セミナーレポート

利用者のニーズに合った図書館運営

第15回図書館総合展が開催

2013/12/5

 図書館に関する日本最大の総合展示会「第15回図書館総合展」が10月29日~31日にかけて開催した。リニューアルした武雄市図書館や、図書館が取り組む電子書籍の貸し出しサービスなど、利用者のニーズに合った図書館運営について講演が行われた。図書館関係者をはじめ、出版関係者・行政関係者が参加。過去最高の29,963人が訪れた。

図書館関係者や出版関係者などが集まった「図書館総合展」の様子
図書館関係者や出版関係者などが集まった「図書館総合展」の様子

武雄市立図書館論争も


 会場で行われたシンポジウム「“武雄市図書館”を検証する」では、武雄市図書館について意見が交わされた。佐賀県武雄市では、TSUTAYAを展開するCCC(カルチャ・コンビニエンス・クラブ)に、市立図書館の運営を委託し、2013年4月からリニューアルオープンしている。同図書館は利用者がセルフカウンターで本を借りるたびにTポイントが貯まるほか、スターバックスが館内に併設され、コーヒーを飲みながら本を読むことができるなど、従来の図書館には見られなかった試みで注目されている。


 アンケートの結果で利用者の83%が図書館を評価しており、6%が毎日足を運んでいる。武雄市長の樋渡啓祐氏は「図書館に縁遠かった層が、次々に足を運んでいる。CCCに運営を委託して行ってきた事業が実を結んでいる」とした。


 慶応義塾大学文学部教授の糸賀雅児氏は、この施策に異を唱えた。同氏は、利用者が貯めたポイントを使えるTポイント加盟店が、Tポイントを使えない店よりも有利になるため、行政による利益誘導ではないかと指摘。「Tポイントを武雄市内の店でどこでも使える『地域通貨』にすれば、公平性は担保できる」と述べた。


 また、来館者数について、対前年度比で353%増加したものの、貸し出し数は対前年度比178%に留まっている」と説明。必ずしも来館者数の増加が貸し出しの増加に結びついていないことを強調した。


 これに対して樋渡氏は「そもそも図書館に縁遠かった人は借りるのもハードルが高い。まず図書館に来てもらい、次に本を借りてもらうようにステップを重ねるのが大切」と反論。地域の活性化という面でも「タクシーの乗客車数、周辺の宿泊者数などが3割伸びている」と説明。さらに「図書館の近くに住んでみたい」という利用者の声を紹介し、同図書館が徐々にまちづくりのエンジンになっていると評価した。


 CCCの高橋聡氏は、これまでの武雄市図書館の運営を振り返り「武雄市民にとってどんな図書館が適切か考え取り組んできた」と強調。高橋氏は武雄市図書館について議論される際、従来の図書館像に対して武雄市図書館をあてはめるのは意味がなくなってきていると指摘。市民価値にとって大事な図書館は何か考えるのが重要であると結論づけている。

武雄市長 樋渡啓祐氏   図書館の電子書籍貸し出しについて話し合われたディスカッションの様子
武雄市長 樋渡啓祐氏   図書館の電子書籍貸し出しについて話し合われたディスカッションの様子

図書館が進める電子書籍の貸し出し


 シンポジウムでは図書館への電子書籍配信事業についても触れられていた。2013年10月には紀伊国屋書店、KADOKAWA、講談社が、公立図書館向けに電子書籍の配信する合弁会社「日本電子図書館サービス」を設立している。同社の設立に関わった紀伊國屋書店理事の牛口順二氏は「需要の多い出版社の出版物からサービスを開始し、著者の納得する形で調整を行っていきたい」と話した。


 一方、図書館でも電子書籍の貸し出しに関する実証実験が行われている。札幌市中央図書館では2011年から市民に利用モニターになってもらい、電子書籍の貸し出しサービスに関する実証実験を実施。2012年からは、仕様やコンテンツについて検討してきた。


 札幌市中央図書館情報化推進担当係長の淺野隆夫氏は「電子書籍に取り組んできたのは、社会に対してよりコミットすることが求められてきているため」と説明する。例えば、近頃は学校の授業でもタブレットや電子教科書が使われるようになってきている。こうした授業で使われる資料なども、電子書籍として貸し出して利用してもらうことで、図書館も社会に積極的に関与できるというわけだ。


 淺野氏は電子書籍の貸し出しなど、「図書館があってよかった」と利用者に思ってもらえるような事例を積み重ねることで、図書館のプレゼンスを高められるとしている。


 他方、コンテンツが揃わないと一部の人向けのサービスとなる懸念もある。そのため淺野氏は地域を紹介したコンテンツづくりに地元の高校生も参加してもらうなど、市民参加型のコンテンツを増やしていく構えだ。


 リニューアルした武雄市図書館や、図書館の電子書籍貸し出しサービスの登場など、従来の図書館では見られなかった展開について講演があった今回の図書館総合展。変化する利用者のニーズをくみ取った新しいサービスの状況を周知していくためにも、同展が担う役割は大きい。

(山下雄太郎)

【セミナーデータ】

イベント名
:第15回図書館総合展
主催   
:図書館総合展運営委員会
開催日  
:2012年10月29日~31日
開催場所 
:パシフィコ横浜(横浜市西区)

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