セミナーレポート

タイ・ベトナムでの知財の守り方

中小企業向けの模倣対策セミナーが開催

2014/2/17

 反政府デモが続くタイで、2014年1月22日、首都バンコクに非常事態宣言が発令された。東南アジアの中でも比較的治安の良いタイでも、こうした政治的リスクが潜んでいる。

 特許庁が主催となって、一般社団法人発明推進協会が実施した「タイ、ベトナムの知的財産権制度と模倣対策」が、1月21日に東京において開催された。中小企業向けであるこのセミナーには、非常事態宣言発令の前日もあって360人を超える参加者が集まった。なお、同セミナーは22日名古屋、23日大阪においても開催された。

主催側も驚くほどの来場者数だった
主催側も驚くほどの来場者数だった

ベトナムの知財管理の現状


 第2次世界大戦後、ベトナム戦争、カンボジア侵攻、中越戦争という惨禍を経てきたベトナム。度重なる戦争で国内は疲弊したが、1980年代のドイモイ政策や1994年の米国による経済封鎖解除もあって、急速に復興・発展してきた。現在は日本政府による政府開発援助(ODA)を使って、ハノイ市内の交通機関にICカードによる支払いシステムの導入などが進められようとしている。


 ベトナムで知財関連の 法整備が進んだのも、この経済発展と切り離せない。特許弁護士チャン・フー・チャ氏は、特許関連の法律制定が「米国の経済封鎖解除が知的財産保護のきっかけだった」と語る。1995年に民法典が制定されて以降、2006年には知的財産法が施行された。ベトナムでの特許出願件数は2012年で3960件と、2006年の2倍近い数になっている。


 ベトナムで特許や商標の権利者が模倣被害にあった場合、行政手続きによって侵害が認められると模倣者に警告や罰金が科せられる。罰金は個人で最大2.5億ベトナムドン(1万2000米ドル相当)、法人で最大5億ベトナムドン(2万4000米ドル相当)となる。


 ただ、国内での模倣品流通は後を絶たない。ベトナムは国境での水際取り締まりを強化しているものの、国境線が陸海ともに長いため、全てのエリアで監視するのは難しい。港湾もさることながら、中国・ラオス・カンボジアと複数の国と接する陸路からの流入も多い。また、最近は海外製品だけでなく、ベトナム産の製品に対する模倣品も増えているという。


 チャ氏は「水際措置を利用するときは、税関と自社製品の特許や商標情報を綿密にやり取りする必要がある」と、進出企業も知財管理に力を入れるよう強調した。

参加者からの質問に答えるチャ氏   模倣品の実態を紹介する井口氏
参加者からの質問に答えるチャ氏   模倣品の実態を紹介する井口氏

タイ独自の「小特許」


 タイには、約3000社の日本企業が進出しており、日本人にもなじみが深い。また、ASEAN諸国の中でもタイへの日本投資は目立っている。知財については、国民全体の関心が高く、社会問題化しやすいという特徴を持つ国でもある。


 タイの知財は、特許については「小特許」と呼ばれる制度もある。小特許(Petty Patent)は、日本での「実用新案」に似ているが、新規性(発明の新しさ)と産業可能性のみが問われる。また、特許よりも権利取得が早いのが特徴だ。


 この小特許が問題になるパターンの1つに「合弁会社」がある。弁理士の井口雅文氏は、日本企業がタイの法人と合弁企業を例に挙げた。この合弁企業は、さる事情で合弁を解消してタイ法人Aと日本企業の現地法人Bに分かれた。この時、日本企業が移転した技術をタイ法人が小特許登録してしまい、現地法人Bに警告を送る、という事態になったという。合弁時に開発した知財の確保を日本側がしていなかったためだ。


 この事案はBが小特許審査請求をしてAの小特許自体が無効になったものの、解決まで3年かかったという。


 また、企業の周年行事には、タイの王族が列席することも珍しくない。国王を始め、王室を敬うタイでは「現地が舞い上がってしまい、その場で開発技術を詳しく記した書類を渡してしまうケースもある」(井口氏)と、王室への心酔が技術情報の流出につながることも少なからずあると指摘した。


現地での「技術開発」リスク


 生産拠点だけでなく、技術開発拠点もタイに置いている日本企業は多く存在する。「新たな知財の生産現場」となっている分、親企業による知財や技術移転の監視は必須だ。しかし、井口氏は「(タイ国内の)現場は生産・営業がメインで、知財管理まではとても手が回らないのが現状」と指摘する。


 現地法人の従業員が張りきるあまり、製品開発段階で競合他社ブランドの模倣をしてしまうこともあるというから、企業の知財管理は気を抜けない。


 企業の海外展開には大きなビジネスチャンスが転がっている半面、進出先の現場、取引先、政府当局の動向から独特の文化などを十分に理解していく必要がある。本社と現地での適切な知財管理で、日本のビジネスチャンスが広がることを期待したい。

(中西 啓)

【セミナーデータ】

イベント名
:タイ・ベトナムの知的財産権制度と模倣対策
主催   
:特許庁
開催日  
:2014年1月21日
開催場所 
:JA共済ビル(東京都千代田区)

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