セミナーレポート

気候変動に対応した作物栽培技術

日本学術会議主催のシンポジウムを取材

2014/1/23

 日本学術会議が2013年12月13日、東京大学本郷キャンパスで「気候変動に対応した作物栽培技術の現状と展望」を開催した。温暖化などによる気候変動が及ぼす作物への影響とそれに対応するための研究について講演があった。

シンポジウムの会場は満席となり関心の高さをうかがわせた
シンポジウムの会場は満席となり関心の高さをうかがわせた

日本に迫る温暖化の影響


 フロンガスなどの温室効果ガスの放出や森林の破壊により、気温の上昇や降水量の変化がみられるなど、「温暖化」が各地で起きている。この温暖化は作物にも大きな影響を与えている。平均気温が1℃変化すると、ストレスによる植物間の競争力低下で、森林を形成する3%の植物種が失われるという。


 また、近年では害虫の発生や乾燥化によって、土壌荒廃などの影響が増大している。そのため食物の生産量に多大な被害を及ぼす有害生物の管理は必要不可欠となっている。


 岡山県農林水産総合センター生物化学研究所の白石友紀氏は、土壌病害の一種である「青枯病」を紹介した。青枯病とはトマトやナス、トウガラシなど200種以上の食物に感染し、青々とした状態のまま急速に枯死してしまうもの。この青枯病が温暖化によってチェコや英国など今まで発病しなかった地域にまで広がりを見せている。今後温暖化が進むと、寒冷地とされていた場所にまで移行する可能性があるという。


 さらに白石氏はイネを食べるウンカ類などの害虫が、温暖化により熱帯・亜熱帯地域から日本に侵入していることを指摘した。特に東南アジアや中国本土のような地域から日本に飛来しており、2013年は西日本の水田で「坪枯」(トビイロウンカが作物に集中して被害をもたらす現象)が多く見られたという。さらにウンカによって中国やベトナムで多発していたイネの病気が、九州地方を中心に確認されるなど、温暖化による作物への被害は後を絶たないのが実情だ。


落葉果樹への影響


 また、京都大大学農学研究科の米森敬三教授は、日本でも平均気温が100年間で1.07℃上昇している点や、100~200mm以上の降水量の日数が増加している点など、いくつかの温暖化の兆しを指摘。そのうえで果樹栽培における地球温暖化の影響として、高温による生育後半の着色不良、極端な高温による日焼け、果肉障害などを挙げた。


 ブドウの着色は低温の日数が必要とされるが、この着色が十分なされていない。また温州みかんでも、高温多湿のため果実の中身よりも外の皮の成長が早まる「浮き皮」(皮と実の間に隙間ができる現象)が各地で見られているという。このように果樹栽培においても温暖化が原因とされるような様々な現象が確認されている。


 米森氏は「今後の温暖化の状況を見極め、その影響を冷静に判断する必要がある」としている。

岡山県農林水産総合センター生物化学研究所 白石友紀氏   東京大学農学生命科学研究科
教授 大政謙次氏
岡山県農林水産総合センター生物化学研究所 白石友紀氏   東京大学農学生命科学研究科
教授 大政謙次氏

画像情報などの温暖化対応技術


 東京大学農学生命科学研究科教授の大政謙次氏は、こうした温暖化による農作物の変化を画像情報などによって観測するシステムを研究している。


 温暖化による農業分野の影響予測は、全球気候モデル(地球の気候を再現し、気候の変化を再現するモデル)による予測結果を、より細かい画像情報に細分化して地理空間情報と組み合わせて使うのが一般的だ。


 この方法に加えて、大政氏が提唱・研究しているのがより詳細な地理空間情報・リモートセンシング(遠隔地からの測定)データを使う方法だ。例えば、15分程度の飛行ができる小型ラジコンにカメラを積んで、農場を空撮する。そこで得た画像情報から土壌中の窒素含量などを調べれば、農作物の肥料の適切な与え方がわかる。


 また大政氏はコロンビアの国際熱帯農業研究センター(CIAT)と共同で行っている研究を紹介した。育成中の植物を遠隔から広範囲で画像計測することで、窒素利用効率のような植物に関する情報を得ようという試みだ。


 CIATの水田に形質の違うイネの品種を栽培し、インターネットを利用して東大の研究室から画像上で解析を行う。また、東大の研究室からCIATのカメラで観測も可能。大政氏はCIATとの共同研究によって、乾燥に強いイネの開発に結びつけるのが目標だという。


 大政氏は「リモートセンシングなどの技術は作物の栽培診断に大いに役立つ。今後もより多くの情報を得るためICTを活用し、農作物の変化を調べていきたい」と意気込みを伝えた。


 温暖化によって進む農作物の変化。その影響を追いかけるために、画像情報などICTを使う研究が進んでいる。温暖化による変化に即座に対応していくためにも、技術の向上が必要不可欠だ。

(山下雄太郎)

【セミナーデータ】

イベント名
:気候変動に対応した作物栽培技術の現状と展望
主催   
:日本学術会議
開催日  
:2013年12月13日
開催場所 
:東京大学弥生講堂(東京都文京区)

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