セミナーレポート

スパコン技術を多彩な産業で応用

京の性能を用いた産業革新の実例を紹介

2014/1/30

 2013年12月18日に、スーパーコンピューティング技術産業応用協議会が「スーパーコンピュータの利用・応用に関するシンポジウム」を開催。京の性能を用いた産業革新の実例などが紹介された。

東京大学総長顧問 小宮山 宏氏
東京大学総長顧問 小宮山 宏氏

スパコンが拓く社会


 基調講演として、東京大学総長顧問である小宮山 宏氏は、プラチナ社会に関する講義を行った。小宮山氏は、エネルギーなどを大量に消費し人工物を大量生産する20世紀の社会から、資源などをほぼ自給自足するいわゆる持続可能型の社会へ転換すべきと話す。さらに、全体的に規模を縮小することで実現する消極的な転換ではなく、質を高めながらの転換を果たした社会のことをプラチナ社会と呼んでいる。


 プラチナ社会では、環境のみならず、超高齢化社会をも想定しており、日本が将来直面するだろう問題を克服した先にある理想の社会像であると言える。ICT技術を使いこれらの問題を解決したプラチナ社会を到来させるためには、「スパコンの性能は必要不可欠だ」と小宮山氏は話している。


スパコンがもたらした革新


 基調講演の後は、スパコンを利用した実際の製品開発状況などについてメーカー側からの講演があった。大日本住友製薬 ゲノム科学研究所インシリコ創薬グループ・グループマネージャーの山崎一人氏は、スパコンによって変わった「インシリコ創薬」について解説した。


 インシリコ創薬とは、in silicoと書く。創薬にはin vitro(試験管) in vivo(生体実験) in human(臨床)など様々な過程で開発されるが、その中でもsilico=シリコン内で開発される薬、つまりコンピュータ上のシミュレーションで開発される薬のことを指す。シリコンは半導体などに多く使われている物質である。


 これまでのインシリコ創薬の中心は、薬物と生体の反応(鍵と鍵穴の関係)のシミュレーションが中心だった。ケモインフォマティクスと呼ばれる化学と情報科学の融合した領域であり、実際の薬品や細胞などを取り扱わず、科学的な反応の結果をコンピュータ上の計算で出していた。


 ところが、実際に投薬を行う生体内には、環境や温度、挙動など「薬物―生体」間のみの反応では割り出せない情報がある。そのため、鍵と鍵穴の関係に基づく創薬には限界があった。とはいえ、実際に環境を含めたシミュレーションを行うとなると膨大な計算コストが必要になり、一企業が扱うコンピュータでは非現実的だった。


 ところが、京を扱うことで、これまで非現実的だった計算を行うことが可能になった。山崎氏は「京の導入により、インシリコによる創薬プロセスに変革が訪れる」と話す。新しい創薬に向けて現在、実証実験を繰り返しているとのことだ。

大日本住友製薬 山崎一人氏   産業応用協議会企画委員長 原田 淳氏
大日本住友製薬 山崎一人氏   産業応用協議会企画委員長 原田 淳氏

 リチウムイオン二次電池の、使うほどに容量が劣化するという充電サイクルへの耐性の研究や高速充放電技術にも、スパコンの計算能力は利用されている。リチウムイオン二次電池は内部の+-の電極間を、リチウムイオンが移動することで電気が発生する。しかし放電・充電を繰り返すことで、電気化学反応によって、それぞれの正極・負極の表面に被膜ができ、移動を阻害するようになる。これが充電容量の劣化する原因となっている。


 日産自動車総合研究所の大脇 創氏は、同社の取り組みとして、リチウムイオン二次電池の負極につく被膜の生成過程について京を用いてシミュレーション。被膜生成過程の解明を始めとして、まだブラックボックスが多い電池内での化学反応解明を進めている。


 ほかにも、日立製作所では空調に使われるファンの高効率化と低騒音化をシミュレーションすることで、空気の流れや音の浸透を京で計算して高精度の計算結果を出すなど、京は大量の計算を求められるシミュレーションにおいてその性能を発揮しているようだ。


スパコンをより活用する


 シンポジウムの主催である産業応用協議会からは、企画委員長の原田 淳氏が登壇し、スーパーコンピュータの産業界での利用促進活動の成果報告を行った。原田氏は「産業界においてシミュレーションのニーズは高いものの、スパコンの利用はハードルが高いと多くの企業は考えている」と現在の利用における問題点を指摘した。


 実際にシミュレーションの専門家を置けないような規模の組織では、スパコンに向けたチューニングを施すのは非常に難しい。「スーパーコンピュータを、真の競争力に結びつけるためには、まだまだ企業とのギャップが大きい」(原田氏)。今後はスーパーコンピュータを扱える人材の育成や、国・政府・官公庁への提言、産業界への普及啓発など、活用に向けた取り組みを進めていきたいとした。


 多くのリソースを費やし開発されたスーパーコンピュータだが、残念ながら、フル活用されているとは言い難い。京の平均占有率は現在約80%であり、空き能力は大企業が行っている処理の数十倍分に相当するという。さらなるスパコンの活用に期待していきたい。

(井上宇紀)

【セミナーデータ】

イベント名
:第6回スーパーコンピューティング技術産業応用シンポジウム
主催   
:スーパーコンピューティング技術産業応用協議会
開催日  
:2013年12月18日
開催場所 
:日本科学未来館(東京都江東区)

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