セミナーレポート

「まさか」の事故を未然に防ぐ失敗学

東大大学院教授・中尾政之氏の講演を取材

2014/4/14

 2014年3月13日、日本品質管理学会は、講演「『つい、うっかり』から『まさか』の失敗学へ」を開催した。東京大学大学院工学系研究科教授・中尾政之氏による失敗学に関する講演が行われた。

会場には、日本品質管理学会に所属する会員企業の関係者が集まった
会場には、日本品質管理学会に所属する会員企業の関係者が集まった

「まさか」を想定した準備・訓練の必要性


 失敗学とは、過去に起きた重大事故など「大きな失敗」を分析し、同じ問題を繰り返さないようにするための学問のこと。東大名誉教授の畑村洋太郎氏が提唱し、畑村氏のもとで学んだ中尾氏もその研究を行っている。


 中尾氏は、東日本大震災をきっかけとして、対象とすべき失敗が「つい、うっかり」の失敗から、「まさか」の失敗へと世間的な関心が移っていると指摘した。「つい、うっかり」の失敗とはヒューマンエラーなどの小事故が数多く発生し、そのうちの1 つが、大事故を引き起こすというものだ。それに対して「まさか」の失敗は、いくつかの兆候や小事故を伴わず、いきなり大事故が発生する。「つい、うっかり」の失敗のように、事前に大事故を予防することができないのが特徴だ。


 「つい、うっかり」の失敗は想定内で発生頻度が高いため、企業は優先的に対処していく必要がある。そのため、「想定外で発生頻度が小さい『まさか』の失敗の対処がおろそかになりがちになる」と中尾氏は説明する。


 その「まさか」の代表的な事故だったのが、福島第一原発事故だった。中尾氏は事故を見た時に「大津波は想定外だったが、その対処は想定内だった」という意見を展開。「原発の全電源喪失」の発生確率が低いからといって放置せず、これを想定した準備をするべきだったとした。


 中尾氏は「全電源喪失は地震・津波以外にも起きるかもしれない。その事故を想定した準備を行っていれば、炉心融解は避けることができた」と説明。全電源喪失という「まさか」の事故を想定した訓練――具体的には原発のボイラー内にある炉心を冷却するために、安全弁やベント弁(内部の気体を外に廃棄する弁)を手動で開くためのバッテリーやベビコン(小型圧縮装置)をあらかじめ準備し、短時間で冷やすための訓練など――が必要だったとしている。


 また中尾氏は「米国は2001年の9.11テロ事件以来、飛行機が原発に飛び込むことを想定して対策してきた」と説明。日本もその通りに対策していれば、今回の福島第一原発の被害ももっと軽微になっていたはずだが、日本はテロが起きないと言って無視してしまったとしている。

講演する東京大学大学院工学系研究科教授
中尾政之氏
講演する東京大学大学院工学系研究科教授 中尾政之氏

品質維持に責任をもつ


 また、中尾氏は「まさか」の失敗を防ぐ対策として、建築物の安全管理についても言及。施設の竣工前だけでなく、竣工後も事故が発生しないように点検・確認を怠らずに行うことが大切だとした。


 近年ではインフラのメンテナンスでも、点検や確認を怠ったため、重大な事故につながるという事態がしばしば見られている。2012年12月に発生した、山梨県の中央自動車道笹子トンネル天井板落下事故もそのひとつだ。原因はコンクリートをつなぐ接着剤の疲労。トンネルを形成するコンクリートの接着点に隙間があれば、点検時に大きな音がするため、その違和感に気が付くはずだったと指摘する。ボストンの高速道路の天井版が落下した事故(2006年)も同じシナリオで起きているが、日本は違うとして無視したのも大きな問題だったとしている。


 この問題のように竣工時に問題がなくても、時間が経過すれば建物の老朽化だけでなく、組織的な気の緩みによって重大な事故が発生している。中尾氏は「まさか」の失敗を避けるために、点検・確認を怠らず、設計者・技術者が施工後も責任を持つべきだとした。


「違和感」を養うために


 中尾氏は日本の安全・品質を高めるには、例えば点検・確認の際などで「普段と何かが違う」という違和感を覚えられる人材の育成が重要であるという考えを示している。


 こうした違和感の重視は、工業デザインにも活かされている。例えばサントリーの発泡酒「金麦」。従来は食品業界でパッケージに利用する色と言えば「黄色、白、緑」が主体というのが、常識だった。しかし金麦は食欲減退のイメージのある青色を使って売り場を目立たせている。中尾氏は「工業デザインの教育を通じ、『使いにくい、危ない、おかしい』という違和感を養うことができれば、新しい製品にも結び付けられる」とした。


 「まさか」の失敗を防ぐためには、事前の準備を怠らないことが必要だ。また危機を未然に察知するなど「違和感」を覚える人材の育成もキモとなる。今回の講演ではそれらの重要性を痛感することができた。

(山下雄太郎)

注釈

*:炉心融解
制御棒など原子炉内の炉心を構成するものが、核燃料の温度上昇により融解すること。

【セミナーデータ】

イベント名
:日本品質管理学会 第118回講演会『「ついうっかり」から「まさか」の失敗学へ』
主催   
:日本品質管理学会
開催日  
:2014年3月13日
開催場所 
:東京国際フォーラム(東京都杉並区)

【関連カテゴリ】

経営改善その他