏のグループでも2005年に初めてダイポールモード現象を予測することに成功した。しかも予測精度はかなり向上してきているとのこと。山形氏は「気候変動でおきる異常気象は産業活動に影響を与える。こうした予測技術を向上させることは極めて大切だ」としている。


 人工降雨は北京オリンピックの際でも利用されるなど、知名度が少しずつ上がってきている。異常気象が取り沙汰される今日、注目の技術だ。研究が進むことにより、渇水が軽減されるのを願ってやまない。

(山下雄太郎)

注釈

*:エルニーニョ現象
ペルー沿岸化の海面水温が高くなることを起点に、各地の天候に影響を与える現象。日本では低温・多雨になりやすいとされている。

【セミナーデータ】

イベント名
:人工降雨による渇水・豪雨軽減と水資源
主催   
:日本学術会議農学委員会
開催日  
:2014年6月26日
開催場所 
:日本学術会議講堂(東京都港区)

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