セミナーレポート

「スマートシティ」は住みたい街になれるか?

情報処理学会・連続セミナー2013、第5回

2013/12/19

 「スマートシティ」という言葉が聞かれるようになってからしばらく経つ。IT系の展示会でも、太陽光パネルを搭載した建物が立ち並ぶ街の模型をよく見かける。しかし、実際の街中が目に見える形で変わっているかといえば、そうは思えない。

 スマートシティとはどういうものなのか? 本当に実現するのか? 2013年11月14日に行われた情報処理学会の連続セミナーでは、「スマートシティ」の実現へ向けたプロジェクトを実施している自治体などから、都市開発の現状について報告がなされた。

スマートシティの模型(2011年スマートグリッド展より)
スマートシティの模型(2011年スマートグリッド展より)

既存の都市開発では限界がきている


 「みなとみらい21地区」を始め、多数の観光スポットを持つ横浜市。特に港の見える丘公園から山下公園付近一帯は、条例によって徹底した都市景観の保護が行われている。


 一方、日産自動車本社があるなど、ビジネス拠点でもある同市は、世界銀行が選ぶ環境面と経済面で優位性のある都市に、日本から唯一選出された。同市は「自然環境やエネルギー、文化・産業をICTで結ぶ」というビジョンのもと「横浜スマートシティプロジェクト」として、エネルギー利用を含めた社会システムの実証実験が進められている。


 プロジェクトの1つにデマンド・レスポンス(DR)がある。DRは、企業や家庭などの利用者側で、ピーク時の電力利用を控えめにすることだ。横浜市では2013年の夏、14棟のビル・工場・マンションなどを利用したBEMS(ビルのエネルギー管理システム)の一環として、DRを実施。ピーク時の電気料金を他の時間帯よりも高めに設定した。その結果、ピーク時電力使用よりも最大で約22%と、削減の目標値(20%)を上回る結果となった。


 DRの実証実験は大口需要家だけでなく、家庭でも行われた。このプロジェクトでHEMS(家庭用エネルギー管理システム)が導入された約2500世帯のうち、1900世帯でDRを行ったところ、BEMSと同じように、ピーク時の電力利用の削減に成功したという。

横浜市のスマートシティイメージ 出典:横浜市(クリックすると拡大します)
横浜市のスマートシティイメージ 出典:横浜市
(クリックすると拡大します)

北九州市・「復活」のノウハウ売り込む


 横浜市が「これからのモデル都市」ならば、福岡県北九州市は「公害克服を学べる都市」といえる。明治時代の殖産興業を象徴する「八幡製鉄所」から始まった北九州市は、工業都市の代表格。その影響で1960年代は公害に悩まされた。「しかし、現在は公害を克服した都市として、アピールできる」と述べたのは、同市の環境局長・松岡俊和氏だ。


 北九州市は、劣悪な公害から立ち直ったプロセスを、同じように成長過程にある新興国の都市に「立ち直りのプロジェクト」として促進するべく、海外に人材を派遣している。


 インドネシアのスラバヤにある工業団地では、2012年から北九州市や民間企業がコージェネレーション事業を展開。CO2排出抑制やLPGなどのエネルギー使用量を抑制した都市を「丸ごと」売り込んでいる。


家庭の停電時の電源にEV


 「スマートシティ」や「スマートコミュニティ」といった言葉とセットで語られることが多いEV(電気自動車)。日産自動車の二見徹氏によると、2011年の東日本大震災以降、注目を集めたという。需要過多で燃料が手に入らない状態になっていたガソリン車に比べ、インフラの中でも復旧が早い電気を利用したEVの方が活躍した。二見氏は「ロバスト性(外部の影響の受けにくさ)が一番高いのが電力」と強調した。


 ただ、急速充電スポットの設置には1台あたり80万円程度のコストがかかるため、設置側には負担がかかる。なので「商業施設の集客ツールとして導入」(二見氏)が多いという。千葉県のマザー牧場にある急速充電スポットもその一環だ。


 また、EVというと「環境保全」というイメージに目が行きがちだが、それだけではない。二見氏はEVの海外展開のポイントが、各国の「電力供給能力」にあるとした。「日本以外の国では、停電が頻発する。停電時にEVのバッテリーを使う、といった売り込み方ができる」と解説した。


 成長期を過ぎた日本では「これまでの延長で都市開発はできない」(横浜市温暖化対策統括本部の信時正人氏)という見方が強い。


 また、ガソリン車以外の「エコカー」では、水素自動車もある。しかし、一般家庭にも引かれており、インシデントが発生しても比較的復旧の早い「電気」を使うEVの方が、普及スピードの点からすると分がありそうだ。「スマートシティ」の構築は、一歩一歩進められている。

(中西 啓)

注釈

*:コージェネレーション
発電時に発生した排気ガスの熱などを、給湯・冷暖房に利用するエネルギー供給システムのこと。

【セミナーデータ】

イベント名
:産官学民融合で実現へ! スマートシティをデザインする
主催   
:情報処理学会
開催日  
:2013年11月14日
開催場所 
:化学会館(東京都千代田区)

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