セミナーレポート
食品の産地を科学的に証明
東京電機大学でシンポジウムが開催
食品の産地を判別する科学技術に関するシンポジウムが2013年12月4日、東京電機大学東京千住キャンパスで行われた。これまで何度も社会問題となってきた食品の産地偽装。シンポジウムでは正確な産地を把握するため、食品の産地を科学的に分析する手法に詳しい専門家が招かれて講演が行われた。
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| 農研機構食品総合研究所 安井明美氏 |
蛍光X線を用いた科学的な分析
食品の産地や生産履歴を追跡するトレーサビリティ。このトレーサビリティには、ICタグを利用した「電子的手法」のほか、元素を分析して産地を判別する「科学的手法」がある。
食物を構成している物質の中には、その起源を示す情報が存在している。東京理科大学理学部教授の中井泉氏は「高感度の分析を用いれば物質に潜在する過去の情報を読むことができる」と説明した。
中井氏は物質の情報を調べる科学的手法「蛍光X線分析」について解説した。これはX線を物体に照射することで、物体を構成する元素や濃度を調べる手法。例えば、世界各地のコーヒー豆に含まれている微量な元素を分析すれば、ニッケル(Ni)が多いものはベトナム産、マンガン(Mn)が多く含まれるものはコロンビア産、といった具合に判別できるという。
中井氏は他にも、自身が開発する「土砂の法科学データベース」について紹介した。例えば、鉱物の一種、角閃石は四国北部、ジルコンは四国南部の土地に多く含まれている。仮に殺人事件が起きたとして、現場で採取したサンプルを分析して、こうした鉱物が含まれれば、犯人逮捕の重要な手がかりにすることができるとしている。
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| 東京理科大学教授 中井泉氏 | 農研機構食品総合研究所 鈴木彌生子氏 |
軽元素安定同位体比からもわかる食品の産地
また、農研機構食品総合研究所の鈴木彌生子氏は「多元素安定同位体比解析」による産地判別方法を紹介した。これは食品などに含まれる窒素・炭素・酸素・水素などの軽元素の安定同位体*がどの程度の割合で存在しているのかを調べるといったもの。試料(サンプル)を乾燥させて粉末化し、分析装置を用いて解析する手法をとる。
植物や動物の餌や肥料を構成する安定同位体は、生育した環境を反映しているので、指紋やDNAとのように重要な情報となる。植物や動物が摂取したものを調べれば、それがどこの起源なのかを調べられるとしている。
例えばトウモロコシやサトウキビなどの植物は炭素同位体比が高く、リンゴなどの果物やハチミツは低いという特徴をもつ。そのためトウモロコシ・サトウキビから作られた糖が、果汁に添加されたかどうかを同位体分析で判別ができる。「100%の柑橘類ジュース」と表示されていた試料についても炭素同位体比を測定することで、「実は多くの糖が添加されていた」という結果が得られるなど、実際に確かめることができるとしている。
同様に、日本国内で流通している牛肉の炭素同位体比を測定することで、その牛肉がどんな産地で育てられたかの判別が可能だ。例えば米国産の牛は飼育の際にトウモロコシを与えられているため、炭素同位体比が高くなる。逆に、牧草などを与えられている日本の牛などは炭素同位体比が低い、という特徴をもつ。
一方、牛肉の酸素や水素の同位体比は、飲み水を反映する。オーストラリア産牛肉はその土地の水の特徴を反映して酸素同位体比が高いという特徴をもつ。このように牛が摂取する食べ物や飲み物をみればどこで育ったかが判別できるというわけだ。
こうした手法は異物混入に関する検査にも応用できる。中国の缶詰から毛髪が検出された際も、中国の缶詰作業中の際のものか、日本で開封された時に混入されたものなのかが、髪の毛の安定同位体比をみれば判別できる。
同位体分析は、その正確性から注目されることも多いが、あらかじめサンプルを収集して調べておくことがキモとなる。鈴木氏は「トウモロコシ畑など実際に産地に出向き、サンプルを採取して調べることで、産地で作られたものから実際にどんな数値が得られるのかを普段から検証しておくことが必要である」としている。
食品の産地偽装が注目されているなか、こうした科学的手法で確実に産地を証明することができれば、食品の表示が信頼できることがわかり、消費者にとっても大きなメリットとなるに違いない。科学的手法のさらなる発展に注目していきたい。
【セミナーデータ】
- イベント名
- :食品の産地を判別する科学技術
- 主催
- :日本分析化学会 表示・起源分析技術研究懇談会(後援:東京電機大学)
- 開催日
- :2013年12月4日
- 開催場所
- :東京電機大学(東京都足立区)
【関連カテゴリ】
その他




注釈
*:安定同位体
元素の原子核は陽子・中性子で構成されているが、中性子の数が違うものも存在している。これを同位体と呼ぶ。この同位体のうち、常に安定して存在し続けるものを安定同位体としている。例えば炭素では、12Cと13Cが安定同位体となる。