セミナーレポート

進む医工連携と研究の現状

医療ICTシンポジウムで最先端医療機器に関する講演

2014/4/10

 少子化、高齢化が進んでいく日本社会。高齢化に伴い、地域の格差や医療従事者の不足など、あらゆる面での医療関係のリソースの不足などが予想される。また、過日起きたような大災害時においても、国民全体の健康を維持するために、情報技術などの科学技術と融合させた新しい医療を発展させる必要がある。

 横浜国立大学と未来情報通信医療社会基盤センターは、2014年3月5日に医療ICTシンポジウムを開催した。産官学から情報技術などを中心とした「工学」分野と「医療」分野を融合させた新技術に関する講演や取り組みなどが発表された。

神奈川県知事、黒岩祐治氏
神奈川県知事、黒岩祐治氏

未病を治す社会


 基調講演に登壇したのは、元フジテレビのキャスターで、現在は神奈川県知事である黒岩祐治氏。黒岩氏は「超高齢化社会という課題先進県である神奈川県が行っている取り組みを、将来起こる社会問題を克服するための社会システムとして世界に発信していく」と話した。神奈川県の医療分野を軸とした取り組みは「ヘルスケア・ニューフロンティア」と呼ばれ、「医」分野の中でも創薬から介護ロボットまで多岐にわたっている。その中の1つに「未病を治す」というものがある。


 未病とは、病気ではないが何らかの不調、あるいは不調となる予兆がある状態のこと。健康と病気の状態には、きっぱりと境目があるわけではなく、実際には徐々に移行していくものだ。


 こうした健康と病気の間の曖昧なところは「未病」と定義されている。未病の段階で健康の側に引き戻すことができれば、使用する医療リソースを大幅に削減することができる。未病は病気になる前の状態のため発見が難しく、自覚症状もない場合が多い。しかし、ICT技術などを駆使して、こうした未病の「見える化」を行うことで未病の段階から治療を行うことができる。


 例えば、声だけによるうつ状態の診断ができるPST(音声病態分析技術)や、少量の血液中に含まれるアミノ酸濃度で健康状態がわかるアミノインデックスなど、わずかな情報から個人の健康状態を診断するツール。また、排泄物から健康情報を収集するトイレ、腕に巻くだけで日々の活動を記録したり、服薬の履歴を電子化したりといった日々の健康状態を管理するツールなど、未病を見えるようにするための研究は進められている。


 こうした研究が促進されるように、神奈川県は「京浜臨海部ライフイノベーション国産戦略総合特区」を設立。革新的な医療機器や医薬品、臨床研究、教育などが強化・促進されるように融通し、超高齢化社会に備えた研究開発を進めている。

会場に併設されたポスターセッション。講演になっていない取り組みもここで紹介された   横浜国立大学教授、河野隆二氏
併設されたポスターセッション。講演されない取り組みも紹介された   横浜国立大学教授、河野隆二氏

レギュラトリーサイエンス


 横浜国立大学教授の河野隆二氏は、長年にわたって医療ICTの取り組みを推進してきた。医療ICTシンポジウム内では、ユビキタスな医療に関しての研究進展などの報告を毎年行っている。2014年の講演では、こうした状況進展の報告に加えて、神奈川県が推進している「京浜臨海部ライフイノベーション国産戦略総合特区」における取り組みについても解説した。


 河野氏はボディエリアネットワーク(BAN)を中心とした、ユビキタスな医療体制の確立に向けて、通信規格の整理や通信モジュールの開発などを進めている。こうした最新の医療機器を、実際の医療現場で使うため必要になってくるのが安全性の評価だ。そして近年「レギュラトリーサイエンス」が安全性の評価基準として提唱されている。


 レギュラトリーサイエンスとは、医療機器や食品、薬品などを科学的な根拠に基づく方式で安全性を評価するための仕組みだ。河野氏は「京浜臨海部ライフイノベーション国産戦略総合特区」に、医療機器のレギュラトリーサイエンスによる安全性の評価解析センターを設立する旨を神奈川県・横浜市・川崎市に申請。情報通信研究機構(NICT)や厚生労働省管轄の医薬品医療機器総合機構(PMDA)などを巻き込んで、医工融合で研究が進められている最新医療機器のリスク・ベネフィットや、治験、承認する施設として計画を進めている。


 河野氏は、医療機器レギュラトリーサイエンス評価解析センターの設立により、今後は京浜地区における地域展開や、横浜国立大学がかねてより連携を進めているフィンランドオウル大学のあるオウル市への展開のほか、非医療分野への応用なども見込んでいるという。


 ほかにも、今回のシンポジウムでは複数の研究者からレギュラトリーサイエンスに関する講演が行われた。最先端の技術開発から安全性の評価へ。医療ICTの取り組みは次のステップへと進み始めているようだ。

(井上宇紀)

注釈

*:ボディエリアネットワーク(BAN)
Body Area Networkの略。センサー類を身体に付けることで個人の健康情報を収集し、外部の医療機関などに集積する、個人と外部ネットワークをつなぐ仕組みのこと

【セミナーデータ】

イベント名
:平成25年度医療ICTシンポジウム
主催   
:横浜国立大学、未来情報通信医療社会基盤センター
開催日  
:2014年3月5日
開催場所 
:パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)

【関連カテゴリ】

IT政策