セミナーレポート

身近になった「クラウドソーシング」

「フリーランスによる過大評価」「ステマまがい」などの課題も

2014/1/23

 「テレワーク」「ノマドライフ」に近い働き方を提供している、クラウドソーシング。2013年12月16日に開催された情報処理学会の連続セミナーでは、産学双方の側からクラウドソーシングのあり方について講演がなされた。

クラウドソーシングの講演に耳を傾ける参加者
クラウドソーシングの講演に耳を傾ける
参加者

あの「文字認証」も実はクラウドソーシング


 「クラウドソーシング」と聞くと、クラウド・コンピューティングと同じようにネットワーク(クラウド)上で、仕事の受発注の場を提供すること、という言葉だと思いがち。しかし、クラウドソーシングの「クラウド」は、雲ではなく「Crowd(人ごみ)」の方だ。


 不特定多数とつながることができるネットワーク上で、多数の人的リソースから「仕事」の依頼~クローズまでを行う、というのがクラウドソーシングなのだが、実は様々な形態がある。


 近年、利用が増加しているのは、豊富な人的リソースを容易に収集できるネットワークの特性を利用した「ボランティア」だ。例えばWEB上の「質問コーナー」のように、相手に対して明確に依頼が出されているものがある。筑波大学のWEBサイトには、「書誌同定マイクロタスク」というサイトがある。ここをクリックすると、「1つの書誌情報と明らかに違うものを選んでください」という画面が現れる。ここで違うと思うものを選ぶと、結果が大学側に送られる仕組みだ。


 ほかにも本人には明示せずに、専用システムで処理をするものもある。例えば、TwitterなどのSNSにログインする際、画像になっている文字を2つ入力する時がある。筑波大学の森嶋厚行教授によると、1つは認証用だが、もう1つは「リキャプチャー」と呼ばれるものだという。


 ここに出てくるのは、スキャンした時に、OCR(光学式の文字読み取り装置)で認識できなかった古い書籍などの文字だ。これを判別するためのデータが必要になるが、膨大な書籍の誤認識した文字を打ち込むには気の遠くなるような作業と人手がいる。


 これを、本人認証の際の入力作業として組み込み、正しい文字認識をするための作業をさせているのである。「WEB上でのボランティア活動」といった具合だ。

講演するコーディネーターの森嶋厚行筑波大学教授   クラウドソーシング事情を解説するランサーズの木下慶氏
講演するコーディネーターの森嶋厚行筑波大学教授   クラウドソーシング事情を解説するランサーズの木下慶氏

ビジネスとしてのクラウドソーシング


 もちろん、ボランティア作業だけでなく、クライアント(企業など)と受注者(主にフリーランス)を仲介する場をWEB上で提供してビジネスを成立させる「クラウドソーシング」も注目を集めている。


 2008年に日本で初めてクラウドソーシングサービスを始めたランサーズ。同社の木下慶氏は「サービスが始まった当時は、当社しかなかった」と振り返った。現在のクラウドソーシングサービス市場は、2013年度で246億円を見込まれる(矢野経済研究所調べ)ほどの成長分野になっている。


 「クラウドソーシング」という仕事のスタイルが注目を集めたのは、テレワークの依頼がメディアで取り上げられるようになってからだという。依頼内容は、ロゴの作成、WEBサイトの構築など様々だ。仕事のやり取りは、クライアントと受注者が1対1で行うのが基本だが、WEBサイト構築、ページデザインやコーディングなど、それぞれの分野に強い人同士が集まって受注することもできるようになっている。この場合、クライアントは受注者の中でプロジェクトの「リーダー」1人とやり取りを行い、リーダーが仕事の進捗などを管理する、というスタイルになる。また、ロゴデザインなどでは、複数の受注希望者によるコンペ方式も採用されている。


 仕事を発注する企業側からすれば、フリーランスに注文することによるコスト減がメリットに挙がる。企業が製品のロゴ制作を発注する場合、デザイン会社に依頼するよりも、フリーランスに直接依頼したほうがコストの抑制になる。ほかにも、コンペに参加する人数やロゴの候補数も増え、様々なアイディアを莫大なコストをかけることなく集めることができる。


 ランサーズの場合、登録者約20.万人のうち、2000人程度がアルバイト程度の収入、200人程度がクラウドソーシングの仕事だけで生活ができる収入を確保しているという。


クラウドソーシングとトラブル


 クラウドソーシングの課題は、クライアントと受注者双方が評価できる仕組みだ。一見公平そうに思えるが、実際はクライアントに遠慮して「○○株式会社に星5つ」といった具合に、受注者が過大評価してしまうことが多い。


 こうした面については「どうしても表向きの評価はそうした傾向になってしまうので、非公開の『裏評価』で言えないところを書いてもらっている」(ランサーズの木下氏)などの対策を取っているという。


 クラウドソーシングは芽吹いたばかりと言えるが、企業に寄り掛かって働くことが今以上に難しくなる現在、すでに仕事のあり方として定着し始めている。ただ、一部のライターなどによる、クラウドソーシング業者絡みでの「ステマまがい」のトラブルも見られた。金銭が絡む以上、多少のトラブルは発生するだろうが、新たな働き方の芽が摘まれないよう、当事者はクラウドソーシングに対して「スマート」に接することが求められるだろう。

(中西 啓)

【セミナーデータ】

イベント名
:クラウドソーシングとソーシャルメディア
主催   
:情報処理学会
開催日  
:2013年12月16日
開催場所 
:化学会館(東京都千代田区)

【関連カテゴリ】

クラウド