セミナーレポート

ICTの将来を担う「尖った」人材の育成

イノベーションを起こす人材を生かすために

2014/5/26

 あらゆる業種のインフラとして、あるいはイノベーションの起爆剤としてICTには様々な要求が課されてきた。ICT業界は、特に尖った人材によって切り開かれてきた前例があり、日本においてもそうした人材の育成が望まれてきている。2014年4月30日、日本学術会議は「ICTの将来展望と課題解決に向けて」と題した公開シンポジウムを開催し、ICT業界の人材育成、特に「尖った人材」の育成について講演を行った。

東京大学先端科学技術センターの森川博之教授
東京大学先端科学技術センターの森川博之教授

持続的な革新と破壊的な革新


 特別講演で登壇した東京大学先端科学技術センターの森川博之教授は「情報通信産業の成熟化に伴い、『性能を○%良くした』というような量的な向上よりも、より魅力的なサービス・品質を生み出す多様な研究が求められている」とし、近年ではイノベーションにも単純な技術的向上以外の要素が求められるようになったと話した。同じく特別講演で登壇した慶應大学環境情報学部の徳田英幸教授も「トヨタのカイゼンに代表される持続的なイノベーションは、日本が得意とするところだが、インターネットやその上でのユニークなサービスに代表される破壊的なイノベーションの創出が停滞している」と講演の中で指摘している。こうした現状を打破するためにもこれまでとは異なる、破壊的なイノベーションを行うことができる「尖った人材」が求められている。


 そもそも尖った人材とはどのような人材を指すのだろうか? 登壇した識者の間で共通して挙げられた項目が「何かしらの抜きんでた能力持つこと」だった。日本学術振興会 サンフランシスコセンター長の井筒雅之氏は、尖った人材像については単純に抜きんでた能力だけではなく「極めて高い集中力や突破力、攻撃力を備えた人材」と付け加えた。ところがこうしたイノベーションを起こせる極めて高い能力を持つ人材が、社会や組織において十全な能力を発揮できるような社会性を兼ね備えているかどうかは、抜きんでた能力とは無関係である。そのため、これまでは知らず知らずのうちに、優秀な人材が埋もれてきた可能性が高い。


 井筒氏は尖った人材の能力を生かすために「性格に多少難があったり、欠落している点があっても多様な人材の一部としてその様な人々を受け入れられ、活躍できるような包容力の組織や社会を実現する必要がある」と話している。さらに「組織で尖った人材の能力を引き出すようなメンターを育てメンタリングできる体制が必要不可欠である」として、多様な人材を生かすための体制づくりが企業に求められる、とした。

日本学術振興会 サンフランシスコセンター長の井筒雅之氏   尖った人材の育成、受け入れについて様々な角度から議論がなされた
日本学術振興会 サンフランシスコセンター長の井筒雅之氏   尖った人材の育成、受け入れについて様々な角度から議論がなされた

尖った人材+コミュニケーション能力


 では、尖った人材を受け入れるための環境は、現在どうなっているのだろうか? シンポジウム後半で行われたパネルディスカッションでは、幅広い分野で尖った人材の活用について詳しい識者から多岐にわたる意見が出た。前出の森川氏によると「以前に比べればベンチャーが出やすい風土が出てきている」ようだ。有能な人材は大企業に就職するという風潮が強かった中、近年では優秀な人材は自ら起業するという雰囲気が醸成されてきたという。


 とはいえ起業することは容易ではない。パネルディスカッションから参加した横浜国立大学大学院の河野隆二教授は「学生は見たことのないものについて納得しない」と話し、自らベンチャー企業を立ち上げて、学生たちの範としている。しかし起業をするには尖った能力とビジネス感覚の双方が必要になる。前述の通り、尖った人材の条件として「突き抜けた能力」は登壇者・パネリストの間で一致したものの、意見が割れたのがこうしたビジネス感覚などにも通じるコミュニケーション能力などの有無だった。


 突き抜けた能力自体、稀であるのにそれに加えてコミュニケーション能力を持つ人材が果たしてどれだけいるのか? どうやって育成するのか? 課題はまだ多くありそうだ。しかし、海外で飛びぬけたIT企業は、たいていカリスマと言うべき起業者によって成功しており、そうしたカリスマは、そのサービスの良さを広めることにも当然、長けている。日本からも成功者を出すためには、破壊的なイノベーションが起こすことができるカリスマとも言うべき指導者の出現が求められるだろう。カリスマを生み出す風土、土壌を業界的が作り出すための議論が、今後もより活発化されることが望まれる。

(井上宇紀)

注釈

*:メンター
「メンタリング制度」を請け負う人材のこと。メンタリング制度とは、キャリアの相談や業務の悩みなどを、組織上の上司ではない組織内の人材に相談したり、助言を受けたりできるようにすること。

【セミナーデータ】

イベント名
:ICTの将来展望と課題解決に向けて
主催   
:日本学術会議 電気電子工学委員会
開催日  
:2014年4月30日
開催場所 
:日本学術会議講堂(東京都港区)

【関連カテゴリ】

経営改善